2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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RPA BANKが2019年5月に実施した「RPA利用実態アンケート調査レポート」によると、RPA本格運用における課題として「RPAツール」関連の要因を挙げる企業の割合は、2018年11月の前回調査から大幅に減少(18%→7%)。一方で「RPA推進組織・体制」に課題があるとした回答の割合は4倍以上増加した(4%→18%)。日々の実践の中で、知見を急速にアップデートしているRPAユーザーの関心は、わずか半年の間に大きく変化していることがうかがえる。
導入したツールに社内がようやく習熟し、業務効率化に手応えを感じ始めたのもつかの間「確実な運用管理体制の維持」という新たな業務が負担になりだしたRPAユーザーも少なくないのではないだろうか。
RPA導入支援事業のかたわら、自社内でもロボットを積極活用するIT商社の日商エレクトロニクス株式会社(東京都千代田区)は、こうした悩みの解消を図るクラウドサービス「デジタルレイバーステーション(DLS)」をこのほど開発。10数社にトライアル版を開放してブラッシュアップを進めているという。
同サービスの開発経緯とコンセプト、提供予定の機能などについて、担当者らに聞いた。
■記事内目次
1. 膨れ上がる管理項目に危機感。クラウドサービス「DLS」を開発
2. ロボットと組織をつなぎ、リアルタイムでの情報共有を可能に
3. 「業務の継続」「ロボットの復旧」を別系統で管理
4.RPAツールの補完にも力を発揮する「DLS」
膨れ上がる管理項目に危機感。クラウドサービス「DLS」を開発
──新サービスのDLSについて、まず開発経緯をお聞かせください。
青木俊氏(デジタルレイバー推進部 部長): 当社は2017年6月から自社でRPAを導入し、そこで得られた知見をもとにRPA導入支援事業を行っています。
DLSに搭載した機能について、最初に必要性を感じたのは1年ほど前のことです。当時は当社と、親会社である双日株式会社でそれぞれ、作成したロボットやエラー処理の状況などを複数のExcelファイルにまとめ、運用管理担当者が更新していました。ほどなく、管理項目は70を超え、作成されたロボット数も100に迫る状況となりました。
このような状況下、運用管理担当者は「Excelファイルの管理では収拾がつかなくなる」と危機感を持ちました。このことが「ロボットの運用状況を管理する」ツールであるDLSを開発するきっかけとなりました。
──管理機能の充実をうたうRPAツールも増えていますが、それでも不十分なのですか。
新明正識氏(デジタルレイバー推進部 一課): 確かに多くのRPAツールは、運用しているロボットや、それらの稼働状況が把握できる機能を有しています。
しかし例えば「どのロボットがどのシステムを利用するのか」のように、ロボットではなく、その接続先に関する情報の管理項目などは用意されない場合があり、独自にリストをつくるようになったのです。
青木: 当社に限らず、ロボットの運用管理担当者とロボットの作成者、さらにロボットを導入した部署の責任者は、それぞれ別の人というケースが多いと思います。ですから、エラーでロボットが停止したときには、運用管理担当者がロボットの作成者に修正依頼を出したり、またロボットが作業に復帰するまでのフォローを導入部署の責任者にお願いしたりといったコミュニケーションが必ず生じることになります。
こうしたやりとりの内容も、やはりRPAツールでは管理できません。既存の手段を使うならメールでの個別連絡でしょうが、積み重なっていく情報が共有可能なかたちで集約されないので、周囲から進捗が分かりにくいのが難点です。加えて担当者の誰かが異動すると、それまでの経緯を含めて後任に引き継ぐのが難しく、ロボット導入部署の組織構成が変わる際にも同様のリスクが生じます。
RPAの運用では、統制から外れる「野良ロボット」を生まないことが重要とよく言われますが、私たちはロボットが“野良化”する背景には「ロボットの管理不足」「組織側での不備」という2つの要因があると考えています。
前者については、RPAツールが備えている管理機能の補完が必要で、またRPAツールがカバーしていない後者については新たな専用のツールが求められます。現在DLSが搭載し、また今後搭載する諸機能では、こうした複数の課題解決を目指しています。
ロボットと組織をつなぎ、リアルタイムでの情報共有を可能に
──ロボット運用の長期化に伴い、ロボットだけでなく組織側にも生じてくる問題を解決しなくてはならないということですね。具体的にどのような機能で対応するのですか。
深松良介氏(デジタルレイバー推進部 一課): 自社の経験に加え、今後多くのRPA導入企業が「ロボットの新規開発」から「既存ロボットの管理運用」へ重点を移していくトレンドも考慮した結果、組織上の問題を解決するためには次のような機能が必要と考えました。
(1)ロボットの稼働状況をリアルタイムに記録・共有できる
(2)ロボットと、それを活用する実組織の対応関係が明確化できる
(3)ロボットに関わる各関係者間のやり取りが確認できる
(4)個別のロボット単位で、作成者や発生したエラー、改修履歴などが確認できる
(5)複数種類のRPAツールを導入していても一元的な運用管理ができる
こうした諸機能を備え、RPAプロジェクトに関わる社内のメンバー全員がリアルタイムで共同作業できるクラウドサービスとして提供するのがDLSです。
「業務の継続」「ロボットの復旧」を別系統で管理
──たいへん多機能のようですが、想定される使い方のイメージを教えてください。
新明: まず、日常的なRPAの運用管理で重要なのは、何らかの理由でロボットが正常に動かなくなったとき「当面の業務を止めないこと」と「ロボットの復旧を図ること」で、この2つは同時並行する別々のミッションです。両者が錯綜しないよう、DLSでは系統を分けたメニューで表示しています。
このうち「いまエラーを起こしているロボットが存在するか」「正常に動かないロボットの導入部署が業務のバックアップに入ったか」という、もっとも緊急性の高い情報をまとめた画面が「インシデントリスト」です。全社一覧のほか、自身の担当分野だけ抽出することもでき、対応状況のステータスを更新すれば他の閲覧者にも瞬時に伝わるようになっています。
一方、ロボットを復帰させるまでに要する作業とその進捗を示す画面が「作業リスト」です。一時停止したロボットがすぐ動きだすケースも珍しくないので、運用管理担当者が原因を確かめ、改修が必要と判断したときに状況を整理・共有するための機能です。
深松: こうしたエラー対応などでの連絡用に、DLSは「メッセージ」機能を備えています。送受信された内容はすべて履歴として残るので、RPAに関わる現在と将来のメンバーが参照し、オペレーションの属人化を防ぐことができます。
そのほか「業務リスト」画面では、ある部署の業務責任者と、そこで用いる全てのロボットをまとめて表示します。人事異動や改組があった場合にはここから関係分を抽出し、後任者への確認を促すことも可能です。
個別のロボット単位での情報表示画面(「D‐レイバーリスト」)もあります。ここでは要件書や設計書へのリンク、作成者や接続先に関する情報、エラーや改修の履歴などを一括して確認できます。
RPAツールの補完にも力を発揮する「DLS」
──貴社の実体験を反映したDLSの機能から、ロボット管理の意外な「盲点」に気づいた読者も多いかもしれません。トライアル版の他社への提供結果も踏まえ、DLSの活用が特に有効なユーザー像などがあれば教えてください。
青木: 稼働中のロボットの数が数十体以上に達し、かつての当社のようなExcelを使った情報管理に限界を感じているユーザーにとっては、やはり有効なツールになっていると思います。また、ロボットと担当者のひも付けを明確化し、ガバナンスを強化したい企業においても効果的だと考えています。
新明: RPAの活用が進み、CoE(Center of Excellence)などの名称で社内横断的な専門チームを設けるかどうか検討しているユーザーも少なくないと思います。DLSを活用すれば、既存の組織と所属はそのまま、ロボットの活用・運用管理・改修の各担当者が緊密な連携を取れるので、そうしたチームを結成する準備段階でも役立つのではないでしょうか。
深松: DLSでは、稼働しているロボットだけでなく、それを運用する組織のメンバーも可視化されます。RPAツールによるロボット管理との併用で全社的な運用体制が見通せるようになれば、さらなる業務効率化のポイントが浮かび上がってくるかもしれません。
──それでは最後に、製品化までの見通しをお聞かせください。
青木: 2020年初頭をめどに、月額数万円の定額制か、利用規模に応じた従量制のサービスとしてリリースする予定です。年内は引き続き無償でのトライアル参加企業を募ってフィードバックをいただき、機能を磨き上げていきたいと考えています。
新明: DLSは、ロボット導入企業の「組織」を管理し、現時点ではRPAツールと直接連携していないため、どのRPAツールのユーザーでも問題なくご利用いただけます。ただ将来的には、主要なサーバー型RPAツールにそれぞれ対応させるかたちで、RPAツールへの追加機能の提供も充実させていくつもりです。
──リクエストしたい機能があるユーザーは早めに試してみるのがよいかもしれませんね。本日は興味深いお話をありがとうございました。
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