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近未来オフィス予想図:RPAとAIで仕事はどう変わるのか

RPA(Robotic Process Automation)やAI(人工知能)を活用することで未来のオフィスはどう変わるのだろうか。今回は、筆者が最近訪れた米国におけるHR Techのカンファレンスで話題を集めたソリューションを基に、人事業務が今後どのように変化するのかを予想する。AIが人事業務の多くを担う未来も遠くないかもしれない。

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 RPA(Robotic Process Automation)を導入した企業の現状や、導入効果を継続的に高めるためのポイントなどを紹介してきた本連載。最終回は、RPAに止まらず、目まぐるしいスピードで進化するIoTの技術が企業の業務にどのような変化をもたらすかを考えてみたい。全業務を網羅するのは困難なため、筆者の専門であるHRTechを活用した人事業務について整理する。

 筆者はちょうど2019年10月1日〜10月4日にラスベガスで開催された「HRTechnology Conference&Expo2019」(以下HRT)に参加してきたばかりだ。本カンファレンスで見たソリューションや、その感想なども織り交ぜて紹介してみたい。

HRTechの動向

 最近のHRTech分野において、AI(人工知能)の活用範囲が顕著に拡大している。特に採用や配置、育成などの人材管理業務全般や情報分析業務ではその傾向が顕著だ。先日のHRTで開催されたスタートアップ企業30社によるPitchfest(自社ソリューションのプレゼンコンテスト)においても、PILOTが提供する、AIを活用した従業員へのコーチングシステムがグランプリを受賞し、賞金2万5000ドルを獲得した。

 その他、HRTに出展していた業務別のソリューションを参考に、最近のHRTechのトレンドを紹介する。

採用:トレンドは「Candidate engagement」(応募者エンゲージメント)

 2018年も感じたことだが、HRTでは採用関連のソリューションが多く出展されており、2019年は全体の25%(111社)を占めていた。また、HR業界の著名なアナリストであるJosh Bersin(ジョシュ・バーシン)氏も、基調講演の中で「AIはHRのどの領域よりも採用において成熟している」と述べていたので、米国では、採用領域で優先的にAIが活用されているのだろう。

 米国では、ATS(Applicant Tracking System:応募者追跡システム)が普及しているため、ATSの機能を拡張させる多くのソリューションが紹介されている。応募者への的確なフォローを支援するという従来の仕組みだけでなく、AIチャットbotなどを活用して応募者に対するサービスレベルを向上させることで入社意欲(Candidate engagement)を高めたり、入社前のエンゲージメントを測定システムで随時チェックしながら優秀な人材を入社までフォローしたりするソリューションが目に付いた。

 その他、採用面接をスマホで実施するデジタル面接や、AIを活用したアセスメントを実施することで、選考時のバイアスを排除しつつ、採用コストの削減と採用レベルの向上を図る仕組みも紹介された。新卒を大量に採用する企業では、面接関連業務に莫大(ばくだい)な時間とコストを投じているはずなので、これらの仕組みは日本市場でも受け入れられる可能性が高い。

配置:トレンドは「AIによるJob Matching」

 AIが人材の適正な配置案を、「Job Description」(職務記述書、以下JD)を考慮した上で提案するソリューションは興味深かった。あるソリューションは、6兆にも上る膨大なマッチングデータを教師データにして採用や異動時の配置案をシミュレートしており、利用開始時から精度の高い配置案を提案できる点を強調した。日本においても、JDを運用している企業であれば、効果的なソリューションになりそうだ。

 たとえJDを運用していなくても、アセスメント結果や異動および研修履歴などの人材情報からAIが配置案を提案してくれるソリューションが登場する日も近いのではなかろうか。

育成:トレンドは「AIによる個別育成」

 代表的なソリューションは、上述のPitchfestでグランプリを獲得したAIによるコーチングシステムだ。PILOTが提供するこのソリューションは、これまでの人材育成の常識を覆す新たな仕組みとして面白い。スマホやPCを利用して、従業員が週に10〜15分のコーチングを受けた結果についてインパクトを分析し、次のコーチングに反映するソリューションだ。追加でコーチングが必要な少々問題のある従業員へのフォローが考慮されている点も興味深い。筆者が実際に、AIによるコーチングと説明を受けたときは、対面で人間が行う方が効果的という印象を持った。しかし、AIが自分の状況を的確に捉えた上でコーチングを実施するのであれば、人間による指導と比べて個人的な感情が介入しないため、従業員側も素直に受け入れられ、より効果的なコーチングにつながるのかもしれない。

その他

 米国らしいソリューションも印象に残った。例えば、米国はさまざまな法律や制度に違反した場合にペナルティーが課せられるケースが多いため、ペナルティーを回避する目的で、違反の可能性がある処理を実行しようとした際にアラームを発信するソリューションなどがその一例だ。税務申告やオバマケアの一環で制定された医療費負担適正化法(ACA)などの法律や制度に対応しているらしい。日本での活用は難しいが、米国オリジナルのソリューションとしては面白い存在だ。

 ざっと2019年のHRTでの印象的なソリューションを参考にHRTechのトレンドを紹介した。では、HRTechが進展すると人事部の業務は今後どのように変わるのだろうか。

HRTechで変わる人事部の業務

 近い将来の人事業務を考えてみよう。まず定型的な業務については、多少の判断が伴う定型業務を含めRPAに代替されていくだろう。AIを搭載したRPA、もしくはAIシステムと連携したRPAが普及すると期待できるためだ。人海戦術で対応している年末調整業務についても、RPAとAI OCRなどを駆使することで大幅な効率化が図れるだろう。

 人材管理や育成業務については、上述の通り採用や配置、評価、開発のそれぞれの人事業務においてAIの活用が加速度的に進むだろう。特に多大な工数とコストがかかる採用業務については、採用面接のデジタル化や簡易で安価だが精度の高いAIアセスメントなどを活用することで、採用コストと工数を大幅に削減し、採用レベルを向上させる企業が増えてくるはずだ。

 また、人材の評価についても大きな変化があると考えられる。従来、計測が困難といわれている業務の生産性(特にホワイトカラーの業務)をウエラブルデバイスなどから収集した実績データを基に算出し、その他のデータも加味した上でAIが定量的な評価案を作成。それを参考に上司が評価を決定するという仕組みも考えられる。また、上司による業績評価とは別に、従業員同士が称賛しあうソーシャル・レコグニションの仕組みを採用する企業も増えるだろう。これは、報酬と連動する業績評価以外の部分で仲間から認められることで、エンゲージメントの向上を図るものだ。

 その他、AIを活用した情報分析によるシミュレーションも活用が進むだろう。労働人口の減少を背景に、退職防止のため、勤怠データやエンゲージメントの計測データ、その他変動データを収集しAIを活用して退職リスクの高い従業員を推測し、対策を講じる仕組みが定着すると予想できる。その他、同業他社とのベンチマークも容易に行えるようになり、将来を見据えて自社が何をすべきかをAIに分析させることで、今後の対応策を講じることも可能になるだろう。

 想像すればキリがないが、その他の業務の変化については紙面の都合もあり別の機会とさせて頂きたい。

 本連載の前半はRPAの効果を最大化するためのポイントを導入前と運用後に分けて、解説した。後半はRPAに止まらず、最新のIT技術を活用することで起こる将来の業務の変化について、予測を交えながら紹介した。参考になる部分があれば光栄である。


HRTechを活用した人事部の将来業務イメージ

著者プロフィール:秋葉 尊(あきばたける)

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株式会社オデッセイ 代表取締役社長


大学卒業後、NECに入社。20年にわたり中堅企業や大企業に対するソリューション営業やマーケティングを担当。2003年5月にオデッセイ入社、代表取締役副社長に就任。2011年4月、代表取締役社長に就任。

ATD(Association for Talent Development)タレントマネジメント委員会メンバー、HRテクノロジーコンソーシアム会員、日本RPA協会会員を務める。

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