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労働力の定義は「人」から「人+AI・RPA」へ――「バイトル」を運営するディップがロボット派遣を始めた理由とは

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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RPA BANK

これまで、自社でまかなうことができない労働力は、アルバイトや派遣社員など外部の力を借りるのが一般的だった。しかし最近では、働き方改革や深刻な労働力不足などを背景に、人間に代わる労働力としてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)デジタルレイバーの活躍に期待が高まっている。

アルバイト・パート求人情報サイト「バイトル」などを運営するディップ株式会社は、2019年4月1日に「AI・RPA事業部」を設立。さながら、“ロボットの派遣社員”を迎えるように、専門知識がなくてもAIやRPAをサービスとして簡単に利用できるようにするというものだ。

ディップはこれまで「バイトル」や「はたらこねっと」といった求人情報サイトの運営を主軸としてきただけに、この取り組みは異色だ。同社の既存事業の競合になるはずだが、なぜ今回の決断を下したのか。

同社執行役員で商品開発本部 次世代事業準備室/dip AI. Lab 室長を務め、自社での経験をもとにした「いちばんやさしいRPAの教本(インプレス)」の著者でもある進藤圭氏によれば、同社がRPAで60,000時間の削減に成功した経験を、新たな収益源へと昇華させるものであるという。

20年間にわたり労働市場と向き合ってきた同社が、働き方改革が求められる今の時代にどのような狙いを考えているのか、話を聞いた。

■記事内目次

<目次>

1.労働力の定義は「人」から「人+AI・RPA」へ

2. RPAで代替できない職種であれば、「仕事の奪い合い」にはならない

3.中小企業は労働力が限られるからこそ、1カ月で“すぐ使える”仕組みに

4.普通の会社が普通に使えるように。そして人は新しいキャリアをひらく


労働力の定義は「人」から「人+AI・RPA」へ

−まず、現在の労働市場をどのように見ていますか。

世の中の景気は良好ですが、支えて後押しする人手が足りていない状況ですね。それにともない、求人市場の動向も好調で、ディップの売上高も堅調に推移しています。

しかし同時に、人手不足によって景気の伸びが止まってしまって、せっかくの需要を刈り取り切れていません。たとえば、免税店では訪日客が列をなしているのに、対応しきれず機会損失につながっている様子を目にします。また、人がいなくて閉店を余儀なくされる店や、出店計画を縮小するチェーン店も出てきています。

私たちとしてはニーズに応えきれていない現状を変えたいのですが、少子高齢化による生産年齢人口の減少見通しから、今後も人間の労働力が増えるイメージが持てません。そこで、人の代わりに供給できる「ロボット派遣」によってニーズに応え、人手不足を解消したいと考えました。

これまで労働力の定義は「人」でしたが、「人+AI・RPA」へと変わります。私たちは「労働力の総合商社」として、求人広告による採用支援、そしてAI・RPAを活用したサービス提供の両軸で事業を推進して、労働力不足に貢献していきます。会社のビジョンとして「Labor force solution company」を新しく掲げたのも、その決意表明です。

RPAで代替できない職種であれば、「仕事の奪い合い」にはならない

−なぜ、このタイミングだったのでしょうか。

実は、数年前からこれらのサービスの全体像を描いていました。パズルのように必要なピースを埋めてきて、ようやく価値提供できる形が整ったのが今年だということです。

全体像についてこれまでの歩みと合わせてお伝えすると、2016年に日本初のAI専門メディア「AINOW」を開始し、AI専門組織「dip AI.Lab」を設立しました。

2017年からはAIスタートアップ支援制度「AI.Accelerator」、2018年には働き方改革に貢献するスタートアップに投資しはじめ、社内業務の自動化組織「dip Robotics」を設立しました。投資先企業の提供サービスにはマーケティングオートメーションやチャットボットもあり、組み合わせて必要なニーズを満たしていく計画です。

−しかし、ロボットが派遣されるようになれば、これまで行ってきた採用支援の事業を圧迫することになるのではないでしょうか。

求人という大きなくくりで捉えれば、そう思われるでしょう。しかし、ディップの強い領域は、製造業や飲食店などの現場で働く職種が中心です。

いずれもRPAで代替できない職種が多いため、仕事を奪い合う影響は限定的です。マイナスよりも、全体で見れば大きくプラスに働くだろうという計算が立ちました。

ロボット派遣のこれからの計画としては、まずは人事領域や人材派遣会社に注力する予定です。その理由としては、人事領域周辺は自動化する余地が大きいのでニーズも強く、なによりどんな会社にも存在するからです。

求人という事業であるために、当社の営業はもともと各社の人事担当者に接しているため、新たにRPAを紹介しやすい立場でもあります。延べ15万社以上の顧客基盤と約1,500名の営業人員という財産を、そのまま新事業に活用できる優位性があるわけです。

−なるほど、そうした背景があったのですね。顧客に提案したときに、「仕事が無くなるのでは」「自分たちには関係ない」といった反応はありませんか。

「パソコンの登場によって仕事が無くなりましたか」「パソコンの中で行っている業務を自動化して楽にするツールです」という説明をしています。

反応は非常に良く、興味はあっても中小規模の自分たちには距離があると考えていた企業からは、ようやく自分たちにも手が届くようになったと好意的です。

中小企業は労働力が限られるからこそ、1カ月で“すぐ使える”仕組みに

−手が届きやすくなるのは魅力的な一方で、ITリテラシーが求められるという問題もあります。そう簡単に使いこなすことができるのでしょうか。

そこでロボットのサポートはすべてクラウドにしました。バージョンアップなどの対応は中小企業において難しいため、メンテナンスフリーにすべきだという考えも働きました。

合わせて、RPAで何ができるのかという具体的なイメージがつかみにくい面もあります。そこで、できる機能ごとに「○○ロボット」など、わかりやすいパッケージ単位で提供しています。

開発済のテンプレートをベースにチューニングを施し、1カ月程度で稼働できるようにしているのが特徴で、現状の業務を変えずに人の代わりとして導入できる手軽さがあります。価格は規模や構成によりますが、一般的なニーズを満たすパッケージ構成であれば、安価な費用で始められます。

−パッケージ単位で導入できるのは確かに実用的ですね。一方で、業務の効率化については、現場単位ではなく全体の業務フローから見直すべきだというBPM(ビジネスプロセスマネジメント)のような方法論も耳にします。

実際に、そういった見解もあると思います。ただ、私はさまざまな企業のRPA導入を見せてもらう機会があるのですが、フローから見直していくことで負担が増えてしまい、退職者が出るといった負の場面を目にすることもありました。

特に上場前までの規模だと、一時的に大量の人材を投入することは困難なことが多いというのが私の感触です。

ディップ社内ではRPAで60,000時間を削減できた実績があるのですが、これはテンプレートをベースに展開した結果です。そのため、この形でうまくいくのだという実感を得られています。

現状で時間が無いわけですから、まず今を変えることです。時間ができることで、業務フローを見直したり、新しいツールを検討したりする余裕が生まれるようになるのです。

普通の会社が普通に使えるように。そして人は新しいキャリアをひらく

−今後の事業について、どのような目標を掲げていますか。

未上場規模の普通の会社が、普通にAI・RPAを使えるようにしたいですね。本来使うべき層なのに、本当に人が不足し効率化も進んでいませんし、AI・RPAもなかなか届いていないのが現状です。そのため、それらの層の企業についてRPAをAIなどで強化しつつ、さらなる価値へとつなげていきます。

当社としては、AI・RPA事業での売上高を5年後に450億円へと成長させる計画です。人口減少にまつわる課題先進国ですから、世界に輸出していきたいとも考えています。

−届けるべき企業にAIやRPAが届けば、将来的にどのような変化が起こりますか。

当社の例では、各種デジタルツールを導入することで業務の流れが自動化できるようになり、会社は大きくなっているのに、経理部門は小さくなっています。紙の伝票を処理していた経理担当者が、子会社管理や経営企画へと業務をシフトしているという現象も起こっています。

当社に限らず、AIやRPAが普及すればこのように職の流動が起き、新しいキャリアをひらく人が増えていくでしょう。そのとき私たちは、人事に関わる会社として新しい価値が提供できるはずですし、働く人が人にしかできないことに専念していけるようにしていきたいです。

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