1分未満で50%充電できるって本当? 「超高速充電リチウムイオン電池」:5分で分かる最新キーワード解説(2/2 ページ)
数時間はかかるスマホ充電や電気自動車への実用的な充電が数秒〜数分でできるかもしれない。東京工業大学と岡山大学の研究チームがリチウムイオン電池充電の桁ちがいな超高速化を実証した。
「超高速充電リチウムイオン電池」の電極で何が起きたのか
さて、このような超高速充放電が可能になった理由は何だろうか。安井氏は、「私たちの研究の視点は電気化学というより材料科学。解明したいことを試行の連続で確かめていく。1年半から2年をかけて行ってきたこの研究では、実証段階の実験だけで300回、それ以前の段階での実験を合わせると1000回ほどになる。その中で新発見があった」と、以下のように語ってくれた。
リチウムイオン電池は身近な製品にはなったが、充放電の際の内部電極と電解質の接点(界面)で起きている現象は完全には解明されていない。特に研究チームが注目したのが、反応の副生成物である「SEI」(固体電解質界面:Solid Electrolyte Interface)という、電極と電解質の界面に生成して電極を覆う皮膜である。その組成や生成メカニズムの解明は不十分なのだが、SEIがイオンの移動の邪魔をして充放電の効率を悪くしていることが予想されている。一方、岡山大学の研究成果ではLCOの表面へBTOをはじめとする酸化物微粉末をコーティングすると繰り返し使用可能なサイクル数が増加し、しかも高速充放電時の容量低下が抑えられ高速駆動が可能になることが分かってきた。このとき電極-電解質-BTOの界面(三相界面)でSEIの状態がどう変化するのかを観測するため、研究チームは電極を取り出して走査型電子顕微鏡による観察が容易な薄膜電極を作製したのである。その作製にはLCO結晶を基板の結晶方位などの構造を引き継いで成長させるエピタキシャル成長という手法を用いた。上述の基板や電極の材質はエピタキシャル成長に適切なものを選んだ結果だ。
作製した薄膜電極で超高速充放電実験を行ったところ、上述のような結果を得たわけだが、同時にリチウムイオンが電極から電解質に移動するときの抵抗成分が約3分の1に減少していることもわかった。これが電池特性の変化に関わっていると考えられた。その要因を探ると、BTOとLCOと電解液が接する三相界面で電界が集中していることが計算科学から明らかになり、リチウムイオンの移動が促進されていることを予想した(図2)。安井氏は強誘電体の誘電率がこの現象に強く関与していると考えている。
図2 三相界面でのリチウムイオンの界面移動モデル (提供:東京工業大学)
その一方、三相界面の状態観察によると、BTOドット上と三相界面の近くではSEIがほとんど生成しないことも発見された(図3)。三相界面から離れた位置ではSEIが数十ナノメートル形成されていたにもかかわらずだ。BTOは化学反応に特別な関与はしていないので頷けるが、反応が激しく起きているはずの三相界面でSEIが生成しないことは、この実験で初めて発見された事実だ。その原因について、研究チームは今後さらに解明を進めていくという。
当たり前のように使っているリチウムイオン電池だが、まだまだ未解明な部分があり、その機能や性能に今後も改善あるいは革新の余地がたくさんあるようだ。今回の研究成果は強誘電体との組合せを正極側で試したものだったが、次は負極側での反応の解明を予定しているという。また他の研究では電極の材料の模索や形状の制御、ナノサイズ化、プロセス研究、液体の電解質を使わない全固体リチウムイオン電池の開発なども進んでいる。充電時間のストレスから解放される日が1日も早く来ることを願う。
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