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製品開発でも活用されるロボット。RPAはバックオフィスだけのものではない――リコーの社内デジタル革命(後編)

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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RPA BANK

独自技術や高い開発力を持ち、ユニークなカメラや信頼されるオフィス機器などを世に送り出している株式会社リコー。リコーグループが推進する「RPAによる全員参加型の社内デジタル革命」では、間接部門にとどまらず、あらゆる領域にロボットが浸透している。

前編では取り組みの背景やアプローチを中心に紹介したが、今回は製品開発における試験でのRPA活用事例、セキュリティやロボット管理の仕組みについてお届けする。

■記事内目次

1.安全な製品を送り出すため、手間を惜しまず発火試験を実施。

2.一度は諦めた自動化。RPAの導入で、みずから実現。

3.開発時間を補足することでフォローと野良ロボット対策を実施。

4.ロボットでの業務改善活動は「PDDCA」サイクルで。


安全な製品を送り出すため、手間を惜しまず発火試験を実施。

−石原さんは、製品開発時の試験でRPAを活用していると聞きました。

石原慎司氏(テクノロジーセンター 品質技術本部 安全・環境センター 製品安全技術室 安全技術開発グループ 兼 製品安全グループ): はい。まずは、RPAを導入した発火試験について、どのようなものかご説明しましょう。

製品の開発段階では、流れる電流や電圧を増加させて電気・電子部品ごとの発火条件と、発火後の様子を確認する試験を実施します。この試験は、異常状態も含め機器の使用中に起きる可能性のある発火や延焼のリスクを見極めることで、そのリスクに対する対策を施し、重大な焼損事故を未然に防ぐためのものです。

試験部品にどのぐらいの電流を流すと、どのぐらいの温度になって発火するのか。何秒ぐらい炎が出るのかといった確認を行うのですが、今回は出力値の増加とデータの記録をRPAで自動化させました。

試験では、試験部品に電源装置を接続して、電流を上昇させていきます。手順としては、試験室で電源の出力電流値を手動で設定し、別室に移動して、ビデオカメラやサーモグラフィーカメラの映像をモニタリングします。温度上昇傾向が見られなくなったら、試験室に移動して電源の出力電流値の設定を変え、また別室のモニタで観察を続けます。発火するまで、これを繰り返します。


(左)テクノロジーセンター 品質技術本部 安全・環境センター 製品安全技術室 安全技術開発グループ 兼 製品安全グループ 石原慎司氏 (右)本社事業所 CEO室 室長 プロセス改革PT リーダー 浅香孝司氏

−ひとつの試験で、どれぐらい繰り返すのですか。

石原: 平均すると、15往復ぐらい繰り返します。発火して試験が終わると、部品を変えて次の試験を実施します。だいたい一日に10回の試験を行っています。

−150往復。移動距離は短くても、楽な仕事ではないですよね。

石原: そうですね。それだけでなく、いくつかの問題点がありました。まず、電流や電圧のデータは電源に記録されるわけではないので、電源を録画した映像を見ながら後でExcelに手入力する必要があり、かなりの時間を必要としていました。また、この記録は要所だけ行うので、断続的なデータになってしまいます。それ以外の時点におけるデータを知りたくなったら、また動画を見直す必要があります。

一度は諦めた自動化。RPAの導入で、みずから実現。

−どうにかして効率化したい業務ですよね。

石原: はい、発火試験は以前から自動化したかった業務で、実は以前にも自動化を検討していました。電源とサーモグラフィーカメラを、パソコンを介して連携する方法を考えたのですが、電源用のソフトとサーモグラフィーカメラ用のソフトは別のもので、両者をつなぐ方法が分からず断念したのです。ソフトウェア技術者なら実現できたのかもしれませんが、素人には難しいことです。

−そこで今回、RPAでの自動化を検討したわけですね。

石原: 全社的な取り組みとしてUiPathを使える環境が整ったので、これなら自分の手で実現できると考えたわけです。そして実際に試験を自動化でき、データの記録は試験と同時に自動で行えるため後から記録する時間も削減できました。

−平均すると、1回の試験でどれぐらいの効率化が図れましたか。

石原:  1回の試験に必要な時間が60分から40分に。そのうち人が作業する時間は、以前なら付きっきりで見守るため60分必要でしたが、2分程に短縮されました。

記録に関する手間がなくなったのはもちろん、発火したらPCから音が鳴るようにしたので、安全性の観点から近くに待機しているものの、試験中は他の業務にも取り組むことができます。以前は常にモニタを見ている必要があったため、合間で他の業務にあたることができませんでした。また、部屋間を往復する回数も大幅に減りました。

−気をつけたことや、工夫したことはありますか。

石原: 試験者の判断で出力電流値の増加が必要なケースもあるため、自動で試験が行われている途中でも、手動で電源の出力電流値を変えられるようにしました。また、予期せぬエラーが発生しても、その時点までの結果は自動保存されるようにしています。それから、以前は試験者の判断で出力電流値の増加をしていたので、経験の浅い人が実施すると発火しないことがありましたが、熟練の経験を処理に盛り込んだため、歩留まりも向上しました。

開発時間を捕捉することでフォローと野良ロボット対策を実施。

−こうした試験や品質管理のデータ、あるいは人事考課のような情報は、機密性が高いものですよね。業務をロボットに代行させる際、セキュリティ上どのような配慮をしていますか。

浅香孝司氏(本社事業所 CEO室 室長 プロセス改革PT リーダー): デジタルレイバーという位置づけで、ロボットを一つの人格とみなす考え方もありますが、リコーでは、ロボットを人の作業を補助するものであると定義しています。そのため、ロボットに社員IDを割り当てることはせずに、利用者のIDで処理を実行しています。こうすることで、誰が実行しているのかわかりますし、情報が部外者の目に触れることもありません。

−管理下にないロボットが生まれてしまう野良ロボット対策など、ガバナンスについてはいかがでしょうか。

浅香: 野良ロボット対策は、苦心しながらも最初から仕組みとルールを作りました。管理にはロボット管理サーバを導入し、稼働状況を可視化しています。また、ロボットをどのユーザーに割り当てるか、その情報をどう登録するかを時間をかけて検討し、その鮮度を維持する仕組みも整備しました。属人化の排除や人事異動などに対応するためです。

開発時にも野良対策があります。開発を始めるには、二つの条件を設定しています。一つはリコーで独自に開発した教育を受けて、試験に合格したこと。もう一つは、ポータルサイト上に開発したいテーマを登録していることです。開発したものをロボット管理サーバー(Orchestrator)に登録するにも、そのポータルサイトに登録してあることを必須にしています。これらのチェックや登録作業を自動で行うツールを用意し、この運用を無人化しています。そして、開発サイクルは最長で2カ月にしています。サーバを使って開発時間を捕捉し、2カ月でロボットが完成していない場合には全社的な推進を担うCoE(Center of Excellence)メンバーから声をかけるようにします。そうすれば手助けできますし、開発中止の場合には野良の発生を防止することができます。

ロボットでの業務改善活動は「PDDCA」サイクルで。

−石原さんの事例は、まさに現場発のボトムアップでの取り組みでした。リコーが目指している「KAIZEN」し続ける体質づくりを促進するために、どのような施策を行っていますか。

浅香: ロボット作成だけでなく、業務プロセス改革で必要な可視化や改善に関する教育プログラムも実施しています。そのなかでは、RPAでの活動ステップとして定義した「PDDCA」を推奨しています。

−一般的に使われる「PDCA」サイクルよりも、1つ多いですね。

浅香: 「P:テーマ洗い出し、プロセス可視化」→「D:プロセス最適化」→「D:プロセス自動化、ロボット実行」→「C:プロセス検証し、効果測定」→「A:是正処置、さらなるKAIZEN」の流れです。ロボット構築の前に、そのプロセスをもう一回見直し、工夫する点がないのか、を検討する。RPA化は、今までやってきた作業、それを実際に作業してきた人とその周りの人が、もう一回見直すきっかけとなる。これが、ボトムアップの活動を促進し、その活動が業務改善になるために必要なステップだと考えています。

−今後、ロボット活用の幅をどのように広げ、業務プロセス改革を進めたいと考えていますか。

石原: 現在は試験実施とデータの記録の自動化にとどまっていますが、今後は発火の様子を確認するのにも使えないか、他の計測器でも運用できないか検討を進めているところです。現場だからこその気づきをもとに、これからも地道に改善を続けていきます。

浅香: 発火試験のようなアイディアは現場からしか出てきません。取り組みテーマの広がりという点では、裾野を広げ、こういった潜在的なニーズを掘り起こす仕掛けに今取り組んでいます。また技術的な広がりとしては、今後の1年では、自社で持っているAI-OCRの技術を連携したいですし、360度カメラ「THETA」のようなデバイスや実験機器類もあるので、組み合わせることによって、より現場で使える領域が広がっていくはずです。この取り組みに、終わりはないのだと思っています。

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