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中堅中小企業にRPAが普及する日はくるのか

「RPAを開発できる人材がいない」「RPA化できるだけの大量の定型作業がない」「コストをかけられない」といった理由で、中堅中小企業にとってRPA導入のハードルはまだまだ高い。この課題に対する解決策を各ベンダーが打ち出し始めた。ざっくりと、どのようなものがあるのかを見ていきたい。

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 最近、RPA(Robotic Process Automation)ベンダーやRPA導入のコンサルティングを請け負う企業で「これからは中堅・中小企業です」という話を聞くことが多い。

 一般に「比較的安価に導入できる」「プログラミングの知識がないユーザーでも簡単に開発できる」として、比較的規模の小さい企業でも使いやすいといわれるRPAだが、実際には1ライセンスで100万円程度の費用がかかる上、ツールを操作するにはそれなりの勘所や研修が必要になる。大企業に比べて、予算やリソースを確保しにくい中堅・中小企業では、導入のハードルはまだまだ高いようだ。

 実際に、ITmediaエンタープライズで実施した「RPA(Robotic Process Automation)の導入状況に関する調査」(調査期間:2019年9月25日〜10月9日、対象者399人)では、従業員数が500人以下の企業におけるRPAの導入率は25%だった。

 導入したユーザー企業に「RPA、どうですか」という話を聞いてみた際にも「大企業のように大量の定型作業がないため、それほど費用対効果を出せない」「そもそも兼業で仕事をしていることが多いので、費用対効果を算出しにくい」といった声が挙がった。

 さらに、運用が始まっても「ロボットが止まった際にも気付けない」「気付いたとしても、ノウハウを持った人がいないので、なかなか原因を究明できない」といった運用時のトラブルが大きなストレスとなるようだ。

 ある企業では「ロボットが、Excelのシートから応募者の名前とメールアドレス、生年月日を抜き出す」というフローを組んでいたが、シートの一部で応募者の名前が抜けていたためにロボットがエラーを起こし、原因を突き止めるのに相当の時間がかかったという。大企業であれば、ロボットの保守、運用にプロパーの人間を割り当てて対処できるだろうが、中堅・中小企業ではそうもいかない。

 こうした状況に対し「これからは中堅・中小企業です」という事業者は、実際にどのような解決策を打ち出しているのか。本当にざっくりとで恐縮だが、以下で挙げてみたい。

RPAのライセンスは無料に近づき、「アイテム課金」型になる?

 まずは「RPAのクラウド化」によるコストの低減だ。「クラウドRPA」とはその名の通り、RPAを月額課金(および従量課金)のサブスクリプションモデルで提供するもの。初期導入コストを大幅に抑えられる他、RPAを使った分だけ料金を支払う従量課金モデルを組み合わせられれば、ロボットの稼働率が低くてもROI(投資対効果)を出せる可能性がある。

 クラウドRPAは主に3つに大別でき、クラウド環境でRPAが動作し、クラウドにログインしてロボットの開発や制御を行う「SaaS型のRPA」、ユーザー企業が占有できるプライベートクラウドにRPAの環境を構築する「プライベートクラウド型のRPA」、出来合いのシナリオをクラウドからダウンロードし、ユーザーのローカル環境で利用する「シナリオ共有型」などがある。

 最後の「シナリオ共有型」については、「経費精算」など企業で必ず実施されている業務のシナリオを比較的安価(あるサービスは年間の利用料が1万円〜数万円程度で、数千円程度のシナリオ利用料が個別に加算される)に利用できることで、大量の定型業務がない企業でも、人手不足の問題に確実にアプローチしながら、投資対効果を出せるとしている。シナリオの開発作業を伴わないことも特徴だ。クラウドRPAに関しては「クラウドRPAとは? オンプレミス型との違い、3つのタイプを整理」でも説明している。

 開発と運用の課題を解決するサービスとしては、特定の分野に関する定型業務について、事業者が幾つかのロボットパーツを組み合わせてユーザー企業用に簡単なシナリオを開発し、月額の利用料の中でインターネットを通じて保守・監視まで代行するものもある。2019年の8月ころには、派遣会社の定型作業に特化したサービスが発表されていた。このサービスを提供する事業の責任者は「今後、RPAのライセンスは無料に近づくだろう。スマホゲームのアイテム課金のように、シナリオ毎に課金するというビジネスモデルにシフトしていくと思う」と話していた。

 「開発を容易に」という文脈では、RPAベンダー各社が継続的にシナリオ開発画面のUIを改善したり、これまでの開発画面の機能を絞って、新たに「現場ユーザー用」の開発画面を作成、提供したりしている。値段の話は置いておいて、RPAを「誰でも開発しやすい」ツールにしようという潮流があると考えられる。

 その他、RPA導入の際は、既存の業務の棚卸しに課題を抱えるケースも多い。解決策として、業務システムから排出されるログを解析することで、現状の業務フローを可視化する「プロセスマイニング」という技術があるが、費用が高くなかなか中堅中小企業が活用できるものではない。そこで、現場が簡単に業務を整理できるよう、何枚かのカードを使って現状を可視化するフレームワークを構想しているコンサルティング企業もある。

 こうしたサービスは比較的新しく事例も少ないので、その有効性のほどはまだ見えないが、中堅中小企業におけるRPA導入のハードルを下げようという動きがあるとはいえるのではないだろうか。キーマンズネットでは、今後も上記したようなサービスの導入事例などを紹介しながら、この潮流を追っていきたい。

 ちなみに、「シナリオ型のクラウドRPA」を提供する企業の開発部長によれば「中堅中小企業の人は、人手不足を何とかしたい、業務効率を上げたいという気持ちはあっても、その解決策としてRPAを活用するという選択肢があるとは考えていない。むしろRPAという言葉を知らない人も珍しくない。こうした企業の人々が『業務の自動化』という可能性を考えられるように、まずは『RPA』という言葉を辞めて、『お仕事自動化ツール』とするのもよいかもしれない」と話していた。数年後は、RPAという言葉は使われなくなり、別の言葉がブームになっているかもしれない……?

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