認識率だけじゃない、AI画像認識で効果を出すために必要な2つの視点:分かったつもり? AI画像認識(1/2 ページ)
AI画像認識の適用を検討する場合、対象物を何となく認識できた時点で、もうシステムができ上がったかのように勘違いしてしまう方が多いようです。しかし、AIによる画像認識は、全体システムの中の単に1パーツにしか過ぎません。次に何を考えるべきでしょうか。
監修:中尾雅俊
パナソニック ソリューションテクノロジー AI・アナリティクス部ソリューション推進課 主事
2017年にNVIDIAとの協業を担当したことを皮切りに、AI・データ分析中心の業務を推進。初期投資や導入リスクが大きい、「人工知能の現場導入で失敗させない」活動としてセミナー講演など多数実施。受講者からは、「AIがよく理解できた」「そんなノウハウを話しても良いの」と心配されるほど。最近の趣味は実用を兼ねたDIYや果樹菜園など。
監修:矢嶋 博
パナソニック ソリューションテクノロジー 産業IoTSI部ソリューション推進課 係長
製造業向け「AI画像認識ソリューション」のSEとして、営業支援やPoC推進を担当。ソフトウェア開発からITインフラ構築まで、これまでの幅広い経験を生かし、AI画像認識システムの提案から導入、AI学習トレーニングまでを手掛けている。趣味の風景や家族写真撮影に加え、学習用画像収集をライフワークにしている。
前回は、AI画像認識を製造現場に適用する場合に、以下の3つのステップが必要だと説明しました。その上で、第1ステップの「画像認識の可否評価」では、そもそも画像認識を適切に行えるかどうかを確かめるために、AIに学習させるための画像(教師データ)集めや、画像の中の認識対象物を指定するラベル付け、教えた画像自身を認識できるかの評価を行う必要があると解説しました。
今回は、第2ステップである「システム化の条件評価」、第3ステップの「ステム化による効果の評価」について、何が必要なのかを見ていきましょう。
AI画像認識を活用するためのステップ | |
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第1ステップ | 画像認識の可否評価 |
第2ステップ | システム化の条件評価 |
第3ステップ | システム化による効果の評価 |
第2ステップ システム化の条件評価
システム化の条件評価とは、収集した画像を用いて、ユーザーが目的とするシステムを本当に構築できるかどうかを評価するステップです。
例えば、製造現場での「モノの分類」のAI画像認識を使い、業務の効率化に役立てようとした場合、以下のようなシステム化が考えられるでしょう。
- コンベヤーを流れる段ボールに「危険物」ラベルが貼ってあるかどうかをチェックして、危険物ラベルがないものを自動で抜き出す
- 「モノの種類」をAI画像認識に判断させ、処理を自動で分岐させる
- キズなどの条件を検知して、不良品である可能性の高いモノを何らかの方法で他からより分け、人によるチェック、対応を求める
第1ステップでは、対象物がAIで認識・判別できるかの評価を行いましたが、システムに組み込んで利用するには不十分です。例えば、1つの画像を認識するための処理時間が1秒であるのに対し、コンベヤーの速度が速く、1秒間に2個の段ボールが通過してしまっては、処理が間に合いません。
または、ラベルがカメラと逆側に貼ってあるかもしれませんし、複数の段ボールが積まれた状態でラベルを隠しているかもしれません。現場で使える頭脳に仕上げること、そして、その頭脳を使ったシステムとして基本的な動作要件が満たされることを確認し、不足する場合は対策して検証するのが、第2ステップです。
例えば、カメラと逆側に貼られたラベルは逆側にもカメラを設置すれば、認識できるようになりますが、画像認識する枚数が倍に増えてしまいます。撮影方向を斜めにすれば、同時に複数の面が見えるようになりますが、画像認識の頭脳は、「斜めでも認識できる頭脳」にブラッシュアップする必要があります。箱が重なって見えないケースは、「箱は重ねない」というように、現場の運用自体を変更するのが適切かもしれません。
こうしたシステムが「本当に構築できるのか」「仮に構築できたとして有効に機能しうるのか」「有効に機能しないとすれば、何をどうするのが適切なのか」といったことを明確にするのが、システム化の条件評価ということです。
このステップでは、収集画像を教師データとして学習モデルを生成し、評価します。具体的には、次のような流れになります。
- 現場の画像
- 大量の教師データの取得
- 学習モデルの生成
- 学習モデルの評価
学習モデルを生成したら、認識させたい新たな画像を使ってAIでの認識精度をチェックしてモデルを洗練化させていきます。
第3ステップ システム化による効果の評価
最後の3つ目のステップが、「システム化による効果の評価」です。システム導入の目的はシステムを使って、例えば、人件費を削減したり、労働者の作業負荷を軽減したりすることです。そのため、当初想定したシステムが、予定通りに動作したとしても、この目的が達成されなければ意味がありません。第3ステップは、この目的が達成できるかどうかを検証するためのステップです。
ただし、この評価を行うには、実際に現場でシステムが稼働した際の変化を、導入前と比較する必要があります。そのため、このステップは、AI画像認識を使ったシステムの運用を始動させたのちに行うことになります。システムの運用開始後、AIによる画像認識精度が当初の期待値を下回ることがあります。また、運用中に認識すべき対象が変化したり、広がったりする可能性もあります。
ゆえに、システムの運用に入ってからも、常に問題を整理し、AI画像認識の最初のステップに立ち戻って、課題の解決を図っていくことが重要になります。
3つのステップについて、それぞれのスコープを比較すると、図1のようになります。第1ステップでは、システムを実現する上で最もクリティカルな課題である画像認識が適切に行えることの検証。第2ステップは、その画像認識で出力された信号を利用して、想定する機能が期待する時間内に実行できることの検証。そして、第3ステップは、その実装されたシステムにおいて、期待する効果が得られることの確認です。
画像認識を使ったシステムを検討する場合、「対象物が認識できるか」というポイントにばかり注意がいってしまい、対象物が何となく認識できた時点で、もうシステムができ上がったかのように勘違いしてしまう方が多いようです。
AIによる画像認識は、あくまで、全体システムの中の単に1パーツにしか過ぎません。「対象物の画像認識ができる」というのは、システム開発の、ほんの最初のハードルをクリアしたにすぎないくらいに考えてシステム化に取り組むのが賢明でしょう。
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