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味の素はなぜアクセンチュアと会社を立ち上げるか編集部コラム

2020年4月をめどに味の素がアクセンチュアと新会社を設立する。「グローバルスペシャリティカンパニー」を目指し、持続可能な成長を実現するというが、一体、どういうことだろうか?

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 味の素が本社の管理機能の運用を丸ごと見直すと発表した。組織構造の改革に着手した格好だ。改革は自社の人員だけでまかなうのではなく、またコンサルタントを入れたり専任チームを作るのでもなく、自社およびアクセンチュアが出資して合弁会社を設立して実施する。

 2020年4月の設立を予定する新会社の出資比率は味の素が67%、アクセンチュアが33%。新会社の名称は「味の素デジタルビジネスパートナー」。味の素グループのマーケティングなどを担う味の素コミュニケーションズの社長である吉宮由真氏が新会社の代表に就任する。

 新会社は「コーポレート組織(人事、総務、広報、調達など)」の機能を味の素グループ全体に共通サービスとして提供する計画だとしている。その際、RPAやアナリティクス、AIなどのデジタル技術活用やBPRを組み合わせて業務プロセス全体の最適化を図る。味の素の代表取締役専務執行役員である栃尾雅也氏は今回の合弁会社設立について「自社単独では実現できない革新的な業務改革」「付加価値の高いプロフェッショナル人材の育成」の両方を目指し、「顧客価値創出を推進できる構造に転換」するとコメントを発表している。

「スペシャリティ」強化と両輪で進む業務改革の中身

 味の素の中期経営計画によると、「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」を実現し、2020年度までに「グローバル食品企業トップ10クラス入り」を目指して事業ポートフォリオを強化するという。

 同社は「スペシャリティ」を「先端バイオファイン技術に立脚する素材力というハードの力と、個別化・多様化する顧客向けに価値を創造していくソフトの力の融合から生まれる高い付加価値のこと」と説明しており、アミノサイエンスに関連する知的財産や技術力そのもの、マーケティングやサービス開発の力に付加価値の源泉を見る。裏返すとそれ以外の領域は、極力軽量化して体力を強化したい、という考えの表れでもある。自社でなければできない事業の強みをより先鋭化させるため、研究開発や設備の転換を強化する計画も示してきた。


脱コモディティの戦略の例(味の素が公開する中期経営計画説明会の公開資料より抜粋)

 下の図は味の素が公開する中期経営計画説明会の発表資料の一部だ。デジタルトランスフォーメーションへの注力などが発表されたのと同時に、経営基盤の強化としてグループを横断した組織の最適化が示されている。


味の素の経営基盤強化施策(味の素が公開する中期経営計画説明会の公開資料より抜粋)

進む日本企業の体力強化

 新サービス創出を目指したデジタル変革を推進する、という文脈の中で外部のプロフェッショナルと協働で新会社を立ち上げる例は少なくない。

 例えば建設業界向けのオープンIoTプラットフォームを提供すべく、コマツやSAP、日本マイクロソフトらが設立したLANDLOGや、ソニーとZMPが協同出資して設立した産業用ドローンサービスのエアロセンスなどの例が思い浮かぶ。あるいはグループ共通の機能を別会社化して共通サービスとして提供したり、丸ごとアウトソーシングに頼る例は、昔からあった。だがバックオフィス部門の効率化を目的にコンサルティング会社と共同で別会社を立てた例はまだ多くは聞かない(筆者が知らないだけかもしれないが)。


LANDLOGが提供するソリューションの1つ、「コマツトラックビジョン」のデモ(LANDLOGのWebサイト公開動画より)

 バックオフィス部門の効率化については、グループ全体で5000人規模を配置転換の計画を示し、話題になった富士通の大胆な構造改革が想起される。自動化や効率化で余剰になった人員を、同社が注力するサービスやコンサルティング事業に振り向ける施策だ。


富士通が2018年に発表した経営方針の一部、注力領域への強化施策の1つとして構造改革が掲げられた(富士通「 2018年度経営方針進捗レビュー」公開資料より)

 富士通の場合、ITツールを活用した自動化や効率化に知見がある企業ならではの方法とも見えるが、今回の味の素のケースは非IT系の企業にもいよいよデジタル変革の機運が高まったことを示す象徴的な出来事と言えるのではないだろうか。

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