日本企業が原因で「テープ」が不足している説:518th Lap
実は……という話でもないのだが、現在もエンタープライズITの現場で「磁気テープ」が使われている。「Linear Tape-Open(リニアテープオープン、LTO)」だ。
1980年代の記憶媒体と聞けば、フロッピーディスク以前に存在したカセットテープを思い出すかもしれない。その延長ともいえるのが「LTO」だ。2000年ごろに標準化され、ストレージのバックアップやアーカイブといった用途に使われている。
最新世代「LTO-8」は2017年に規格が制定された。既に2年も経過したのだが、LTO-7からの移行が進んでいないのだという。理由は「テープ不足」で、その原因が日本企業にあるというではないか。一体どういうことなのか。
「LTO-8が日本企業のせいで普及していないよ」という説を取り上げたのは、クラウドストレージサービスを提供するBACKBLAZEという企業だ。同社のブログは、「規格が策定され、対応ドライブ製品の発売が開始されて18カ月過ぎたが、LTO-8テープに実際にデータを書き込んでいる企業はほとんどない」という。
LTOは、規格が新しくなるたびに保存容量を倍にすることを目標としてきた。LTO-7で6TB、LTO-8で12TBという具合だ。データセンターで扱うデータ容量が急激に肥大化していることから関係者にとっては容量アップは魅力以外の何ものでもない。すぐにでもLTO-8に乗り換えたいのが本音だろう。
そこに立ちはだかったのが「テープ不足」だ。だが「買い占め」とかそういう問題ではない。
ここ数年で、LTOに対応するテープメディアを製造するメーカーの撤退が相次いだ。LTO-7規格に対応する認証テープを提供していたのは富士フイルムとソニーの2社のみ。2社がガッチリとシェアを握っている状態で、何と訴訟合戦が始まってしまった。
2016年、富士フイルムが特許侵害でソニーを訴えた。それを受けてソニーが富士フイルムを反訴した。その中でソニーが富士フイルム製テープの米国輸入停止を求めたものだから、ITC(米国国際貿易委員会)は訴訟問題が解決するまで両社のテープの輸入を停止すると同時に、国内での販売も禁止してしまった。
2019年3月、富士フイルムの主張を認める裁定が下されたが、ITCの規定は問題解決後も最低60日は経過を見守るとして現在も輸入は停止されたままだ。富士フイルムはLTO-7対応テープの製造再開を公表しているものの、LTO-8テープの製造については触れていない。ソニーもまた同様に、LTO-8テープの製造については明言を避けている。
LTOのドライブは2世代前のテープカートリッジまで互換性がある。ユーザーは容量増加を期待して新しい規格のドライブを購入したのに、肝心のテープが存在しない状態になっているわけだ。まさに宝の持ち腐れ。
BACKBLAZEは、解決の一案としてLTO-7規格のテープを購入し、LTO-8とLTO-7の中間規格である「LTO-7 Type M(M8)」と呼ばれる特殊なフォーマット形式でデータを保存することを提案する。9TBのデータが保存できるというが、互換性の面で不安な要素も少なくない。
ともかく、テープメディアを利用する現場で深刻な問題が起きていることはよく分かった。問題が早く解決することを望むばかりだ。
上司X: 最新のテープメディアが日本企業のせいで品不足になっているという話だよ。
ブラックピット: テープというと8ビットPCを思い出しますね。アレでロードしたブラックオニキスの楽しさと言ったら……。
上司X: データレコーダーってヤツだね。いつの時代の人間なんだよ、キミは。
ブラックピット: 冗談ですよ。さすがにフロッピーより昔のことは知りません。
上司X: なんだよ。
ブラックピット: それにしたって、最新のテープドライブを持っている人たちが最新の機能を使えないなんて納得いかないでしょうねえ。
上司X: 現場としては手元にバックアップを残しておけるからこそのテープメディアなんじゃないのかなあ。
ブラックピット: テープ不足が日本企業のちょっとした争いのせいだとは、新鮮なお話でした。
上司X: 俺もまったく知らない話だった。訴訟問題は解決しているようだから、テープの製造が始まるのを待つばかりだな。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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