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デジタルレイバーと共につくる「持続可能な医療」──大学病院が着目するRPAの可能性

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RPA BANK

長時間労働の是正に向けた業務改善が強く求められながら、その解決策となりうるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用では立ち後れていた医療業界で、新たな動きが始まった。2019年9月6日、大学病院などの先駆的なRPAユーザーが「一般社団法人メディカルRPA協会」を設立。医療分野でのソフトウエアロボットの活用についてノウハウを集約し、普及を一気に加速する構想が明らかにされた。本記事では、こうした試みに加わる医師らが登壇したイベント「BizRobo! LAND 2019 TOKYO」(9月18日に開催)の講演概要をリポートする。

■記事内目次

  • 1.過重労働から脱する「マインドセット改革」「業務プロセス改革」にRPAを活用
  • 2.散在するデータをロボットで集約。医療の質向上へ高まる期待
  • 3.事務部門の効率化で狙う「医療現場の強化」
  • 4.ロボット普及のカギは「組織間での開発分担と共有」

過重労働から脱する「マインドセット改革」「業務プロセス改革」にRPAを活用

メディカルRPA協会は、PC上での定型作業を代替するRPAの活用を通じ、医師の過重労働対策や医療機関の経営強化、医療安全向上への貢献を提唱する「一般社団法人日本RPA協会」(大角暢之代表理事)に賛同した医療関係者らで構成。名古屋大学の医学部附属病院前病院長である石黒直樹教授が代表理事に就き、関係諸団体と連携したRPAの普及活動のほか、RPA活用の先進事例やノウハウを医療業界で共有するプラットフォームの提供を計画している。

医療関係者が多数参加したこの日のセッションでは冒頭、協会設立の背景にある医師の過重労働問題について、病院経営に詳しい千葉大学の亀田義人氏(医学部附属病院 病院経営管理学研究センター特任講師)があらためて整理。労働基準法の改正で今年4月から設けられた時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間)が医師には適用されず、病院勤務医の4割が「過労死ライン」とされる月80時間以上の時間外労働を強いられている状況を確認した。

亀田氏は「現場の献身的な努力に頼った医療は持続可能性に乏しく、(他職種へ業務を移管する)タスクシフティングが欠かせない。そのために重要なのが『働く人のマインドセット改革』と『地道な業務プロセス改革』だ」と指摘した。

同氏はその上で、細かいタスクのRPA化で人間が重要な業務に専念できること、またRPAの導入検討が既存の業務を見直す格好のチャンスとなることから「業務改革への活用を前提とすることで、RPAは圧倒的な威力を発揮する」と述べた。

亀田氏が所属する千葉大医学部附属病院では現在、事務部門を中心にRPAの活用を検討中。セッションではその一例として、医学文献の検索エンジン「PubMed(パブメド)」を使った論文検索と抄録整理の作業を自動化したロボットが紹介された。

「臨床と並び重要な医師の研究業務で、膨大な時間を要している情報収集をRPAに委ねたい」と亀田氏。こうした専門的な用途のロボットを、新設された協会を通じて医療機関が共有する構想を念頭に「エレベーターが高層建築を普及させたのと同様、RPA活用を前提とした組織体制から、ロボットと協働する新たな世界観が生まれるのでは」と期待を語った。


千葉大学医学部附属病院 亀田 義人 氏

散在するデータをロボットで集約。医療の質向上へ高まる期待

既にRPAを活用している医療機関のIT部門からは、東京歯科大学市川総合病院の西河知也氏(医療情報システム課長)が登壇し、具体的な取り組みを紹介した。

570床の入院設備を持つ同院の業務では、およそ800台のPCが用いられ、電子カルテや医事会計、画像診断など約60種類のシステムと接続している。2018年6月から始まったRPAの導入検討では「医療の質と安全の向上」「事務作業の効率化によるタスクシフティング」などを目的に、システム連携を伴う作業への適性を検証。翌年7月からRPAツール「BizRobo!」の本格導入を開始した。

現在ロボットは、入院した患者に関する帳票の印刷作業や、カルテの点検作業などで活用。造影剤投与を伴うCT・MRI検査が可能か判断するため放射線技師が毎日行う、腎機能検査結果との照合作業にも近く応用される見通しという。

このうち西河氏は、帳票印刷を自動化したロボットの効果について、自ら手作業で試行した結果と比較しながら解説。「前日に入院した患者をリストアップし、該当者の情報を電子カルテから抽出してExcelに転記後、PDFファイルに変換して印刷する工程を何度繰り返してもRPAの作業速度は落ちない。作業量が増えるほど高い効果が得られる」と語った。

同氏はまた、医療現場の負担軽減にとどまらず、医療の質を向上させるためのRPA活用も重要だと強調。医師の迅速な判断を支援するため、従来個別に管理されてきた「薬効と副作用」「問診票と手術中の容体、術後の記録」などのデータを一元的に参照できる仕組みを計画していると明らかにした。

「こうした連携を継続して実現できるRPAは、医療の世界に『インターフェース革命』を起こす」と予言した西河氏。RPAへの取り組みが、今後同院で進めていくペーパーレス化やビッグデータ活用の下地になると結論づけ、発表を終えた。


東京歯科大学市川総合病院 西河 知也 氏

事務部門の効率化で狙う「医療現場の強化」

メディカルRPA協会の設立にあたり中心的な役割を果たした名古屋大学医学部附属病院からはこの日、救急・集中医療医学分野 医局長の山本尚範氏が登壇。RPA導入までの経緯と現況を報告した。

同院は2016年3月、救急科の医師21人中9人が一斉退職。これをきっかけに「働き方改革」への取り組みを本格化した。

その渦中にいた山本氏は「(勤務医不足の)抜本的な解決策はないものの、放置すればどんどん医師がいなくなる」との危機感から改善の糸口を模索。同院が第三者機関の認証を取得したのに伴い「救急外来から集中治療室に移る患者1人につき1時間近くかかる」(同)事務手続きが一層煩雑化すると見込まれたことから、事務作業を効率化できるRPAの活用を病院執行部に提案した。

最終的に、当時院長だった石黒教授の決断で導入が決定。院内の17人で結成したプロジェクトチームは2018年12月から対象業務選定に入り、総務・人事労務・経営企画・経理・医事の各課での実証実験を経て翌5月、全事務部門へのBizRobo!の本格導入に踏み切った。

これまでに同院の職員が自作した「勤務時間集計」「収支簿作成」など9つのロボットでは、合計で年9,800時間相当の業務効率化が見込まれている。さらに、システムとの自動連携が最大限達成できれば、同1万7,000時間相当まで効果を拡大できる見通しという。

着実に成果を上げているRPAと、当初の狙いである医師不足対策との関係について山本氏は「『医療職が患者とどれだけ多くの時間を過ごせるか』に尽きる問題で、そのための体制構築がRPA導入の目的だ」と説明。既に同院では事務部門に対し「10年先・20年先には必要ないと思われる業務が手元にあればRPAなどで置き換え、代わりに医療機関として価値を生んでいる現場に加わる方法を考えてほしい」との呼びかけが行われていると語った。


名古屋大学医学部附属病院 山本 尚範 氏

ロボット普及のカギは「組織間での開発分担と共有」

山本氏はさらに、今後のRPA活用拡大についても言及。医療機関の業務には共通する部分が多い一方、人員は施設ごとに配置されている状況を踏まえ「『経理はこの病院』『人事労務はここ』など、ロボット開発を全国で分担し、その成果を共有して開発効率を上げたい。それが今回、当院が協会設立に加わった最大の理由だ」と述べて賛同者を募った。

大学病院経営に長年携わり、この日司会を務めた村山典久氏(スカイライトコンサルティング株式会社 事業開発特別顧問)は、セッションの結びにあたり「ロボットの共同開発をどのような枠組みで進めるべきか、医療機関からの意見がほしい」と発言。「『医療業界の現状をなんとか変えたい』という方々に集まってもらい、日本の医療をよりよくするための対策を、RPAの枠にとどまらず考えられたら」と述べ、協会への参加を呼びかけた。


スカイライトコンサルティング株式会社 村山 典久 氏

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