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RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)をテーマにした国内最大規模のイベント「RPA DIGITAL WORLD 2019 WINTER in TOKYO」(RPA BANK主催)が2019年12月9日、東京都千代田区の東京国際フォーラムで開催された。
期待先行のブームに乗ったRPA導入ラッシュが一巡し、地道な実践で課題に直面する企業が増えた首都圏では、RPAが「幻滅期」を迎えたとの声がたびたび聞かれるようになった。その一方で、自社の実情に合ったツールと戦略を見極めて着実に導入規模を拡大しているユーザーも少なくなく、こうした課題感や知見を反映した製品・サービスも引き続き活発に発表されている。
本記事では、なお手探りの要素が多い「RPA普及期」にあって奮闘する担当者に光明をもたらした同イベント基調講演の2セッションと、展示会場で行われたハンズオン/デモンストレーションセミナーの模様、さらに展示内容の一部をピックアップして紹介する。
■記事内目次
- 1.【基調講演】生産性向上の先に見据えるべき「幸福」と「次なるイノベーション」
- 2.【ハンズオン/デモンストレーションセミナー】ロボット開発を身近にする新ツールに高まる関心
- オートメーション・エニウェア・ジャパン株式会社
- 富士ゼロックス株式会社
- 株式会社パワーソリューションズ
- 3.【展示ブース】「手ごろな導入」「手厚いサポート」の提案が相次ぐ
- ディヴォートソリューション株式会社
- エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
- 株式会社セラク
【基調講演】生産性向上の先に見据えるべき「幸福」と「次なるイノベーション」
「生産性という言葉が、私はあまり好きではない。企業である以上、生産性を上げなくてはならないが、その先にある幸せが何かを考えることが大切だ」
この日の壇上からそう訴えたのは、リアルなロボットが館内で活躍する「変なホテル」の仕掛け人である富田直美氏(株式会社hapi-robo st 代表取締役社長)。同ホテルを初めて開設した長崎県のテーマパーク「ハウステンボス」で最高技術責任者(CTO)も務める自身の経験から、ロボットをはじめとするテクノロジー活用の要諦を説いた。
富田氏によると、荷物を預かるロボットアームや、ルームサービス用の自律走行ロボット、さらにキャッシュレス決済の無人販売などを駆使している同ホテルは、人件費を抑制することでのコスト効率向上と、利用客へのエンターテインメントの付与という“一挙両得”をコンセプトとしている。
エンタメ性が支持されて全国にチェーンを拡大する一方、変なホテルの現場では日々さまざまな問題も生じているといい、例えばロボットが案内するチェックイン手続きでは、スマートフォンやゲームに親しんだ若年層が難なくこなすのに比べ、不慣れな大人は手間取ることが少なくないという。
同じ家族の中でもリテラシーには差があり、もし家族連れのチェックインで“不穏な雰囲気”が漂うと「奥で待機する従業員がすぐ駆けつけるようにしている」と同氏は説明。「適切なタイミングでサポートできれば、感謝されこそすれ怒られることはない」とも述べ、日々の実践を通じ「人とロボットのベストマッチ」を探究していることを明らかにした。
単独のテーマパークでは国内最大となる約1万6,000?の私有地にオランダの街並みを再現したハウステンボスは、法規制が厳しい公共空間での実施が難しい、新たなテクノロジーの実証実験を積極的に進めることでも知られる。
富田氏は動画を交え、それら取り組みの一端を紹介。単純な挙動の組み合わせで、全体として複雑な振る舞いをする「群制御」の応用ではPC1台でドローン300台を自動操作し、花火に代わる動的なイルミネーションを実現したが、これは技術的達成であるとともに、危険な火薬を使わずに済むなどの利点も大きいという。
同氏は「技術、知識、お金の多寡は幸福と直接関係がなく、ただ持っているだけでは意味がない」と強調。「他の人を幸せにすれば、自分が幸せを感じられる。だからこそ手元にある技術を実際に使って、どう人を幸せにするかが重要だ」と説いた。
さらに富田氏は、既に相当低廉な無線通信のインフラが全国を網羅しているにもかかわらず「それらが十分に生かしきれていない」と指摘。ビデオチャットの画面を備え、遠隔指示で特定の場所に移動したり、その場の誰かを追従したりできるパーソナルロボットの普及に自社が取り組んでいることを紹介した上で「道具は買えても時間は買えない。RPAによる業務効率化で時間を創出するのと同時に、時間と手間をかけて集まらなくても大切な情報が得られる方法もあると知ってほしい」と呼びかけ、セッションを終えた。
この日はまた、規制緩和に注力した小泉内閣で政策に携わった元経産官僚の岸博幸氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)も登壇。マクロな経済政策の視点から、RPAによる生産性向上の意義について語った。
岸氏は2001年以降、IT担当大臣・郵政民営化担当大臣などを歴任した竹中平蔵氏の側近として政権中枢を支えた経験の持ち主だ。この日の講演冒頭では、金融緩和・財政出動を柱とする現政権の経済政策を「ツケは先送りにして将来の需要を先取りしており、経済成長率の向上にはつながらない」と批判。さらに「来年の五輪開催は楽しみだが、一時的な建設・観光需要が収束すれば経済が落ち込むのは当たり前で、過去の五輪開催国でも開催後の景気は必ず悪化している」と述べた。
続けて同氏は「もし人口増で需要が増えれば景気は確実によくなるが、目下わが国は人口減少が加速しており、移民の大規模な受け入れも社会的混乱を招きかねない」と状況を整理。こうした中で経済成長率を改善するには「人口減を上回るペースで経済の生産性を高める」ほかないものの「その主体となる民間が自由に活動するための規制緩和に対し、現政権の関心は低い。日本銀行の予測でも2020年代の日本の潜在成長率は、好景気の目安となる2%に遠く及ばない0.9%だ」と、かなり厳しい見通しを示した。
もっとも岸氏は「確かに永田町と霞が関から見た景色は暗く、日本経済全体ではしんどい状況を迎えるかもしれないが、いかなる政治・経済状況でも、自分の領分で生産性を高めることはでき、やるべきことをやった企業や産業、地域は明るい展望が持てる」と発言。「RPA導入には、そこに至る個別企業の問題意識にとどまらない重要性がある」とも述べ、民間の自助努力で活用するRPAがもたらす生産性向上への強い期待を示した。
ここで同氏は、劇的な生産性向上をもたらす新しい価値を生み出すには「連続的なイノベーション」が求められるものの、多くの人が誤解しているのとは異なり「画期的な発明」や「技術革新」がないときでもイノベーションが起こせることを強調。理論の祖であるヨーゼフ・シュンペーターが100年以上前、イノベーションを「既にあるものの新たな組み合わせ」と定義したことにも触れ「ゼロから1を生み出す挑戦をしなくても、1+1が3とか4になる方法を見つければイノベーション。『既存のビジネスとデジタルの組み合わせで生産性を高める』という意味では、RPAの導入自体が既にイノベーションだ」と述べた。
こうした新たな価値をもたらす組み合わせに気づく創造性を育てるため、岸氏は
※社外から知見のある人を招いたり、自ら社外の常識を学びに行ったりして「知識の多様性」を増やす
※外部と連絡を絶って集中的に考える(ディープワーク)時間と、ネットをフル活用して調査や連絡などを行う(シャローワーク)時間を、仕事中だけでなくプライベートでも明確に分ける
という2点をアドバイス。「仕事よりも人手が足りず、他の先進国よりも生産性の伸びしろが大きい現在の日本で、業務自動化に伴うマイナス面への懸念は少ない。まずRPAを手始めに生産性を高めていき、空いた時間に新たな組み合わせを探してイノベーションを続ければ、国の政策が今後どのようになっても恐れることはない」と参加者らを激励し、セッションを終えた。
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【ハンズオン/デモンストレーションセミナー】ロボット開発を身近にする新ツールに高まる関心
48社が出展したこの日の会場では、実際のツール操作を体験する「ハンズオン」と、操作実演を交えた解説「デモンストレーションセミナー」を計14社が実施。最新ソリューションを間近で確かめられる機会とあって、ブースに収まりきらない立ち見も続出する盛況ぶりをみせた。
オートメーション・エニウェア・ジャパン株式会社
サーバー型RPAツール「Automation Anywhere」の国内販売元が開いたハンズオンの参加者は、グローバル展開する主要RPAベンダーで初となる完全クラウドベースの新製品「Automation Anywhere Enterprise A2019」によるロボットの実装にチャレンジした。
クラウドサービス化に伴い「インストール不要」「自動アップデート」「高い拡張性」などの特長を備えたEnterprise A2019は、手書きを含む帳票類のスキャンデータからAIが項目認識とデジタルデータ化を行う「IQ Bot」を利用可能。ユーザーインターフェースも大きく進化しており、自動実行する手順を「フローチャート」「リスト」「その両方」で表示する3モードのロボット開発画面を自由に切り替えることができる。
この日のハンズオンでは、CSV形式で保存された受注データを受注管理ソフトに転記するロボットの作成方法を伝授。PC画面上で行うマウス操作などをそのままロボット化する「レコーディング機能」とツール上の機能設定を組み合わせ、わずか40分でほぼ全員がロボットを完成させた。
作り上げたロボットが続々とリストを転記していく様子を見て深くうなずく参加者に、ブースの担当者は「今回の体験をもとに、ぜひ自社で自動化できそうなターゲットを想像してみてほしい」と呼びかけていた。
富士ゼロックス株式会社
複合機事業での知見を生かした文書管理ソリューションで、紙とデジタルが混在する業務の効率化を支援する富士ゼロックス株式会社はこの日、フランスEsker社のクラウドサービス「Esker on Demand」を核とした「買掛金管理自動化支援ソリューション」を紹介。操作の実演も交えて特長を紹介した。
同ソリューションは郵送やファクス、メール添付のPDFといった多様な形態の請求書をデジタルデータ化。契約情報との突合を経て会計システムに登録するまで一連の工程を自動化し、役職者の承認などのプロセス管理も行える用途特化型のサービスだ。
これらに類似する機能は、汎用的なRPAツールとOCRの併用によっても実現できるが、ブースの担当者は「RPAで個別の手作業を置き換える方法では、自動化した作業間のプロセス管理ができず、効率化の効果が限定される」と説明。富士ゼロックス社内でも活用している汎用ツールのRPAと、特化型である同ソリューションの併用を推奨した。
請求処理の用途に絞った同ソリューションのメリットは多岐にわたるといい、スキャンデータからの高い文字認識精度を誇るほか、様式の事前設定も不要。誤認識の修正結果をAIが学習するため、使い込むとさらに精度が高まるという。
国内展開から半年で既に成約企業も現れており、担当者は「請求書処理の作業時間を65%短縮した海外事例もある。デジタル文書保存の法規制にも対応しており、『電子化しきれない取引』を効率化するサービスとして、さらに認知を高めたい」と話していた。
株式会社パワーソリューションズ
RPAツール「UiPath」を取り扱う国内代理店51社のうち7社が認定された最上位の「ダイヤモンドパートナー」である株式会社パワーソリューションズは、同ツールに通じた自社エンジニア陣と、60社超の導入支援実績をアピール。デモンストレーションセミナーでは、UiPathから近日リリースされる新たなソフトウエアロボット開発ツール「StudioX」の特徴を解説した。
セミナーブースで同社の担当者は、既存の開発ツール「Studio」とStudioXの違いについて、実際に双方のツールを動かしながら、同じ機能の実装方法を比べるかたちで説明。多様な操作が可能な一方「変数」などプログラミング的な概念への理解が必要で入力項目も多いStudioに対し、Excelファイルの操作などに機能を絞ったStudioXは、順次示される候補を選んでいくだけで実装が完了するユーザーインターフェースになっていることを確認した。
RPAユーザー人口の増大が期待できる新たな選択肢の登場とあって来場者の関心は高く「双方のツールで、ロボットが作成・実行できる環境に違いはあるか」など、質問も盛んに寄せられた。
担当者は「Studio、StudioXのいずれについても、ロボットの作成と実行ではオンプレミス・クラウドの環境が選択可能。代表的なパブリッククラウドでの運用事例もある」と回答。「よりシンプルにロボットを作成できるStudioXがラインアップに加わることで、UiPathの導入企業では、働く人の身の回りからの業務自動化がいっそう容易になるはず」とアピールしていた。
【展示ブース】「手ごろな導入」「手厚いサポート」の提案が相次ぐ
エンタープライズからスモールスタート向けまで多彩なRPAツールが勢ぞろいした展示ブースでは、RPAによる自動処理に先立って紙文書をデジタル化するOCR(光学文字認識)関連の製品や、RPAの導入と運用をサポートする製品・サービスの提案も相次いだ。以下では、このうち3社の模様をピックアップする。
ディヴォートソリューション株式会社
デスクトップ型RPAツール「アシロボ」を2019年3月にリリースしたディヴォートソリューション株式会社は、同ツールを体験できる展示ブースで「簡単操作」をアピール。PC2台分の開発実行環境が月5万円という「手軽さ」も併せて訴えた。
EC黎明期から続くオンラインショップ運営企業のシステム部門を前身とする同社は現在、Webサイト運用や商品画像撮影代行などの事業を展開。自社と顧客企業が抱えていた定型作業での悩みを解決するため開発したアシロボでは「あらゆる操作がストレスなくできる画面設計」や「日常的な日本語に置き換えた機能説明」などで、EC運営のノウハウが多数生かされているという。
既に約100社が導入しており「当初からユーザー層に想定していた中小企業に加え、現場が手軽に使えるサブ的なRPAを求めていた大手企業での採用も多い」(担当者)。この日のブースでは、横浜の開発元企業で定期開催している上級者向けセミナーや、オプションとして来春リリース予定のロボット管理機能など、製品・サービス両面での充実ぶりがPRされていた。
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
NTTグループの主要企業で、クラウド・ネットワーク・データセンターなどの分野で事業展開するNTTコミュニケーションズは、デスクトップ型RPAツール「WinActor」の取り扱いを2019年10月に開始した“新規参入組”。この日のブースでは、「RPAを新規導入するユーザーだけでなく、既にWinActorを導入しているユーザーのニーズも意識した」(担当者)という、管理ツールと一体化したパッケージを提案した。
WinActorのライセンスと併せて同社が提供する「WinActor管理アプリ」は、PCにインストールされたWinActorの起動や、動作履歴・シナリオ管理などを、いつでも・どこからでも可能にするクラウドサービス。セキュリティー性の高いVPN接続を採用しており、WinActorが自動実行する作業中に要求されるパスワードなどをPCに残さず、同アプリ上だけで管理する運用も可能という。
パッケージ全体の価格は「WinActorライセンス通常価格の2,000円増し」という戦略的な設定。ブースの担当者は「『既存製品より簡易なものでいいから、手軽に使えるWinActorの管理ツールがほしい』との声に応えた。実際の反響も良好で、非常に手応えを感じている」と話していた。
株式会社セラク
IoTソリューションや第一次産業のIT化支援などと並んでRPA導入支援事業を展開している株式会社セラクは「コンサルティング」「実装代行」「技術支援・トレーニング」のメニューを紹介。「WinActor」「UiPath」「BizRobo!」「Automation Anywhere」「Verint RPA」で実績がある自社エンジニア300人体制の技術力をアピールした。
ブースの担当者によると、同社社員であるRPAエンジニアは、週を通して導入先で終日従事する「フル常駐」を含む多様な条件に対応。特にUiPathに関しては豊富なサポート実績を持つほか、WinActorの従量課金制クラウドサービス「WinActor Cast on Call」にも立ち上げ当初から参画しているという。
「最近は特に、活用規模の拡大を図りたいRPAユーザー企業からの助力を求める問い合わせが多い」と語る担当者は、この日ブースを訪れた来場者の動向も踏まえ「いったん過去にRPA導入を見送ったものの、改めて導入を検討している例も少なくないようだ」と分析。「RPAツールの技術的背景に対する深い理解をベースに、充実したサポートを提案したい」と意気込んでいた。
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