2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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RPA BANKが2018年11月に実施した「RPA利用実態アンケート調査レポート」によると、RPAの導入運用にあたり、特に初期段階では「RPA利用部門」あるいは「情報システム部門」が主導役を多く担っている(※本格展開のフェーズでは、さまざまな役割や経験の持ち主を集めた専門組織を設けて主導する傾向にある)。
RPAを推進する上で、現場部門主導で進めるか、それともIT部門主導で進めるかで悩む推進担当者も少なくないのではないだろうか。
マンション分譲から仲介・管理・リフォームまでを手がける大京グループは、2018年にRPAを導入。計画当初は情報システム部門主導での推進を予定していたものの、途中から現場主導による推進体制に転換し、急速に成果を上げている。
今回は、同グループのRPA推進担当者である株式会社大京(東京都渋谷区)の寺田晃一氏(グループ情報システム部 システム開発課 担当課長)に取材。現場主導で推進することを決めた背景と現場主導による推進のポイント、そして「費用対効果」に対する考え方について聞いた。
■記事内目次
- IT主導から現場主導へ。経営判断で計画を変更
- 社内研修は分かりやすさを徹底。開発時間の確保を上司に依頼
- 初年から“元を取る”ために重要な「2つのポイント」
IT主導から現場主導へ。経営判断で計画を変更
――「ライオンズマンション」などの不動産事業を展開する貴社は現在、グループ14社に所属する社員の2%弱、5,600人中100人を目標にRPA開発者を養成中と聞きました。
はい。2018年1月から本格導入しているRPAツール「BizRobo!」の操作について希望者対象の社内研修を実施し、既に7社・27部署の71人がロボット作成のスキルを習得しています。
社員自身や自部署で担当している作業のロボット化を現場主導で進めてきた結果、備品管理や書類提出督促などの用途で、2019年5月現在23体のロボットが実際の業務に活用されています。
――寺田さんは事業部門ではなく、大京グループ全体のIT部門であるグループ情報システム部のご所属です。IT部門はRPAに関して、どう関わっていますか?
グループ情報システム部の「RPAチーム」は2017年4月に設けられ、現在は私を含む6人がメンバーです。このチームは当初、RPAツールの比較検討や、対象業務のピックアップに向けた各社へのヒアリングなどを行ってきましたが、RPAの社内研修のほか、最近は作成されたロボットの保守、そして大京グループ全体としてロボットを管理する体制づくりを担当しています。
要望があった部署に出向き、研修に先立つRPAの基礎的な内容を説明することもあります。また、研修を終えて現場に戻った社員がロボットをつくる際には技術的な協力も行っています。
――各部署が取り組むロボット化をIT部門でサポートするような形ですね。当初からこのような構成を計画していたのですか?
いえ、最初はロボットの作成も私たちの部署で行い、グループ各社の現場に提供するつもりでした。
理由は2つあります。1つは、いずれロボットが各社に浸透しても、大京グループで一元的に管理できていることが重要だと考えたこと。
もう1つは、今回参考としたオリックスグループでの実績を踏まえて採用したBizRobo!が、ロボットの集中管理に長けた「サーバー型」のツールだったことです。
RPAにゴーサインを得るため経営会議に提出した資料でも、IT部門主導による導入スケジュールを示していました。ところが、ここで役員から「もっと早く! IT部門だけでなく、現場でもロボットを作成してはどうか?」との意見があり、業務知識が重要なRPAを限られた人員で早く普及させるべく、方針の見直しを図りました。
――想定外の展開から、その後の取り組みはどうなりましたか。
まず問題となったのが「本当に現場でロボットを作成できるのか?」ということでした。そこで検証のため、IT部門の中でもシステム開発経験がないスタッフ2人を選び、BizRobo!の使い方を覚えてもらうことにしました。
具体的には、RPAチームが準備したマニュアルの解説をもとにツールを操作してもらった後、2人が難しいと感じた部分を聞き取り、解説の内容をブラッシュアップしていきました。
例えば、任意の値を代入してロボットに扱わせる「変数」の説明では「いろんなモノを出し入れするところ」というイメージをつかんでもらうため、箱のイラストを添えるといったふうに、とにかく丁寧に、分かりやすくするよう心がけました。
この結果、両名とも一通りのロボットをつくれるようになったため、現場主導でのRPA導入が正式に決定。同じやり方で導入希望部署に研修を行うという次のステップに移りました。
社内研修は分かりやすさを徹底。開発時間の確保を上司に依頼
――この社内研修が、ロボットを現場に根付かせる上でのポイントだったように思えます。研修時の工夫を教えてください。
オリックスグループの先行事例を学んだ中から「業務が集約されており、業務フローができあがっている」領域においてロボット化の効果が高いことが分かっていました。
そこで、グループを統括する大京本社の管理部門、ならびにグループ各社の本社部門を対象に研修への参加を呼びかけ、まず9部署の13人に対して週1回・2時間の研修を計4回開きました。
研修に際しては、基本方針として「効率化したい業務の内容を可視化して検証し、廃止や簡略化ができない部分をロボットで置き換える」ことを説明しました。
併せて、ロボット化は人員削減が目的ではなく、人間にしかできない業務を行う時間を増やすために行うことも理解してもらいました。
研修のカリキュラムは全員共通の基本的な内容とした一方、RPAでできること・できないことや、ロボットの得意・不得意をあらかじめ伝えておき、相性がよい業務を担当している社員の参加を優先させています。これは研修後、自身の業務で実際にロボットを活用し、効果を体感できることが次のモチベーションにつながると考えたためです。
――業務の直接の担当者だけでなく、その上司にも説明会に参加してもらったそうですね。
はい。現場主導でのロボット化は、本来業務と並行して行うため、担当者が1人で抱え込むだけではうまくいきません。そこで、ロボットとはどのようなものかを上長にも把握していただいた上で、開発の時間を十分確保できるようお願いしました。
――努力の成果が、数字にも表れています。
まだ道半ばですが、稼働中のロボット23体と、近く稼働を予定するものを合わせて、年間約4,800時間相当の人的リソース創出を見込んでいます。導入初年の目標は1,800時間相当だったので、既にこれを大きく上回る効果が得られています。
特に大きかったのは、マンション管理会社である株式会社大京アステージの例です。独自に取り組んでいた業務改善の一環として、全国のマンション管理組合から受託したエレベーター点検や植栽の手入れなど、約7,000件の案件を協力会社に発注するメール業務にロボットが導入されました。
社内システムから発注用帳票のCSVをダウンロードしてメールに添付する作業と、システム上の記録をもとにメール本文をExcelマクロで作成・転記する作業をロボット化しましたが、これにより年間約2,250時間相当の余力創出につながりました。
初年から“元を取る”ために重要な「2つのポイント」
――RPAの費用対効果についてもうかがいます。想定と比べて現状はいかがでしょうか。
当社は買い切りで導入したBizRobo!を資産計上し、5年で償却する扱いとしています。人的リソースの創出によって、この減価償却費以上の効果を出すことを1つの目標にしてきました。
実際には、大京アステージの1事例で創出できた約2,250時間相当の人件費だけでも、導入初年度分の減価償却費を大幅に上回っています。したがってRPAの導入1年目から、投資の“元を取る”ことができたと考えています。
――現場主導でのRPA導入を、コスト面でも成功させられたポイントは何だと思われますか。
成功といえるか判断できるのはもう少し先だと思いますが、RPAの導入にあたって人員を増やさず、費用を抑えながら、それを上回る効果を上げるには
?「この業務を自動化したいという意気込み」を持つ人を、ロボット開発者としてどれだけ多く引き込めるか
?ロボットの社内開発者となった人に、研修後も適切なフォローアップを続けられるか
という2点が重要だと思います。
当社の場合、1点目については、ちょうど大京アステージで意欲的な担当者が業務の集約化を進めていたところに、RPAがうまく「はまった」のが大きかったと思います。RPAの解説動画を制作し、協力会社とのセミナーで上映するといった大京アステージ独自の取り組みもあって、短期間に大きな効果を得ることができました。
2点目のフォローアップに関しては、RPAチームが現場でのロボット作成の技術的なサポートをしているほか、よくある質問への回答を取りまとめて公開しています。
研修を受ける動機となった最初のロボット化を達成した後も、通常業務の合間を縫って次のターゲット業務を探し、取り組みを続けてもらうことが大切で、これが現在の私たちにとっての課題でもあります。
――最後に、貴社のロボット化について今後の展望をお聞かせください。
今後の導入規模の拡大に関しては、従来全国の営業所が担ってきた、組合会計システムへの登録業務の集約とロボット化が有望と考えています。
OCR(光学文字認識)やAI(人工知能)を併用し、登録の前工程である紙の請求書からスプレッドシートへの転記作業も併せて自動化できれば、これまでの成果をはるかに超える「年間数万時間単位」の余力が創出できると考えています。
こうした見通しを踏まえ、当社の会計システムとRPAの連携で必要なBizRobo!の拡張機能「Device Automation」を用いたロボットの作成、検証に力を入れていく計画です。
導入部署のモチベーションを維持し、開発を続けていくためのフォローアップに関しては、部署内外でノウハウを共有する「お披露目会」の企画も必要と考えています。ゆくゆくは各部署の社内開発者がRPAの「アンバサダー」として、普及や教育の役割も担ってくれたらと願っています。
IT部門に属するRPAチームとしては、作成されたロボットの情報を共有できる体制を整備するとともに、開発負担の軽減に向けたロボット設計の標準化や、開発成果を流用できる仕組みづくりにも取り組みたいと考えています。
――実例を通して、現場主導でのロボット化を軌道に乗せるポイントがよく分かりました。今回は貴重なお話をありがとうございました。
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