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「会社のファンを増やすこと」が企業価値を高めるためになぜ必要なのか

企業の価値を高めるためには、顧客や株主といったいわゆる“ステークホルダー”ばかりを見ていてはだめだ。これからは従業員やパートナー企業、求職者もその企業を見る“ステークホルダー”となり得るという。

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 社会貢献や顧客満足度の向上、株主価値の向上、社員の幸せなど企業活動の目的は組織によってさまざまですが、どの企業にも共通する目的は「利益の追求」です。そのために重要なのは「あらゆるステークホルダー(利害関係者)を“ファン”にする」という考え方です。

 ファンを増やせば会社の知名度の向上にもつながり、商品やサービスを支持する顧客が多ければ売り上げも伸びるでしょう。株主がその企業のファンになれば、株価の上昇や財務基盤の安定も見込めます。

 ファンとなり得る存在は、顧客企業や株主だけではありません。従業員やパート、アルバイト、パートナー企業、求職者といった未来の仲間もその企業のファンになり得る”ステークホルダー”なのです。企業のファンを増やすには、組織の考え方や視点をどう変えていくべきなのでしょうか。本連載を通して、その答えを解説します。

著者紹介:太田 努(デジタルフォルン 取締役COO)

大手人材総合サービス企業在籍時にアウトソーシング事業を中核とする社内ベンチャーを立ち上げ、上場。主に営業やサービス企画、グループ企業経営などに従事。その後生活産業系企業に移り、BtoCの店舗運営事業の立ち上げに携わる。事業責任者として店舗オペレーションやサービス企画、マーケティングなどを統括。現在はデジタルフォルンのCOOとして事業運営全般を担当しながらグループ会社であるサイト・パブリスの執行役員を兼務。デジタルマーケティング領域の拡大に向けた取り組みを行う。


従業員や求職者を“ファン”として取り込むには

 ファンを増やすためにいま一度考えたいことが「従業員や求職者、パートナー企業などもステークホルダーだと捉えられているか」「そうした層からもファンを獲得するために、どれだけ情報発信やコミュニケーションをできているか」です。企業は、従業員や求職者などから選ばれる立場にあることを認識できているかが、ファンを増やすために必要な考え方のです。従業員や求職者からも選ばれる企業になるには、今の何をどう変えるべきなのでしょうか。

ファンを増やすには「適切な情報発信」と「見せ方」が重要

 現在、“人材採用受難の時代”といわれています。上場企業における新卒採用にかかる採用コストは増加する一方で、2017年から2019年にかけての採用コストの増加率は30%にのぼります(図1)。また、2019年6月にリクルートキャリアが発表した「就活プロセス調査」によれば、2018年(2019年新卒採用)における内定辞退率は約7割にも上るといい、当時では過去最高の内定辞退率を記録しました。さらに、2021年春からは日本経済団体連合会によるいわゆる“就活ルール”の廃止によって「通年採用」が始まり、企業にとっては今後さらに新卒採用問題が深刻化する恐れがあります。


図1 「2020年卒採用活動の感触等に関する緊急企業調査」(出典:ディスコ)

 こうした採用難の問題は正社員だけでなく、パートやアルバイト採用にも起きています。2019年にマイナビが発表した「アルバイト採用活動に関する企業調査」によれば、回答者の約7割が十分な人数のアルバイトを確保できていないと答えました(図2)。


図2 「アルバイト採用活動に関する企業調査2019年」(出典:マイナビ)

 また、1人当たりのアルバイトの採用単価も増加しています。2012年における採用単価は平均で約5万2000円だったのに対して2019年は約6万4000円と、1万円以上も採用単価が増加しました(図3)。さらに人材確保のために度重なる面接や給与の増額などさまざまな手を打つことで「採用コストの増加を実感した」とした企業は約30%にも上ります。


図3 2012年に実施したツナグ・ソリューションズの調査(左)と2019年にネオキャリアが実施した調査結果(右)の比較

 一方で、2019年に厚生労働省が発表した「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」によると、新卒で入社した従業員のうち44%が3年以内に離職していることが分かりました(図4)。この傾向は正規従業員に限らず、パートやアルバイトの定着率にも見られます。2018年にディップ総合研究所が発表した「アルバイト・パートスタッフの離職事情」によると、パートやアルバイトの経験者の4割以上が直近3年以内に離職を経験しており、全体を見ると約2割強が半年未満に離職しています(図5)。


図4 「新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移」(出典:厚生労働省)

図5 「アルバイト・パートスタッフの離職事情2018年」(出典:ディップ総合研究所)

 アルバイトやパートの離職経験者は主に学生層と若年フリーター層で、離職検討者の約5割が就業後半年未満で「やめたい」と感じるようです(図6)。ここ数年指摘されているような人材の需給バランスの逆転現象はこうしたデータからもうかがえ、少子化に伴う労働人口の減少からも当面続く傾向だと読み取れます。


図6 「アルバイト・パートスタッフの離職事情2018年」(出典:ディップ総合研究所)

 インターネットを軸にした情報テクノロジーの発達により、情報が最適化され瞬時に届けられる一方で、情報量が加速度的に増加して届けたいターゲットに対して情報が届きにくい時代になっています。さらに、口コミサイトやSNSの広まりに伴い、企業の意図しないところで情報が伝わり、企業としての損失につながることもあります。内定辞退率の上昇や内部関係者による不適切行為(いわゆる「バイトテロ」)などの問題が起こりやすくなっている背景は、モラル云々の前に情報テクノロジーの進化も理由にあるといえます。情報テクノロジーの進化は、個人の情報収集力と発信力を飛躍的に向上させました。

 こうした時代だからこそ企業は現状を認識、整理した上で、求職者やパートナー企業含めあらゆるステークホルダーに適切な情報を発信することが重要になると考えます。

 今までは「ディスクロージャー」(情報公開)とは、企業が投資家などに向けて行うものでしたが、今や個人も口コミサイトやSNSを通して誰でも情報発信が可能になりました。これもディスクロージャーのかたちの一つです。情報発信の方法によっては、ラウドマイノリティーの意見がフォーカスされる危険性もあります。口コミサイトやSNSから情報が意図しないかたちで漏れ伝わることを前提に、企業はステークホルダーに対して適切な情報開示が求められます。「ディスクロージャー2.0」時代に移ったといえるでしょう。

従業員やスタッフ、パートナー企業に対しても過不足なく情報を提供することが重要

 ステークホルダーへの情報発信方法として、コーポレートサイトやECサイト、IRサイトなどがあります。

 企業のステークホルダーとしてフロント側の位置付けである対顧客企業や株主には十分な量の情報を提供できていても、組織を支える従業員やパートナー企業、求職者に対しては十分な情報を提供できていなかったのではないでしょうか。

 コーポレートサイトを見るとIRなど投資家向けのページは短いスパンでページが更新されていても、人材採用ページは2〜3年に一度ページデザインなどを変更している程度です。もはやページデザイン変更が目的となっているのではと感じさせるサイトも見受けられます。

 通年採用の時代に移り変われば、人材採用サイトで公開している情報量が少なければ致命的となり、人材採用の機会損失にもなりかねません。また企業は従業員向けの社内情報はグループウエアで発信しているかと思いますが、中には制度変更などの情報に終始している企業もあります。

 顧客にサービスや提供する商品の価値を分かってもらい対価を得るには、また積み上げた価値や業績を投資家に評価してもらうには、企業活動を支える従業員やアルバイトスタッフ、パートナー企業の存在は切り離せません。そうした従業員に対しても十分な情報を提供することが重要だと考えます。それがやがてはエンゲージメントにつながり、ファンを増やす近道にもなるのです。

ファンが増えなければ企業の利益もない

 「ステークホルダーを整理、認識した上で対象者ごとに適切な情報を発信できているか」「どのレベルの情報を発信しているか」が重要です。そして、従業員やスタッフに対してもIRと同じように企業の実態や魅力を丁寧に伝えることが重要です。ステークホルダーが必要とする情報はそれぞれで異なります。それに応じてコミュニケーションの在り方もそれぞれ変えるべきなのです。企業活動の究極的な目的である「あらゆるステークホルダーをファンにする」には、まず対象とするステークホルダーに自社の実態や魅力を分かりやすく伝えることから始めるのが重要です。

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