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SMBCの事例に見るIAの現状とこれから──「Intelligent Automation」講演レポート

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あらゆるエマージングテクノロジーを活用した、業務自動化の戦略策定から導入・実行までの包括的なアプローチであるIA(Intelligent Automation)。グローバルと日本のトレンド比較と実際のデリバリー事例についての考察、新たなステージへの移行についての講演「Intelligent Automation」が、2019年10月28日〜30日に東京都港区の虎ノ門ヒルズで開催されたオープンイノベーションの祭典「INNOVATION LEADERS SUMMIT2019」にて行われた。

「日本におけるIA現場から考察する新たなステージの移行について」と冠されたこの講演では、IAの定義やグローバルと日本のトレンド比較について共有。次に成功事例としてSMBCの事例が紹介された。後半のパネルディスカッションでは、新たなステージへの移行と題した質疑応答が行われた。

本稿では、同講演に登壇したEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社シニアマネージャーの藤平雄一氏とアソシエートパートナーの西村文秀氏、SMBCバリュークリエーション株式会社代表取締役社長の山本慶氏の発言要旨と、パネルディスカッションの様子についてレポートする。

Intelligent Automation(IA)とは

西村氏はまず、EYが考えるIAの定義について説明した。IAとは、テクノロジーを活用しつつプロセスと組織・人を移行するための一連のアプローチであるとし「昨今デジタル化が進む中でどういったテクノロジーをビジネスに活用していくか、その結果、どのような価値をステークホルダーに提供していくことができるかという会社の進むべき方向性を考えていくことが重要だ」と述べた。

また、同氏は「プロセスについても見直しが必要となるが、テクノロジーのみでそれを行うには限界があるため、ビジネス部門も変化を迫られることになるだろう」という見解を示した。そして、BPRやアウトソーシングで業務効率化を実現している組織がRPAやコグニティブといった技術を活用し、開発したロボットを社員に見立ててインソーシング(外部に委託していた業務を再び社内に取り戻すこと)に切り替える時代が近いうちに到来するだろうとの予測を示した。


EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社アソシエートパートナー 西村文秀氏

IA市場のグローバルと日本のトレンド比較

IA市場を大きく後押ししている要因として、西村氏は次の3点を挙げた。

  • 事業環境の急激な変化。グローバリゼーションの進展、ビジネスモデルの変容、マーケットの急速な移り変わりに対応するためのアジリティが必要
  • デジタルの民主化。ツール同士の連携強化により複数テクノロジーの組み合わせが容易になった。ユーザーが自ら自動化を実現するための機能が拡充された
  • 労働人口の減少と働き方改革。人材の獲得競争はさらに激化する。労働生産性を向上し、柔軟性のある労働環境を実現することが急務

同氏は、この3点のメガトレンドを踏まえた調査機関のレポートについても言及した。大手Gartnerによると2016年に2.5億ドルであったIA市場は2021年には29億ドルに達し、5年で10倍の成長率を示すことが予測され、Forresterによると2021年までに事務、管理、営業に関するタスクを実行するロボットは400万体超になることが予測されることを明かした。

次に西村氏は、IAをめぐる日本と欧米の状況の違いについて、戦略、プロセス、組織・人、テクノロジーの各項目を説明した。

戦略については、日本は部門単位の個別のニーズからボトムアップ型で導入を推進しているのに対し、欧米ではIAのガバナンスを構築した上でのトップダウン型の導入が推進されている。そのため導入の規模もエンタープライズレベルの大規模なものとなっていると述べた。

プロセスについては、欧米がIA導入の下地となる業務整理・標準化ができているのに対し、日本では業務が属人化しているケースが多く、IA導入前の業務の標準化に多くの時間がかかることがあると明かした。

組織・人については、日本では業務部門におけるデジタルスキル習得に関心が低いのに対し、欧米ではデジタルがビジネスパーソンンのキャリアにおける重要な要素と位置づけられていると語った。

テクノロジーに関しては、日本ではRPA一辺倒になっているのに対し、欧米ではコグニティブを利用した非構造化などのさまざまな自動化を実現している。その理由として、日本ではデジタルスキル自体が欧米と違ってコンピテンシーとして位置づけられていないことを挙げた。

欧米でRPA以外のIoT、BPM、Process Miningが積極的に活用されているのに対し、日本ではRPAが中心となっている理由として西村氏は次のように述べた。

「大胆な改革よりも現場での改善を好む日本的な企業文化や働き方改革が大きく影響していると思われる。この流れは今後も続くのではないか。日本はRPAによってIA市場が育っていくと考えている」

そして、RPAの導入では最初に戦略をしっかりと立て、ロードマップを引くことが大切であると述べ、RPA導入の際に同社が実施しているOperating modelについて紹介した。

生産性を最大化するためのSMBCにおけるIA戦略とは

続いて、2017年よりSMBCにて業務効率化を目的とした業務コンサルティングを支援している藤平氏が登壇。実際のデリバリー現場からの考察が行われた。

同氏によると、RPAによる業務効率化施策の背景には、銀行の低収益環境を背景としたコスト削減と、多様化する顧客ニーズ、複雑化する規制要件への対応があるという。このような状況下で、各部門における業務効率化のニーズには次のようなものがあると明かした。

  • フロント部門/増加する商品知識をキャッチアップして顧客に提案するための提案内容の深耕
  • ミドル部門/紙ベースを前提とした業務の負荷を解消し、高付加価値業務へのリソースシフト促進
  • バック部門/規制や顧客本位の営業体制確立に向けた内部管理の高度化をサポートするための、効果的なガバナンス強化

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社シニアマネージャー藤平雄一氏

また、藤平氏は、生産性を最大化するためには、次の3点が重要であると述べた。

  • 業務の意義・必要性の検証
  • エンドツーエンドでの業務フロー確認
  • 横断展開の可否を検討する視点

テクノロジーはあくまで手段であり、何のために自動化を行うかという大義を定義しないままRPA導入を進めると、使われないロボットが出るなどの非効率な結果に陥ってしまうと語る藤平氏。負荷をテクノロジーに代替するのではなく、自動化の意義や必要性を検証することが大切だと強調した。

また、業務はフロントからミドル、バックまでつながっており、一気通貫して分析することで業務全体のどこが自動化できるかを見極めることが大切だとも述べた。ある業務を自動化することにより、似たような業務も自動化できるのではないかと考える視点を持つことが重要だという。

次に、藤平氏は参考事例として2つの事例を挙げた。「顧客往訪の事前準備ロボット」と「不動産登記情報の転記ロボット」である。

「顧客往訪の事前準備ロボット」は、営業担当者が顧客を訪問する日の朝、投資信託の損益レポートと運用推移レポートを担当者に向けてメールで送るロボットである。このロボットを開発したことにより、属人化された情報収集アプローチではなく、標準化された方法で提案内容に網羅性を持たせることができるようになったという。

また、営業担当者が顧客を往訪する業務には4つのアプローチがあることがわかり、ほかのターゲット選定や顧客アプローチ検討、ツール収集にもRPA化の範囲を拡大している。さらに、法人営業や中小企業の特化型営業でも重複箇所の業務でロボットが使えるのではないかと考え、応用している。

藤平氏は、ロボットを使って情報収集ができるようになったことで、次のステップとして富裕層とマス層に分けて情報を収集・配信することを考えていると述べた。富裕層に関しては収集したデータを教師データとし、ロボットが示唆出しを行うところまでをすでに自動化しており、マス層に関しては、結婚や退職といった顧客のイベントを読み取り、適切な商品を営業担当者に配信するロボットを開発していることを明らかにした。

「不動産登記情報の転記ロボット」は、アパートの債務者評価資料に不動産登記謄本のデータを転記するロボットである。紙ベースかつ複雑な事務処理を自動化することで担当者の負担を減らし、紙媒体の登記謄本からExcelへの転記を前提としていた業務フローを、行内で他用途のために構築されたデータベースを応用することでRPA化を実現した。また、ただ転記するだけではなく、登記謄本申請から債務者評価資料の検証までを一気通貫で、自動化できるところはすべて自動化したという。

藤平氏は、不動産ローンを扱う業務は多々あるため、登記情報を最も多く取得しているところとして法人営業部門の期中管理をピックアップし、RPA化していると述べた。RPA化によりデータが蓄積されるため、そのデータを教師データとして使うことで顧客に最適な商品の提案につなげようとしていると今後の展望について語った。

2019年度には300万時間削減達成見込み――圧倒的生産性を誇るSMBCプロジェクトと新たな挑戦

山本氏は冒頭、SMBCにおける生産性向上プロジェクトについての想いを語った。

現在、働き方改革やこれに伴う労働規制の強化によって労働時間が制約されている。働く時間を自由にコントロールできない中、労働時間の制限がなかった当時と同様、あるいはそれ以上のパフォーマンスを求められることで現場には大きな負荷が生じている。このような事態を打開するために「RPAをトリガーとした圧倒的な生産性改革プロジェクトを始めた」(同氏)という。

次に山本氏は、会社が強くなるために必要な「3つのS」について言及した。3つのSとは「Strength」「Sustainability」「Scalability」のことであり、スキルアップによる人の強化と組織の枠組みの強化、一過性で終わらせない継続性のある仕組み作り、RPAのインパクトをスケールさせる全社規模での導入がこれに当たる。

「3つのS」を実現させるために必要なこととして、同氏はまずトップダウンアプローチを挙げた。経営にコミットした大規模なRPAによる自動化を、スピード感のあるアジャイル型開発で行い、早期に効果を実感させ、取り組みを加速するというサイクルを積み重ねたという。

山本氏はボトムアップアプローチについても次のように語り、重要性を強調した。

「トップダウンアプローチのみだと時間の経過とともに形骸化して熱量が下がってくる。しかし、従業員が目の前にある業務をロボット化することで、従業員自らの主体的な意識改革につながり、継続的な生産性向上につながる。現在、約600人の従業員が自身の業務をRPAに代替し、新たなチャレンジを行っている。」

同社では戦略的事業領域にエース級の人材を早期にアサインするためのロードルールがある。ロボットを新しく入ってきた新人とみなし、従業員が新人であるロボットに自分の仕事を委譲し先輩の仕事にチャレンジできるようにしている。また、2年間で1,000人以上の従業員をRPAに代替可能な業務から解放し、2019年9月末時点ではすでに290万時間(1,450人分)に達している。

同社の実績について大手調査会社は「世界的に見ても短期間で最も効果を上げた生産性向上プロジェクト」だと評している。

山本氏はこれらの実績を踏まえ、SMBCバリュークリエーション株式会社を設立した想いについて次のように語った。

「SMBCで培ったノウハウをお客様に伝えることが自分の使命だと思っている。実際に多くのお客様からノウハウを伝えるだけでなく、一緒に業務改善に取り組んで欲しいと言われている。その期待に応えるために、銀行の枠を超えた新しい会社を設立した。我々が何を考え、何に失敗し、どう工夫したのかを知って欲しい。業務改善のために超えなければならないハードルがいかに低くなるかを会場のみなさんと一緒に共有したくて、今日ここに来ている。我々は自らが実現した生産性向上施策やノウハウをさらに磨きたいと思っているし、結果を出すことにしっかりコミットしていきたい」と締めくくった。


SMBCバリュークリエーション株式会社代表取締役社長山本慶氏

新たなステージへ向けて――IAの今後の展望

最後に「新たなステージへ向けて」というタイトルでパネルディスカッションが行われた。5つの質問が提示され、それぞれについて登壇者が回答するという形式で進められた。

質問1「プロジェクトで見えたRPAの効果」

山本氏は、ロボットによる業務の代替も重要だが、より重要なのは従業員の業務に対する意識が変わるという効果であるとの見解を示し、次のようにコメントした。

「RPAによる自動化が進むと従業員が新しいアイデアを出したり工夫したりするようになる。従業員がオーナーシップを持って、自らの仕事の改善を簡単にできるデジタルツールは少なく、その点について我々は“RPAによる生産性の改善力”を高く評価している。」

続いて藤平氏は次のようにコメントした。

「RPAで効果を出すためのポイントは、As-Isの業務の可視化だと考えている。マニュアルのある業務でもマニュアル通りに行われていないことがあるため、現場でのヒアリングを通して業務の組み立てを一から行う。マニュアルだけを見てロボットを開発してしまうと、結局使われないということになりかねない。しっかりとした効率化を実現するためには、現場に足を運ぶことが不可欠だと考えている」

質問2「RPA導入プロジェクトにおいて苦労した点」

山本氏は質問の回答として次の3点を挙げた。

  • 期待値コントロール
  • 保守体制の整備
  • ROIコントロール

期待値コントロールについて同氏は「RPAの推進においては、RPAの導入によって何をなし得たいのかという目的の共有が極めて重要である。また、実際に導入する際には、RPAの得意なことと不得意なことを正確に現場の従業員が理解することが継続利用の上で、肝となる。」と説明した。

また、保守体制の整備については次のようにコメントした。

「あらかじめ保守体制を整えておくことが、ロボットの管理のしやすさやエラーが起こった際の迅速な対応につながる。RPA化の規模に応じた保守体制を構築しておくことは、実現した効果を維持改善する上で必要不可欠だ」

ROIコントロールについては「高いROIが見込める大規模な開発と現場の業務の自動化を組み合わせて行うことにより、全体を通してROIを高めるということ」と説明した。

質問3「これから始める皆さんへ RPAプロジェクトを円滑に進めるための重要なポイントとは?」

山本氏は「まずゴールを共有し、RPAはあくまで手段であるとの考え方が極めて重要である。そのうえで、“トップダウンアプローチ”と“ボトムアップアプローチ”の両方のメリットを享受できるようなプロジェクト運営を心がけることが成功の秘訣」と語った。

質問4「RPAの拡張に悩んでいる皆さんへ RPAプロジェクトを拡張させるための重要なポイントとは?」

山本氏は「全員が目指せる目的の設定」と「拡張可能なRPA製品の選定」、さらに「保守体制の整備」が拡張のためのキーポイントだとコメントした。

質問5「RPAの未来をどのように考えているか?」

山本氏は「OCRやチャットボットなどのテクノロジーをプラットフォームとして支えるのがRPAである」と述べたあと、今の中堅や若手従業員に向けて、限られた時間の中で高い生産性を実現してほしいとして次のように述べた。

「10年前の先輩たちと違い、今の人たちは制約された労働時間の中でパフォーマンスを評価される。そのため、先輩たちと同じパフォーマンスを発揮するためにはテクノロジーの手助けが必要だ。もし、テクノロジーを活用して生産性をあげることができれば、結果として成果を上げ、かつ余力時間も得ることができる。さらに、その余力時間で自らの成長を図ることができれば、先輩たちよりもずっと早く成長することも可能となる。つまり、テクノロジーを使いこなせる人が次の時代を価値あるものにしていける。RPAはそのきっかけとなるソリューションだと考えている」

IA市場の最前線、SMBCプロジェクトの成果といった凝縮された内容を聞き、日本のDX市場のトップランナーであるSMBC×EYの動きに今後も注目していきたいと感じた講演であった。

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