災害時の初動対応を短縮するには? 被災情報収集の問題点とシステム活用のポイント
一口にBCP対策といっても、計画の策定やリスクアセスメント、安否確認、システム対応、通信、連絡手段の確保など対応すべき項目は多岐にわたる。その中でも、拠点からの情報収集は事業継続を考える上でも重要な意味を持つ。
2019年10月に発生した台風19号は、東日本や東北地方を中心に各地で大きな被害をもたらした。首都圏を直撃し、河川の氾濫(はんらん)や大規模停電など大きな被害が発生した。また2018年6月から7月にかけて発生した「西日本豪雨」では、洪水や土砂災害など広域で甚大な被害を受けた。
災害発生時に組織がまずやるべきことは、従業員の安否確認とともに被災情報の収集、整理、分析だ。各拠点の被災状況を把握し、事業継続のために必要な情報を迅速に収集しなくてはならない。災害時における一般的な情報収集のフローは、災害や事故の発生直後にまず対策本部を立ち上げてあらかじめ指定された場所に対策メンバーを招集する。そして、現場から上がってくる情報を基に被害状況やリスクを分析し、適切な対応策をその場で迅速に打ち出してメンバーや各拠点に指示を出す、といった流れだ。
しかしこれまでの大規模な自然災害などの被災例を振り返ってみると、オフィス自体が被災したり交通網がまひしたりするなどで、関係者が1カ所に集まれない可能性も十分に考えられる。仮に集まることができたとしても、社内のさまざまな部署や拠点から続々と上がってくる情報をその場で整理し切れないケースや、そもそも電話連絡網など規定している連絡手段では情報が挙がってこないことも想定される。
そうした場合、人手で情報を整理しながらホワイトボードにその内容を書き出し、関係者で適宜判断を下していくというやり方も難しい。さらに全国に数多くの拠点や提携先がある企業では、現場から上がってくる情報の量も膨大だ。それらを「人手でホワイトボードに書き出して整理する」という原始的な方法で、果たしてきちんと整理できるものなのか。
そもそも、被災直後に現場から正確に情報が取得できるものなのかどうかも、いま一度うたがってみる必要がありそうだ。NECソリューションイノベータのBCPコンサルタントによると「被災直後は、その場の緊急対応で手いっぱいになってしまうため、どうしても状況の確認や整理、報告は後回しになりがちだ。仮に現場から報告が上がってきたとしても、情報の形式や粒度が現場ごとで異なると、それらをまとめて整理し、意思決定者に報告するまでに多くの手間と時間を要し、迅速な対応が難しくなる」という。
そこで、本稿ではBCP対策の中でも災害時の情報収集に焦点を当て、ツールやサービスを活用した効率的な方法について説明する。
初動対応の肝はどれだけ被災拠点からの情報収集を短縮できるか
安否情報は企業の主要な資産である「ヒト・カネ・モノ」のうち「ヒト」にフォーカスしたものだとすれば、拠点の被災情報はそれ以外を知る術となる。もちろん従業員の安否状況の確認も重要だが、事業継続には経営リソースに関する情報も早期に把握する必要がある。例えば「オフィスや工場の被災状況と復旧見込み」「ICTシステムの稼働状況と復旧見込み」「周辺地域のインフラの被災状況」といったように、事業継続に必要なあらゆる経営リソースの被災状況を、正確に把握する必要がある。
従来は多くの組織がこれらの作業を人手で行っていたが、人手に頼った状況確認や情報分析、報告は、対策本部の担当者が不在だった場合の対応や情報の伝達、連絡ミスなどさまざまな問題点をはらんでいる。そこで過去の教訓を基に、これらの情報収集作業をツールで自動化、効率化することで、被災からいち早く事業を復旧させようと考える組織もある。
そうしたニーズに応えるサービスとして、NECマネジメントパートナーはSaaS型ソリューション「災害時情報収集・共有サービス」を提供している。ここからは、ツールの具体的な活用法と導入に当たって確認したいポイントについて説明する。
NECマネジメントパートナーの災害時情報収集・共有サービスには、災害など有事の際に拠点の被災情報を効率的に収集できるようデータフォーマットがある。あらかじめ収集すべき情報項目を整理してフォーマットを定義することで、万が一の際に現場の担当者がスマートフォンアプリやノートPCからフォーマットに情報を入力するだけで、必要な情報を手間なく収集できる。
入力された情報は、システムで自動的に集計、分析され、状況を一目で把握できる形にまとめられる。意思決定者は、レポート形式でまとめられた情報を参照することで正確かつ素早く状況を確認し、都度正確な指示を出せるようになる。この一連のプロセスの中では、人手を介することはほぼないため、「現場が混乱していてなかなか情報が上がって来ない」「情報のフォーマットがばらばらで状況の分析に時間がかかる」「そもそも誰がどの情報を扱えばいいのか分からない」といった混乱やミスを防ぐことができる。
そもそも非常時には現場も対策本部も緊急対応に追われ、BCPのマニュアルを開いてじっくり手順を確認するような余裕はない。こういう場面でこそ、最低限の手間で情報を収集、整理できる仕組みが役立つ。
また同サービスは、自組織で収集すべき情報だけでなく、気象庁や報道機関などが発信する公的な情報も自動的に収集し、自組織の情報と併せて分かりやすい形に整理する。さらに、そうして収集された情報は地図画面にマッピングされるため、拠点の立地と照らし合わせて地理的な観点から支援、復旧対策を検討することもできる。
限られた人手と時間で迅速に情報を収集、整理、分析しなければならない非常時にこそ、それらの作業を自動化、効率化するためにこうしたツールを取り入れるのも一つの手だ。
混乱なく情報収集するために、システムに求める4つのポイント
こうした災害時に特化した情報収集サービスは、まだ数は少ないものの既に幾つか存在する。業務システムと同様に、自組織に最も適したソリューションを選ぶことが重要だが、製品、サービスを選定する前に、まずは災害時の経営層の意思決定のために自組織でどういった情報が必要かを洗い出し、BCPの中で定義することが先決だ。
これらの点を明確にした上で、初めてツールの選定ステップに移ることができる。当然だが、必要な情報を自組織に合ったかたちで収集できる製品を選ぶ必要がある。
ポイント1:報告フォーマットが自組織の情報収集に適したものか
NECの災害時情報収集・共有サービスは、収集する情報の種類やフォーマットをユーザーが柔軟に設定できるようになっている。ただし、自組織に合わせた形にするためにツールのカスタマイズをベンダーに依頼する必要がある場合は、あらかじめ導入コストにカスタマイズ作業のコストを含んでおく必要がある。
ポイント2:重要情報が外部に漏れないために
拠点の被災情報は、関係者に広く共有する必要がある。ただし、誰もが全ての情報にアクセスできてしまうと、今度は情報漏えいの危険性もある。BCPでは「社外に対する適切な情報発信」も重要なため、意図せぬ形で情報が社外に漏れてしまう事態は避けなければならない。そのため、許可されたユーザーのみが適切な情報を参照できるよう、細かなアクセス制御機能が備わっているものを選定すると良いだろう。
ポイント3:経営層などの上層部でも問題なく利用できるUIを
ユーザーインタフェースも無視できない点だ。緊急対応時には、可及的速やかに拠点の被災状況を確認する必要があるため、一目見ただけで状況を把握できる直観的なユーザーインタフェースを備えたものを選びたい。特に、緊急時の意思決定は経営層や高位の役職者が行う場合が多いため、そうした立場の者でも即座に理解できるよう、シンプルに情報がまとめられているユーザーインタフェースが望ましい。
ポイント4:正しい情報を正しいかたちで共有するために
また、平時におけるメンテナンス性も重視するべきポイントの一つだ。例えば、組織変更や人事異動などがあった場合、人事内容をタイムリーにシステムに反映させなければ、いざ災害が発生した際に、適切な人に適切な情報をスムーズに共有することは難しい。普段から容易にデータを更新できる機能が備わっていることもポイントだ。
ツールだけでなく“人”の対策も必要不可欠
どれだけ優れた製品やサービスを導入しても、それが「非常時にのみ利用される」ものだと、いざというときに誰も使い方が分からずに、結局は機能しないことも考えられる。これはBCPの取り組み全般にいえることだが、たとえ非常時に備えた施策であっても、平時から通常業務に組み込んで利用していなければ、いざというときになって機能しない。
災害情報を収集、共有するためのシステムも、災害時の利用に特化するのではなく、平時から従業員に情報を通達するための仕組みとして、あるいは従業員から情報を吸い上げるためのツールとして運用することで、いざ災害が起こった際にも混乱を防げるだろう。
また、緊急時に備えた訓練や教育もBCPに組み込みたい。机上でどれだけ検討を重ねたBCPも、いざ実施してみると多くの不備や抜け、漏れが見つかるものだ。ツールの運用も同様で、平時から実際の災害を想定した訓練を実施し、その運用を改善していく取り組みが欠かせない。また、緊急時に実際に現場の被災情報を報告するのは従業員だ。適切な社員教育を実施し、現場の社員一人一人の災害対策に対する意識を高めておくことも大事だ。
総じて、BCP対策にはITツールの導入が効果的で、その効力を発揮させるには“人”が適切に動けるように「人づくり」をセットとしてツールの選定と導入を検討することが肝要だ。
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