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地銀を巻き込み中小企業の経営改革に乗り出すfreee、金融機関のAPI連携で何が変わるか

freeeが銀行API連携をきっかけに、地方中小企業の経営革新や地銀のサービス開発支援に乗り出す。サービスのOEM提供も視野に、日本中の中小企業の経営力強化や資金調達支援をITと経営支援の両面から支える。

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 2020年1月27日、freeeが「金融機関向けにオープンAPIに係る説明会」と題した場を設けた。2020年5月を期限とする改正銀行法への対応状況や金融機関への機能OEM提供構想などの説明と合わせて、各金融機関向けにfreeeそのものの「監査」の場を提供するという趣旨だ。約100の金融機関の担当者が参加、27の金融機関はリモートで監査の様子を視聴した。

 2012年設立のfreeeはクラウド会計ソフト「freee」などを提供する企業だ(以降、企業名をfreee社、製品名をfreeeと表記する)。2019年12月には東京証券取引所に上場、サービスの商品形態も刷新してFinTechにも注力する。主力商品である「クラウド会計ソフトfreee」の他、「人事労務freee」「会社設立freee」などのSaaSを展開する。

 クラウド会計ソフトfreeeは経理業務の自動化や受発注業務の電子化、請求書発行のシステム化、自動化、入金管理などをクラウドサービスとして利用できるもの。併せて人事労務管理機能も提供するため、企業の管理部門は必要とするIT環境をまとめて使える。システムの導入や運用者を置く必要なく利用できることから中小企業を中心に、ユーザーを拡大しつつある。

  freee社は直近では個人事業主向けのサービス価格を改定したことで話題になった。一方、各種金融機関との健全な接続とより密接な連携を目指した機能開発に、積極的な投資を進める。

日本中の銀行がFinTech企業とAPI連携でつながると、日本中の中小企業のデジタル化が進む

 2020年5月は改正銀行法における「API対応」の目標期限とされる。改正法ではfreee社のようなFinTech企業(電子決済等代行業者)と金融機関との間で、合意に基づき適切なAPIによるシステム連携を実現することが求められる。freeeはもともとWeb画面から直接ネットバンキングやクレジットカードの明細を取得して帳簿に自動記帳する機能を持っていた。だが従来こうしたSaaSツールによる取引の一部では、金融機関の同意なく別のアプリがログイン情報を使ってデータを取得する「スクレイピング」と呼ばれる、いわば「非公式な手法」が使われることもあった。こうした取引は利用者のリスクが大きく、健全ではない。このため、改めて金融機関が外部のサービスと適切な方法で安全に接続するためのルール作りが進められてきた。

 freee社の執行役員でfreee finance lab会長の小村充広氏は現在の自社のAPI接続の状況について、2020年5月末までに「顧客口座数でfreeeサービスの利用者の90%が金融機関とのAPI接続を実現する見通し」と説明する。

 「残り10%については開発リソース確保次第順次となる。その間は暫定敵にスクレイピング機能を提供し、API接続と同等の機能を利用できるようにする」(小村氏)

 freee社がここまで金融機関とのAPI連携に注力するのには理由がある。中小企業の業務改善を支援するSaaSを提供してきた同社のサービスは、金融機関がいままで取引企業に実施してきた経営支援や融資検討にそっくりそのまま生かせるものだからだ。金融機関の企業支援が変われば、後述するように日本全国の中小企業のデジタル化が進む可能性がある。


freeeの小村充広氏 「都市銀行などはAPIを利用できるケースが多いが、地方銀行などでAPI連携に対応していないシステムも少なくなかった。こうした事情でスクレイピングが一般的だったが、API接続に変更することで、早く連携ができ、エラーが減る。接続金融機関側のシステム負荷も平均でおよそ20分の1となり、セキュリティ面でも利点が大きい」とAPI接続の利点を説明する

 なお、金融機関とのAPI連携の責任者である金融事業部API特命プロジェクト統括部長の山本聡一氏は、各金融機関とのAPI連携が相当困難だったことを振り返る。自社内にAPIを含むシステム開発部門を持っていたり、金融機関向けの業務パッケージをベースにしている金融機関はAPI連携を進めやすい。一方、全国の金融機関の中には手組みシステムや特殊な実装のものも少なくないため、1つずつ慎重に対応と開発を進めているという。手組みの複雑なシステムは「想定よりも多かった」という。それでも、この説明会の1週間ほど後の2020年2月3日にはfreeeが252の信用金庫とのAPI連携に関する契約を締結したと発表。参照系だけでなく利用明細取り込みなど、一段深いシステム連携を実現している。

 小村氏はAPI連携の進捗(しんちょく)状況の説明に続けて、銀行のシステムが顧客利益を求めてきた歴史を振り返り、ATM相互運用などと同じように会計サービスもまた、銀行の利便性を高める仕組みの1つに成り得ることを改めて強調した。

 「銀行は過去、ネットワークを拡大して利便性を高め、データで価値を高めてきた。今までも本支店オンラインや全銀為替、ATM相互開放などをを随時実現してきた歴史がある。(今は参照系のみだが)freeeをインタフェースに、振り込みや入出金ができる。FinTech企業のサービスインタフェースがATMの機能を担うようになる、と考えれば分かりやすい」(小村氏)

地銀再編と地方中小企業の活性化のカギは金融機関のDXとサービス開発

 地銀の統廃合や効率化の要請、マイナス金利の持続など、金融機関を取り巻く環境は変化が大きく厳しい。今後、金融機関が生き残り、成長するために必要なのは「裾野の拡大」「選択と成長」「密着と創造」の3つが重要だ小村宇治は語る。

 成長のためには潜在顧客を拡大しなければならないが「FinTech企業からすると金融機関の皆さまはなかなか裾野拡大のチャンスをウォッチできていないと感じる」(小村氏)。

 地銀再編に代表されるように金融機関の統廃合が進めば、ビジネスの対象地域は拡大し、裾野も拡大する。しかし企業としての成長を考えると、顧客セグメントの選択と計画が重要になる。小村氏は新興サービスや競合がひしめく中でどのように成長するかを考えれば、従来型の銀行取引だけでなく、狙ったセグメントのニーズに即した創造的なサービス開発も重要だという。またオープンAPIを活用したサービス開発や独自の顧客支援サービス展開が今後の金融機関生き残りに不可欠であることを訴えた。

 オープンAPIを活用して従来の金融機関としての枠組みを越えたサービスを提供する企業の代表として、小村氏はシンガポールのDBS銀行を挙げる。

 DBS銀行はクラウド会計やクラウド人事給与などのサービスを展開して顧客のデジタル化を推進する一方で、自社でも不動産やフィットネスなど多様なサービスも展開。これらの情報を活用して、顧客獲得コスト、取引コストを削減、顧客当たりの売上高を高める仕組みとして成功した事例だという。

経営支援ツールのOEM展開で金融機関のFinTech取り込みを支援

 freeeは会計、人事労務、資金繰り予測など、経営支援、融資検討支援に活用できるデータを提供できる機能を持つ点が強みだ。今後はこの機能を金融機関向けにOEMで提供する計画もある。金融機関からすると、オープンAPIを活用してサービス品質を高めながら顧客の経営改革を支援したり、正確な情報を基にした的確な融資につなげたりといった機能をOEMできれば、大手都市銀行のように自社で大規模なIT投資が難しい場合でも高い品質のサービス提供が可能になる可能性がある。

 freeeそのものが持つ経営改善は多岐にわたる。AI(人工知能)やAI-OCRなどを使った入力などの効率化ももちろんだが、取引情報を事後的に編集させない仕様であったり、監査を自動化したりといった機能が盛り込まれている。さらに、融資の判断に欠かせないデータの健全さにも特徴がある。freeeの場合、ワークフローの承認履歴も銀行からの口座情報の取引情報も削除ができない仕様だという。APIで取得したデータの削除もさせない。他の類似サービスでは改変できてしまうが、freeeはそれを許容しないので実態を正しく把握できる。

地元の中小企業の経営支援とIT支援も、地銀系コンサルサービスの狙い

 地方銀行とクラウド会計サービスの関係は密接になりつつある。例えば複数の地銀が合併して誕生した地方銀行の1行、きらぼし銀行およびきらぼしコンサルティングは2019年9月にfreeeと業務提携を発表している。

 freeeの持つ「中小企業の財務経理、人事労務といった経営情報をデジタル化する」という特徴は、地域密着型で地場の企業の経営を支援する地銀と相性が良い。だが中小企業の側にはIT導入のノウハウが乏しいケースも少なくないため、経営改善が進みにくい。

 この点を、freeeを始めとしたクラウドサービスにも中小企業の業務にも理解がある地銀系のコンサルティング企業が支援する形だ。

 きらぼしコンサルティング 執行役員企業戦略部 岡本圭介氏によると「きらぼしコンサルティング自体はベンダー中立の立場で起業支援を行う。財務経理や人事労務だけでなく、営業支援や在庫管理などのバックオフィス業務全般の支援に加え、資金調達についても支援する」という。


きらぼしコンサルティング 執行役員企業戦略部 岡本圭介氏

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