2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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世界60カ国に250以上のグループ企業を有し、消費者向け製品、医療機器、医薬品の分野で数万アイテムに上る製品を提供する「世界最大級のヘルスケアカンパニー」ジョンソン・エンド・ジョンソン。その日本法人であるジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社は、コンシューマー カンパニー、メディカル カンパニー、ビジョンケア カンパニーの社内3カンパニーで構成されている。
このうち外科、内科をはじめ幅広い診療領域をカバーする医療機器、医療関連製品を取り扱うメディカル カンパニーでは、2018年末にRPAプロジェクトを本格始動。ユーザー部門とIT部門が役割分担をしながら二人三脚でプロジェクトを推進してきている。既に他部門や他リージョンからも注目を集めているという、同社のRPAの取り組みについて、関係者に話を聞いた。
■記事内目次
- より付加価値の高い業務へのシフトを目指しRPAに着目
- IT部門と現場の部門が協力しあいながら、RPAのガバナンスを制定
- 最も大切なのは現場が定性的な効果を実感できること
より付加価値の高い業務へのシフトを目指しRPAに着目
──阿部さんと守さんと西柳さんが所属するサプライチェーン デリバーと、岩倉さんと神谷さんが所属するインフォメーションテクノロジー本部、それぞれの役割についてお聞かせください。
阿部: ジョンソン・エンド・ジョンソンにおいて、幅広いグループ企業の購買管理、国内の顧客からの受注に始まり、販売までに至るまでのすべての物流を、3つのカンパニーを横断して担当するのがサプライチェーン デリバーです。
岩倉: インフォメーションテクノロジー本部では、メディカル カンパニー内のITを統括しています。
──最初はどのような経緯でRPA導入に至ったのでしょうか。
阿部: サプライチェーン デリバー内でRPA導入を検討し始めたのは、2017年初めのことになります。適切な製品を適切なタイミングで適切な場所に適切なコストでお客さまにお届けするという当部門のミッションをこの先も遂行し続けるためには、より付加価値の高い業務を担うように従業員の働き方をシフトしていかねばならないという課題感がありました。
そこで、課題解決のために有効なソリューションはないかインフォメーションテクノロジー本部に相談したところ、ビジネス部門主導で迅速に導入可能なツールとして推奨されたのがRPAだったのです。その後は、2つの部門が密に連携しながら入念な検証を進めていった結果、2018年末にジョンソン・エンド・ジョンソンにおけるRPAプロジェクトを本格始動するに至りました。
──導入したRPAツールは国内産のデスクトップ型の製品を選定されていますが、どのような理由からでしょうか。
神谷: ITについての専門知識がなくてもすぐに使いこなせる点を特に評価して、インフォメーションテクノロジー本部からこの製品の導入を勧めました。
守:我々ユーザーの立場としても、「専門知識がなくても使える」という間口の広さは安心感につながりました。加えて、国内でのシェアの高いツールであるため、参考にできる他社での活用法が多かったり、将来にわたり安定したサポートを見込めたりという点も、安心できる大きなポイントでした。
──実際に使用してみた感想はいかがでしたか。
西柳: 私は他のメンバーに先駆けて実際に使ってみたのですが、チュートリアルで少し触っただけですぐに実業務で使えるロボットを開発できたのは驚きでしたね。私の場合はVBAやOffice製品のマクロ作成の経験がありましたが、これであれば特にそういった経験がない他の人も簡単な研修のみで使えるようになると確信できました。その後の検証期間中には、自身が担当する業務を遂行してくれるロボットを、試験的に開発していきました。
守: 次々とロボットを開発していく西柳さんの姿を見て、サプライチェーン デリバー内の他のメンバーもRPAの価値を実感することができたと思います。
IT部門と現場の部門が協力しあいながら、RPAのガバナンスを制定
──RPAの導入に当たって特に注意した点などはありますか。
岩倉: 特にRPA運用時のセキュリティ面に注意を払っています。検証を進めていく中では、サプライチェーン デリバー部門と協力しあいながら、入念なアセスメントを実施しています。
──とりわけセキュリティ面に配慮した理由は何でしょうか。
岩倉: RPAはいろいろなことができてしまうツールなので、自由度を重視しつつもガバナンスを効かせる必要もあると判断したからです。そのため、セキュリティ面を中心として、ユーザーに最低限守ってもらうことを明記したガバナンスルールづくりを現在も両部門で相談しながら進めているところです。
たとえば、RPAのシナリオが作られた際には管理用のファイルにまとめて一覧として見られるようにしています。どこでどのようなシナリオを作っているのかを把握できるようにするためですね。さらにその影響範囲などを鑑みて、重要性が高いものであれば、もし止まってしまった場合にどう対応するのか、あらかじめユーザーに考えてもらうようにとも考えています。
──どのような業務をRPA化の対象と考えていますか。
神谷: RPAのメリットを最大限に享受できるよう、頻繁に発生する定型化された業務を最優先にロボット化することにしています。
──既にRPA化している業務にはどのようなものがあるのでしょうか。
阿部: 基幹系システムに登録された病院情報を別のWeb系システムに登録する業務など、従来手作業だったいくつかの業務は既にRPA化しています。その効果もあってか、任意で開発者を募ったところ、200名弱のサプライチェーン デリバー部門の内、実に4分の1にもなる53名が手を挙げました。直接ITに係ることが少ないチームからも希望者が多く、これは嬉しい誤算でした。
──希望者に対しては、どのような体制で育成を行ったのでしょうか。
守: 2019年4月のRPAの本格展開に向け、ヒューマンリソシア株式会社の支援のもと、開発を希望した53名全員に初級講座を受講してもらいました。それと同時に、週2回の技術相談会も実施して、疑問をエンジニアに質問できるようにもしています。こうしてRPAについての理解が深まっていった結果、既に35名は独自にシナリオを構築できるレベルに至っています。現在では、開発希望者たちから、メールによる業務の進捗状況についてのレポーティングの自動化や、各倉庫で行われている庫内の作業の進捗具合のKPI管理の自動化など、RPA化の提案も続々と寄せられている状況です。
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──一足先に数多くのロボットを開発している西柳さんはどのような効果を感じていますか。
西柳: これまで、日頃から面倒と感じていた繰り返し作業などをRPA化していった結果、自分にとってよりコアだと考えられる業務へと集中できるようになったと実感しています。
最も大切なのは現場が定性的な効果を実感できること
──RPAを活用する側としての今後の展開について教えてください。
阿部: 地盤はかなり整ったので、ここから積極的な展開を図っていきたいですね。何時間の業務を削減できたなど、数字で示される効果も大事ですが、より付加価値の高い仕事に時間を使えるようになったという感覚を、いかに現場の人々に抱いてもらえるかが、今は最も重要だと考えています。
守:そのような定性的な効果を現場が実感できることで、さらに自由な発想や高いモチベーションのきっか西柳けにできればと、私も期待しています。
西柳: 既に社内SNSのコミュニティではさまざまなシナリオが共有されているので、他のチームへの展開もスムーズにいくのではないでしょうか。私としても積極的にサポートしていきたいですね。
──インフォメーションテクノロジー本部としては今後RPAをどのように普及していきたいですか。
岩倉: サプライチェーン デリバーの取り組みは全社的に注目を集めていまして、その影響から他部門、さらには他のリージョンからもRPA化の声が挙がっています。全部門の業務の効率化や働き方改革の推進が我々のミッションなので、RPAを全社的に盛り上げていきたいですね。
──これまでの取り組みを通じて、RPAを導入する際に抑えるべき最大のポイントは何だと考えますか。
阿部: RPAツールに触れていると、ロボットが動いて喜ぶような心から楽しむ人と、そうでもないという人とに二極化しがちです。そのため後者にも自発的に取り組んでもらえるよう、やらされているという感覚を抱かせないようにいかに気持ちを盛り上げていくかが大きなポイントになってくると見ています。
神谷: やはりユーザーの自由度とガバナンスのバランスが肝となってくるでしょう。まだまだこれからが本番ですが、まず現場の視点を考慮しながらルールを設けるとともに、実際に運用しながら適宜修正を加えていくことが最適解だと考えています。
──IT部門と現場の部門がそれぞれ役割分担しながら協力することで、RPAならではの現場の自由度とガバナンスの両立を図っていけるという大変貴重な取り組みをお聞かせいただきました。本日はありがとうございました。
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