PC調達の根本を変える「Device as a Service」リースとは何が違うのか?
2〜3年ほど前から大手ベンダーが提供し始めた「Device as a Service(DaaS)」。まだ誕生して間もないサービスで、ユーザー企業の理解も漠然(ばくぜん)とした状態だ。単に「PCの運用管理を丸投げできるサービス」と考えられているようだが、DaaSの本質的なメリットはそこではないという。
「DaaS」といえば、まず「Desktop as a Service」が思い浮かぶだろう。しかし、DaaSには“もう一つ”ある。それが「Device as a Service」(DaaS)だ。Device as a ServiceはPCを中心とするエンドポイントデバイスとのライフサイクル管理を、月額課金のサブスクリプションモデルで提供するサービスのことを指す。ユーザー企業が抱えるハードウェア調達から運用管理の課題を解決する有効な手段として期待が集まる。
DaaSは企業にどのようなメリットをもたらすのか。レンタルやリースとは何が違うのか。DaaSの基礎知識とともに解説する。
※以降、断りがない限りは本稿でのDaaSは「Device as a Service」を指す
2023年にはDaaSの利用者が急増する可能性も
現在、大手PCメーカーがこぞってDaaS事業に参入する動きがある。中でもいち早くDaaSを始めたのがヒューレット・パッカードで、2016年8月には早くも「HP Device as a Service」を提供開始した。次いで、Dellは「PC as a Service」を、レノボは「Lenovo Device as a Service」の提供を開始した。
ハードウェアベンダーだけでなく、ソフトウェアベンダーもDaaSに乗り出す動きがある。その代表格がマイクロソフトだ。「Windows 10」や「Office 365」、セキュリティサービスを強化した「Microsoft 365」とWindows 10デバイスを組み合わせた「Device as a Service+Microsoft 365」などだ。
横河レンタ・リースやオリックス・レンテックといったIT機器のレンタル企業大手もレンタルPCにMicrosoft 365を組合せ、さらに独自のサービスを付加したパッケージソリューションとして提供している。
DaaSが注目を集める背景には、従来のハードウェアの調達手法が今日のビジネスにそぐわなくなってきたという事情がある。今までは、煩雑なハードウェア調達にかかる作業を効率化しようと、ハードウェアやOSのサポートが切れるタイミングで一斉にリプレースすることが多かった。調達タイミングをある時期にまとめることで、調達にかかる作業負担を軽減しようという考えだ。
しかし、働き方改革の潮流とともに従業員には生産性と効率性が求められ、労働環境は大きく変化した。それに伴い、PCに加えてタブレット端末や社給のスマートフォンなど一人で複数台のデバイスを扱うケースも珍しくなく、企業が管理する総デバイス数は増加した。
こうした現実は調査会社のMM総研による調査からも読み取れる。MM総研が2019年8月に実施した調査「国内法人ICT端末出荷動向と予測」によれば、PCの出荷台数と比例して企業で利用する総端末数も増加傾向だという。特に現在は、2020年に予定される「Windows 7」のサポート終了も影響し、「Windows XP」のサポート終了を迎えた2013年に次いでPCの出荷とリプレースが活発化しているという。
また、デバイスに求められる要件は多様化した。内勤者やテレワーカー、エンジニア、デザイナーなど業務やワークスタイルによってデバイスに求められる要件はそれぞれ異なる。従来のように「同じ機種を一括して導入」という調達方法では従業員のニーズを満たすのは難しくなってきた。
こうした変化により、従来型のハードウェア調達と管理手法では対応が追い付かなくなってきた。「ハードウェアの調達から運用管理、リプレースまでのライフサイクルを何とかシンプルにできないものか」といった企業の悩みが起点となり、生まれたのがDaaSだ。
MM総研が実施した調査によると、2018年12月時点で稼働する法人PCのうちDaaSが占めるシェアは3.3%にすぎない。しかし、2023年12月には35%にまで上昇するだろうと予測されている。
単なるモノの調達ではないDaaS、本質的なメリットとは
DaaSはハードウェアのライフサイクルをシンプルにするだけでなく、運用を根本から変えるインパクトがある。以降ではその本質を探っていく。
大まかにDaaSを説明すると「月額課金によるPCの利用権の提供とPCライフサイクルを支援するサービス」だ。分かりやすく言えば、デバイスの調達と管理を「as a Service」化することで、従業員それぞれがDaaSベンダーとつながり、必要なタイミングで自由にデバイスを調達することが可能となる。デバイスの運用保守や廃棄はDaaSベンダーがサポートする。IT資産管理者に掛かっていた負担の軽減が期待でき、管理者の作業は各デバイスの契約管理が中心となる。
つまり、DaaSとは単なるモノの調達手段ではなくデバイスのライフサイクル運用を大きく変える手段ということだ。
管理者だけではなく従業員にとっても大きなメリットが期待できる。現場スタッフは、今までのように情報システム部門から押し付けられたお仕着せのデバイスではなく、自身のニーズに適したデバイスを選べるようになる。また用途に応じて柔軟にPCの利用期間を設定できるため、早期の陳腐化を防げる。
「as a Service」という名の通りサービスとしてデバイスを利用するため、資産計上の必要がなく、月額料金を経費として計上できる(オフバランス)という点もDaaSの特長の一つだ。
ただし、サブスクリプションといってもSaaS(Software as a Service)のようにいつでも利用を止められるわけではなく、年単位など一定期間の契約を定めるものが多いようだ。その点がレンタルやリースとの大きな違いだ。
横河レンタ・リースによると、「レンタルは短期的、リースは中長期的なハードウェアの調達手段であるが、DaaSはハードウェアの調達手段ではなくライフサイクル全般を自動化するものである」という。
デバイスのライフサイクル管理を支援するために、ヴイエムウェアの「VMware Workspace ONE」や、PCメーカーやSIerが独自に開発・提供する管理ツールなどをデバイスと併せて提供するDaaSベンダーもある。
例えば横河レンタ・リースでは、レンタルPCとMicrosoft 365をセットで提供し、さらにWindows 10 運用支援を兼ね備えたセキュリティソリューション「Flex Work Place」を組み合わせた「Simplit クラウドサービス」を提供する。
DaaSを利用する前に注意したいこと
SaaSやPaaS(Platform as a Service)といったクラウドサービスは、アプリケーションの導入やアップデートといった作業をクラウド事業者にオフロードすることで、面倒な作業から管理者を解放した。デバイスの調達や運用・保守もこれと同様に、DaaS利用者がクラウドサービスを介してベンダーと直接やりとりするようになれば、管理者はデバイス管理やIT資産管理といった煩雑なタスクから解放され、本来集中すべきタスクにリソースを割けるだろう。
ただ、管理者の作業をそのまま従業員に移管するだけでは、ユーザーの手間が増え業務の生産性に影響する恐れもある。PC調達時にセットアップを効率化する手段として「Windows AutoPilot」がある。これは「Azure Active Directory Premium P1」で利用できるツールで、Azure ADで管理される組織のアカウントを入力するだけで自動的にWindowsセットアップを行うものだ。従業員に余計な手間を掛けないためには、こうしたツールを活用する方法もある。
ただし、従業員が直接ベンダーとやりとりしPCライフサイクルを回す「ユーザーダイレクト」「セルフサービス」を実現するには、従業員それぞれがネットワークを介してベンダーとつながる必要があり、セキュリティの懸念が生じる。そのためには、「ネットワーク境界をベースにしたセキュリティ対策」から社内外の境界を意識しない「ゼロトラストモデル」へとセキュリティモデルを進化させる必要があるだろう。
また従業員にデバイスのライフサイクル管理を移管することで、シャドーITのリスクが高まる恐れもある。このあたりのリスクを制御するには、今後新たなソリューションが必要とされるかもしれない。
DaaSには利便性だけではなくこうした課題はあるものの、多くの企業にとってPCライフサイクル管理の在り方を根本から変える手段となり得る。まだ、発展途上のサービスではあるが、今後の動向に注目したい。
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