2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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「領域とわず、なんでもやる」と宣言する(※コーポレートサイトより引用)合同会社DMM.com(以下、DMM)の事業を、ひと言で表現するのは難しい。ゲームや映画などの配信、オンライン英会話やプログラミング教育、ネット証券、電力、3Dプリント、ロボット…規模やジャンルにとらわれることなく投資を続けてきた結果、設立から20年ほどの間に3000万人以上の会員、40以上のサービスを展開するグループへと進化。
スピーディーな決断と事業化によって成し得た成果だが、一方でサービスを運営する日々のオペレーションでは属人化や非効率が課題となっていた。
そこで取り組み始めた全社的な効率化プロジェクトでは、RPAにも着目したものの、一度は導入を諦めたという。1つの業務からでも自動化できるRPAだが、データまでもが属人化されているなど、ロボットに任せることができない状態だったからだ。どのようにして諦めかけたRPAプロジェクトの課題をクリアしていったのか、話を聞いた。
■記事内目次
1. スピーディーな事業拡大、増大するバックオフィス業務
2.「DMM.com」「DMM GAMES」で始まったRPAプロジェクト
3.頓挫したRPAプロジェクト。克服の鍵は属人的なデータ入力の撲滅
4.RPA大規模展開を目指した「RPAセンター」開設が目標
スピーディーな事業拡大、増大するバックオフィス業務
−DMMと聞くと、インターネットを使って家庭で映画を見ることができるサービスのイメージがありました。ところが気がつくと、いつのまにか新しいサービスが増えています。しかもインターネットで完結するものだけでなく、ものづくりなどにまで展開していて驚かされます。
菊地康宏氏(人事総務本部 総務部 業務システムグループ グループリーダー): とても一面では捉えきれない会社で、利用者がイメージするDMMが、どれも正しいDMMの姿だと言っていいと思います。
『事業として成り立つのか?』『将来に向けて投資できるか?』を判断し、新しい事業を起こし続けて発展してきたのがDMMです。「この分野でなければダメ」というこだわりや枠にとらわれることなく、役員にも声が届きやすいので、利益を生むビジョンが描ければ誰にでも事業を創造するチャンスにあふれています。これからも、次々に新しいDMMのイメージが増えていくでしょう。
−それだけに、実際のオペレーションは多岐にわたるのでしょうね。インターネットを中心にしたテクノロジーカンパニーなので、やはり大部分がデジタルで統合されているのでしょうか。
菊地: 各事業ごとにビジネスモデルも、体制も日々のオペレーションも異なるため、システム化対象ではない業務も膨大です。スピード感があり変化の激しい動きにバックオフィスが対応していくためには、現場の裁量も重要です。各担当者が自分のやりやすい方法でフレキシブルに業務を回すことで、さまざまな事業のスピーディーな展開を実現してきました。
ただ、一方では弊害もありました。一連の処理には多くのタスクがあり、各タスクの担当者は自分の処理が終わるとデータの転記や形式変換を行って、つぎの担当者にバトンを渡します。この際、ワークフローが属人的になってしまっていたため、引き継ぎをして業務に慣れるまでに時間と手間がかかってしまっていました。
また、みんなが使うデータについては誰か1人が加工して共有すべきところ、データを一元管理し共有する仕組みがなかったため、組織としては同じような処理を重複して行っている状態でした。
バックオフィスにおける多くの非効率を会社としても大きく問題視するようになり、ITを使った効率化の知見をもった私が、人事総務本部に配属されたのです。
「DMM.com」「DMM GAMES」で始まったRPAプロジェクト
−会社として効率化に着手した時点で、RPAの導入が視野に入っていたのでしょうか。
菊地: どのように効率化を進めるか、最初から決まっているわけではありませんでした。人事総務の業務を見て、スクリプトで自動化できるものも多そうだと感じていたところ、ちょうどRPAが流行していることを知って興味を持ち、検討を進めることにしました。
情報収集をして役員に相談したところ、好意的な反応が返ってきました。
−経営層からは支持されても、現場からは「自分の仕事が無くなるかもしれない」と、反発が起きるケースも耳にします。
武居夏希氏(人事総務本部 総務部 業務システムグループ): 次々と新サービスが増えるなか、効率化しないと負担が増えるばかりなので、むしろ歓迎しています。これまでのやりかたを続けていたのでは、人をひたすら増やすしか手だてがないのですが、そう簡単に増員できるわけではありません。
−武居さんは菊地さんと一緒にRPAの導入を進めていると聞きましたが、どのような経緯があったのですか。
武居: 私は裏方として事業を支えることが好きで、ずっとバックオフィス業務でキャリアを重ねてきましたし、これからも続けていきたいと考えています。ところが最近の動向を追っていると、将来なくなってしまう可能性を想像するようになりました。
今後もバックオフィス業務で活躍し続けるためには、効率化に必要なITスキルを身につけるべきだと考えていたところでしたので、チャンスだと思って積極的に手を上げたのです。
それに、DMMは世間からデジタルに先進的なイメージで見られているのに、かけ離れていることに対して、もどかしさもあり、自分の手で変えてみたいという気持ちもありました。
−具体的には、どのような領域でロボットを活用しているのでしょうか。
武居: 現在のところ、グループの母体であるDMM.com と、大きな柱であるゲーム事業を行うDMM GAMESの2社で導入しています。
主要な用途はデータ処理の効率化です。入退社や異動転籍が発生した際などに、複数の担当者が共通して使う人事まわりのデータを自動的に加工して共有したり、データを基幹系システムから扱いやすいクラウド環境へコピーしたりするのに役立っています。この仕組みを整えるには、かなり苦労した点もありました。他にはシステムでまかなっていない社内サービスの自動化や、社員に贈られるバースデーギフトの集計や発注にもRPAを使っています。
頓挫したRPAプロジェクト。克服の鍵は属人的なデータ入力の撲滅
−RPA導入の苦労について、詳しく教えてください。
;菊地: あまりにも個人のやり方で仕事を進めてきた結果、データが乱雑で自動化が難しく、検討中に一度、諦めた時期もあります。具体的にはステータスを表現するにも、「済」で管理する人もいれば「完了」とする人もいますので、まずは整合性を取る必要がありました。
私の上司がこの状況を、「ロボット掃除機を散らかった部屋では使えないのと同じこと。」と例えていました。ロボット掃除機を効果的に使おうと思うと、ソファの脚を高くしたり、ケーブル類や布を巻き込まないようにしたり、部屋をある程度整理しておく必要がありますよね。同じように、RPAロボットが快適に働けるよう、データを整理しておかなければいけません。
−その状態から、どのように前進させましたか。
菊地: 第1段階は、タスク間のデータ受け渡しを担当者同士が直接行うのではなく、必ず共通のデータ倉庫を介するように、クラウド上に共通のデータ倉庫を用意することから始めました。そもそも課題だったデータ共有の非効率を解消するための環境整備です。一連の業務プロセスをデータ倉庫経由に変えるためにデータを整えたほか、私たちが対象業務の担当者に対してRPAやデータ整備の必要性を説明することで、共有を意識して仕事をするようになり、データの品質が向上していきました。つまり、ロボットが動く前提の片付いた部屋に変わっていったのです。
そして第2段階が、RPAの導入です。ここでの最初の課題は、製品選定でした。データ品質が向上したとはいえ、一連のタスクをつなぐデータ転記を自動化するには、各タスクに合わせて柔軟にデータを加工できるツールを必要としていました。展示会を2日間かけて回り、ツールや提供企業の特徴について情報収集したところ、データ加工が優れている「残業改革ロボ『RooPA』」が目に留まりました。
サンプル業務を用意してテストも実施したのですが、クリアできたのはイノベーションネクストの提供する「RooPA」だけでした。
−ようやく導入することができたロボットには、どのような仕事を任せているのでしょうか。
武居: ロボは、大きく2つの役割を果たします。1つは、人間の判断が不要なタスクを代わりに処理することです。例えば週に2分だけの転記作業や、月に1度20秒の作業が不要になり、担当者が不要になったことは大きな成果です。大幅な時間削減も重要だとは思いますが、完全に人の手から離すことができれば、他の仕事に集中できるようになるからです。
もう1つは、基幹系システムとデータ倉庫のデータの間を取り持ち、相互に更新することです。基幹系システムへアクセスできる担当者が限定されていたため、セキュリティ上問題ないデータであっても誰もが利用できる状態ではありませんでした。
ロボットが業務に必要なデータだけを取り出してクラウドを最新の状態に保つので利便性が高まりました。また、処理済みデータを基幹系へ更新するのもスムーズになりました。
菊地: 基幹系システムからクラウドにデータを丸ごとコピーするのはセキュリティ上好ましくないため、ロボットが必要なものだけを必要な形でコピーしてくれるのは助かります。
この同期させる仕組みを実現するためには、ローカル環境にあるロボがクラウド環境に直接アクセスできないことが課題になりましたが、独自にコネクタを開発することで解決しました。
−独自の工夫も必要だったのですね。ロボットの開発は、難しくなかったですか。
武居: 研修を受け、サンプルをまねしながら始めました。私は業務に必要なソフトを使うスキルがあるだけで、プログラミングなどの経験もなく、変数の概念も理解していない状態でのスタートということもあり、まだ苦労することも多く、サポートの助けを借りながら開発を進めています。
菊地: 先ほど展示会を回った話をしましたが、「RooPA」はBizRobo!のエンジンを使っているため、機能的には比較対象となるサプライヤーは存在しました。ところが、そのなかでサポートが充実していると感じたのはイノベーションネクストだけで、大きな決め手になりました。
サポート内容は予算や習熟度に合わせて柔軟にカスタマイズできるのですが、1日中そばにいて、どんな疑問もすぐ解決してもらえるオンサイトのサポートは、特に不明点の多い初期段階では助かりました。
特によかったのは、どうすれば役員に納得してもらえるか一緒に考えてもらえたことです。何でも助けてくれるとは聞いていましたが、私が想像していたサポートの範囲を超えたものでした。
RPA大規模展開を目指した「RPAセンター」開設が目標
≪−RPA導入後、バックオフィスの担当者からは、どのような反応が見られましたか。
菊地: 自動化の効果がわかり、タスクの一部でもいいので早くロボ化してほしいという要望も寄せられています。≫
一方的にロボットを提供するのではなく、業務のヒアリングや設計の過程でロボットの機能や価値を説明しているため拒絶反応もありません。人間には簡単な認識もロボットでは難しいことを、具体的な例をあげて説明しているので、そこまで意識したうえでロボットが働きやすいように仕事をするようになってきました。「こんな処理もロボットに任せられるのでは」と提案されることもあります。
−今後は、さらに適用範囲が広がっていくと思いますが、どのような構想をお持ちですか。
菊地: まずは人事総務を中心に効率を上げていきますが、フロント業務の事務にも展開する道筋ができれば、大きな業務改善につながります。1人ひとりの作業効率をアップさせて、ゼロからイチを創り出すために必要な、頭を使うための時間を増やしたいですね。大規模に展開するために、RPAセンターの設立も検討中です。
また、DMMにはAI事業部があるので、将来的にはRPAと組み合わせる可能性も考えられます。
武居: バックオフィスの仕事は、単純な反復作業の塊のように誤解されることがありますが、複雑な判断や個別の柔軟な対応を必要とする業務も少なくありません。
特にDMMの場合は新規サービスや会社の立ち上げが多いため、ロボットに任せられることは任せて時間をつくり、よりよい事業にしていく提案型のバックオフィスへと進化させていきたいです。
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