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「現場から勝手に良くなる」は危険――RPAの老舗 Blue Prismのエバンジェリストが指摘する、「日本型RPA」の問題点
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のベンダーや識者たちは、立場や思想は異なるものの、日本企業、ひいては労働人口減少に悩む日本のために貢献したいと共通の考えを持ち、積極的に導入を後押ししてきた。
だが、昨年後半から導入効果が踊り場にさしかかったようだ。ガートナーが2019年10月に発表した「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル」では「幻滅期」に入っている。またキーマンズネットが実施した実態調査では、導入した企業の約8割は「業務削減効果が30%以下」にとどまっているとの認識を示したことからも、思惑通りの効果が得られていないことが推測される。
実際に「RPAを導入したものの、期待していたような効果が得られていない」と失望するマネジメント層の声が増えているようだ。そう明かしてくれた一人が、Blue Prism株式会社でエバンジェリストとして活動する市川義規氏だ。
「様々な思想があっていい。だが “日本型RPA”で一定以上の成果につながっていない企業が少なくないことは事実。このまま続けていたのでは、RPAは一過性のブームで終わってしまうのではないかと懸念している。“RPA”という言葉を世に送り出したBlue Prismの思想をお伝えしたい」
さまざまなユーザーや他のベンダーと接するなかで見えてきた、市川氏が考える日本型RPAの問題点について聞いた。
■記事内目次
- 「日本のRPAの世論を変えたい」
- 時間削減は途中経過。「本来実現すべき効果は何か」を見誤ってはいけない
- 「現場から勝手に良くなる」と誤解するマネジメント層に提言したい
- 「苦くないが効かない薬」に加工して飲ませた売り手にも責任
「日本のRPAの世論を変えたい」
−海外のIT業界では10年以上前から耳にする「エバンジェリスト」という肩書き、日本でもここ数年、増えてきているように感じます。ただ、RPAの業界では聞き慣れません。
セミナーの登壇などで、他製品の関係者と一緒になる機会は多いのですが、今のところ「エバンジェリスト」と名乗る方には、あまりお目にかかりません。
言葉としてはキリスト教の伝道師に由来しており、自分たちの考える「こうあるべき」を、社会がより良い方向に変わるように発信するのが役割です。セミナーをはじめ、Webメディア、今は個人でも発信できる時代なのでSNSも活用しています。また、社内において考え方をきちんと浸透させていくことも大事です。
私はBlue Prismには2018年から参画し、プリセールスとしてBlue Prismの良さをご説明してきました。日本法人社長の長谷から「日本のRPAの世論を変えてほしい」とミッションを与えられて、2019年の7月からエバンジェリストとして活動しています。
−Blue Prismの良さを伝えるだけでなく、「日本のためになる」使命も託されているのですね。そう考えた背景について教えてください。
まず私たちBlue Prismの「こうあるべき」をお伝えしますと、大前提として「投資対効果を最大化」することを念頭に置き、そのために貢献するのが、ライセンス、開発、運用といったすべてのコストを合わせた「総所有コスト(TCO)を最小化」する仕組みです。
例えば、ロボットがいろんな場面で活躍する先々のことを想定すると、多数のロボットを効率よく管理し、野良ロボットの発生で内部統制に不備が生じて監査で悩むことがないようにするべきです。あるいはロボットが稼働する環境を集約し、無駄なく稼働できる仕組みにしておく。そうすれば、安心で安価なロボットをどんどん増やせます。これは、Blue Prismだけでなくグローバルの正攻法だと言っていいでしょう。
−なるほど、RPA導入の際には、組織が先に仕組みを用意しておくべきだということですね。
はい。ところが日本では、そもそも業務の標準化が不十分で、各自のデスクトップ内で属人化されたままになっているケースが多くみられます。管理と実行の仕組みを用意し、業務を整理して効果の高い業務を自動化し、人間に代わるデジタル従業員を作っていくことが本来のRPAですが、「とにかく目の前の困った業務から、各自のデスクトップで自動化しよう」と導入が進んだのが「日本型RPA」だと分析しています。
RPAのP(プロセス)よりも小範囲のD(デスクトップ)しか自動化できないので、RPAの老舗を標榜する私たちとしては、なかなか「RPA」として認めがたいところがあります。
そして今、市場全体を見渡してみると「日本型RPA」で進めようとする動きが強いのですが、その結果、一定以上の効果を得られていないケースが多いのが実状だと分析しています。
実際、Blue Prismのユーザーではない方ですが、「何も変わらなかった」「話が違うと感じた」と言われたことがあります。状況を詳細に伺うと、最初はコンサルタントがやってきて「7〜8割の業務を削減できる」「だから投資はすぐ回収できる」という話だったそうです。でも実際は、現場のマネージャの感覚で、全体の1割弱の業務が減った程度。経営の目線で見ると、リソースは減っていないし、やっている業務も特に変わっていない。つまり、何も変わっていないように認識されるわけです。
RPAの現実にがっかりしている世論がある中で、正しいRPAの価値、投資対効果を最大化する方法を知ってもらう必要がある。それが私の使命感です。顧客に真の成功を収めてほしいからこそ、表現に気を配りながら、言いにくいことでもお伝えする場面が多々あります。
時間削減は途中経過。「本来実現すべき効果は何か」を見誤ってはいけない
−しかし、よく「○○万時間を削減する効果がありました」と公表されていますよね。それでも、何も変わっていないということでしょうか。
「効果」というからには、最終的には経営の目線から「コストが下がった」「売上が上がった」「新しい取り組みができるようになった」といった変化が重要で、厳密にいえば「○○時間削減」は効果ではなく、途中経過の指標でしかないわけです。
Blue Prismのユーザー以外から相談されることも多いのですが、みなさん「○○時間削減」は達成しているとおっしゃいます。でも、「RPAの運用を維持するのが大変だ」「去年の実績からすると今年はもっと削減できるだろう、と上司から期待され困っている」「結局、直接的にコストは削減できたのか、としか言われない」と悩まれていますね。
−時間削減が目的になってしまっているのですね。
あえて厳しい言い方をすれば、「現場の視点だけでしか考えておらず、財務諸表への影響も含めた経営の目線では考えられていない」とも言えるでしょう。また、削減時間の算定方法も不十分なケースがあると聞いています。ユーザーにRPAツールを配り、自動化させる。アンケートで「何時間削減できましたか」と聞く。そのアンケートを集計する。でも、その削減した時間を何に使っているかまでは調べない。中途半端で終わっているのが実態ではないかと懸念しています。
これで得られる効果は、多少の残業代削減や、年次有給休暇を5日取得できるので働き方改革法案の罰金を支払わずに済んだ、といった程度で終わっているケースもあると聞いています。このような状況では、投資に見合った効果とは言えないでしょう。
Blue Prismで「効果が出ている」という企業は、一様に高付加価値業務への配置転換など「何が変わったか」を効果として捉えています。RPAの導入についてご相談いただくマネジメント層の方たちも、本来はそこに期待されているはずです。だからこそ、広く使われているRPAの投資対効果の測定方法にギャップを感じているわけです。
−どうして、このような状況に陥ってしまったのでしょうか。
なぜ日本がこうなったのか、経緯や背景については、正確なことはわかりません。ただ、数多くのユーザーやパートナー企業と会話したからこそ言えることが1つあります。
キーワードは、「EUC(End User Computing)」です。様々な規模感を指す言葉ですが、日本型RPAは、もっとも矮小なEUCに成り下がってしまっているような気がしてなりません。業務ユーザーが主体となり、空いた時間を使ってロボット開発し、困っている人を助けるというのが、日本型RPAの特徴です。マネジメント層が本来期待する効果を出せていない場合は、ボランティア活動になってしまっていると言っていいでしょう。
誰でも使える簡単ツールを使って、各自の裁量の範囲で自動化をしていく。自動化すること自体が目的で、だからKPIも単純に削減時間になる。でも実際には、誰でも簡単に使えるわけでは無いし、運用保守の仕組みを事前に考慮しておかないと野良ロボットができてしまう。各自の裁量で自動化が成功したとしても、その削減時間を高付加価値業務に転換することは困難です。海外の事例で実現しているような、RPAによる大規模な効果には並ぶべくもありません。
これらの原因としては、まず「マネジメント層の取り組みのギャップ」を指摘しないわけにはいきません。
「現場から勝手に良くなる」と誤解するマネジメント層に提言したい
−マネジメント層の取り組みのギャップについて、詳しく教えてください。
RPAを導入すると、全社員が自主的に業務時間を削減し、勝手に高付加価値業務に転換し、気が付くと会社や組織の業績がよくなっていくという期待を伺うことがあります。もしそれが事実なら、マネジメント層はそもそも不要になってしまいます。しかし、現実はどうでしょうか。かつてExcelのマクロ、ロータスノーツなどのグループウェアを全社員にバラまけば、全社員が自主的に使いこなし、効率化が勝手に進んだでしょうか。気が付くと会社の業績は良くなっていたでしょうか。現場に任せれば自然と会社が良くなるという認識にギャップを感じます。
こんなエピソードがあります。ある企業のマネジメントの方とお話した際に、「市川君、君が話しているBlue PrismアプローチはRPAではないよ」とおっしゃられたのです。この方にとっては、さきほどご説明した「日本型RPA」こそが正しいRPA。「RPA」という言葉を作り、RPA黎明期に基礎作りに貢献したBlue Prismは、いわば異教扱いなのでしょう。
−海外で上手くいっている事例は、何が違うんですか。
経営目線で最終目標を定めています。だから投資対効果を最大化するために、必要であれば組織も柔軟に変えています。担当者を減らせるようになれば、それまでできなかった業務やボトルネックになっていた組織に再配置するなど、戦略的にリソースの見直しを行っています。
−なぜ、日本のRPAではそこまで踏み込まないのでしょうか。
様々な理由が考えられますが、心理的な面で言えば、業務を変えるリスクをとってまで、RPAの効果を最大化しようという気持ちになれないこともあるでしょう。例えば、キャリアステージの中でリスクを取りたくない状況で、上司から「RPAだ」「働き方改革だ」と言われた場合、失敗する確率が小さく、少しでも結果が出ているように見せられるやり方になってしまっても不思議ではありません。
RPAの導入自体が目的となってしまった場合、大きな投資対効果を目指して業務や組織に手を付けるようなことはせず、ツールを配って各自で取り組んでもらい、アンケート取って削減時間を集計し、報告して終わる程度で終わってしまう例もあると聞いています。そして、ある程度進んだところでIT(情報システム)部に移管してしまえば、うまく手離れもできます。
−現場任せではなくマネジメントが、「RPA導入によって本来何を実現すべきか」から考えていくことの必要性がよくわかりました。
もちろん、経営の目線から最終ゴールを考えていくというのは簡単な話ではないのですが、過去の成功事例を考えるとできないはずはありません。「ITと事業部門の仲が悪い」と言っても、過去にも内部統制対応や、ERP導入時に、組織横断で協力し業務を変えてきた成功経験があるはずです。RPAにおいても、マネジメント層が正しい目標を設定し、大きな投資対効果を上げることが必ずできるはずです。是非、マネジメント層は現場任せにせず、大きなビジョンを持ってRPAに取り組んでいただきたいと考えています。
高付加価値業務への転換も、現場が考えるのではなくて、マネジメントのリーダーシップがあってこそ成功すると思います。仮にRPAで時間を作り出せたとしても、マネジメントの意思がなければ、現場の人間が自発的に高付加価値業務へシフトしないと思います。私だって、自分が楽しめることに時間を使ってしまうかもしれません。百歩譲って会社や組織のために高付加価値業務を考えたとしても、自分だけの権限ではできません。
私も昨年までは「日本には日本独自のRPAがあるかもしれない」と思って勉強してみましたし、先ほどご説明した「日本型RPA」にBlue Prismがどう合わせればいいのか、随分と悩みました。日本型RPAの動機付けは素晴らしいし、確かに良さもあると思います。
しかし、「運用管理の負荷増大」、「野良ロボットの蔓延」、「高付加価値業務につながらない」などの課題も多く伺うようになりました。それらの課題を、お客様のためになんとか解決したい。そう思って考えを深めていくと、結局Blue Prismの「こうあるべき」姿に戻っていくことになりました。一周して戻ってくる感じですね。今年に入って改めて、Blue Prismが持つ「本来のRPAの思想」を日本でも最初から取り入れたほうがいいと確信しました。
「苦くないが効かない薬」に加工して提案した売り手にも責任
−なぜ日本では「日本型RPA」が広がることになったのでしょうか。
自戒の念を込めてあえて言いますと、製品を作っている会社や、それを販売している会社も、本来お客様にご提供する価値は何かを考えることなく、ブームに乗せられた部分があったのではないでしょうか。
RPAを薬に例えて考えるとわかりやすいかもしれません。副作用のない薬なんて考えられないですよね。でもRPAは、誰かが加工して「この薬はよく効くし、しかも苦くないですよ」と言い始めたのではないかと思っています。同じ「RPA」という名前ではあっても、加工によって薬の効き目は変わってしまいます。
かつてのERPパッケージ導入ブームと同じような状況ではないかと想像しています。パッケージを導入する大きな目的には、グローバルの優れた標準業務に「自分たちが合わせる」ことでオペレーションを洗練させることや、短期間で安価にシステム化することがあります。組織を横断してリソースを一元管理する必要もあります。ところが日本では多くの企業がカスタマイズを加え、モジュールをバラバラにし「自分たちに合わせる」方法を選択しました。現場の声を丁寧に拾いすぎ、副作用を最小限に抑えたからでしょう。このようなアプローチでは、企業全体の視点で見たときに、本来の目的を失っている可能性があります。
何のためにパッケージを選択したのか。なぜ本来の目的から逸脱したのか。パッケージの導入業者にも少なくない責任があったのではないかと振り返っています。もちろん悪意はなく、目の前で困っているお客様を助けたいという思いが当然あったはずです。おそらくRPAも同じような経緯をたどっているのではないでしょうか。困っている人を助けたいという思想に過度に同調すると「RPAは絆創膏のようなもの、期待を多くしてはいけない。本当に変えるならシステム化すべき」という方向性に流れていってしまうと思います。社員全員に配る絆創膏としてはずいぶん高価ですが、それを本当に必要と考えるかどうかですよね。
−その結果、市川さんたちの思想からすると、ややもすれば「間違ったRPA」が伝導されてしまっているわけですよね。
あくまでも思想なので、絶対的な正解はありません。正しいか間違っているかは、最終的には主観の問題です。ただ、本当に成功していただくために、私たちとして正しいと考える思想があり、その根拠が客観的に成立しうると確信しているのであれば、正しく伝えなければならないと思います。だから私のようなエバンジェリストが必要だ、という結論になりました。
−今後、「日本型RPA」の問題点を克服するには、何が必要なのでしょうか。
一番に、絶対的な効果を望んでいるマネジメント層の方に対して「きちんと戦略的な“仕事”として取り組むようにすれば、きちんと効果は出る」と申し上げたいです。
現場任せにするのではなく、業務効率化とは何か、高付加価値業務とは何なのか考えて、最終的なゴールをマネジメント層が経営目線で定義していただきたいと思います。業務や組織の変革が必要なのであれば、それも推進し、リーダーシップを発揮して責任を負って取り組んでいただきたいと思います。変革なしでは大きな効果が出ないことはご存知だと思いますので、一時的には痛みがともなうのであれば、そのことも社内にきちんと説明して、大きなビジョンを持ってRPAの導入を進めていただきたいです。
もっとも、最初からドラスティックに変える必要もありません。EUCが完全な間違いというわけでもありません。過去の教訓に学び、制御や管理が実装されたEUCとしてスタートすることも時には必要だと思います。重要なのは最終的なゴールを正しく設定し、到達するためのリーダーシップを発揮していただくことです。
そして、我々の同志である「RPA推進者」の評価を大事にしてください。「RPAを一生懸命やっても評価されない」、「軽く扱われて悲しい」という話は多いです。だからといって誰でも使えるツールで、ボランティア活動で困っている人を助けたという範囲の取り組みにとどまっていたのでは、人事考課で評価することができませんよね。
ですから、経営的な視点でRPAの目標をしっかりと定義、ブレークダウンし、RPA推進担当者にも戦略的な仕事として割り当てるべきなのです。そして、目標達成を人事考課に是非連動させてください。上手くいけば大いに称賛して昇進や昇給の一助とし、上手くいかなくても、その要因を分析して今後に役立てれば、会社や組織を良くしていくことができます。
−強引に踏み込んだ話までお聞かせいただき、ありがとうございました。最後にみなさんへメッセージをお願いします。
Blue Prismが考える「RPAでやるべきことを、きちんと戦略的な仕事として実施する」。そうすれば結果は必ず付いてきますし、私たちも是非お手伝いをしていきたいと思っています。一方で、そうしないとRPAは一過性の「ブーム」で終わってしまうような気がしています。
私が説明するまでもなく、このところ日本企業もBlue Prismが考えるRPA導入の正しい方向に向きつつあるように感じています。伝えるべきことをしっかりと伝え、悩みを抱える日本企業に貢献することが、エバンジェリストの使命であると考えています。
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