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PC上での定型業務をソフトウエアで代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に特化した国内最大規模のイベント「RPA DIGITAL WORLD NAGOYA 2020」が2020年2月21日、名古屋市中村区の名古屋コンベンションホールで開催された。
人手不足の解消や長時間労働の是正など「働き方改革」の具体策として着目され、企業向けのデジタルテクノロジーとして類を見ないスピードで普及したRPAは2019年下半期以降、大企業を中心に試用レベルでの導入が一巡。あらゆる企業・部署に浸透できるかどうかの過渡期に入ったとの指摘がたびたび聞かれるようになっている。
主に中京圏から500人が訪れた同イベントの会場では、こうした期待度の起伏を乗り越えた先で、今後RPAが日本企業のデジタライゼーションに果たす役割を有識者らが多面的に解説。併せて展示会場では、一時の流行で終わらない地道な取り組みに耐える費用対効果を意識したソリューションの提案が相次いだ。
本記事では、当日開かれた6講演の中から2氏の発言要旨をレポート。さらに出展企業が解説・実演を行ったソリューションの一部をピックアップして紹介する。
■記事内目次
- 1.「現場の負担感」から「成果の大きさ」へ、ロボット化の基準を変える時期──アビーム安部氏の提言
- 2. RPAはAIで実装可能。それでも人が学ぶ意義とは──AI研究者・山田誠二氏の考察
- 3. 【デモンストレーションセミナー/展示】「費用以上の効果獲得」に具体的提案が相次ぐ
- Blue Prism株式会社
- トッパン・フォームズ株式会社
- AI inside株式会社
- ユーザックシステム株式会社
- 日本システム開発株式会社
- 日本電気株式会社
「現場の負担感」から「成果の大きさ」へ、ロボット化の基準を変える時期──アビーム安部氏の提言
「導入企業の割合をみる限り、日本は現在、世界でもっともRPAを使っている国。デジタルテクノロジーの普及において、わが国が世界をリードするのは史上初めてのことだ」
RPA導入支援と併せた国内大企業の業務改革プロジェクトに多数参画してきたことで知られる安部慶喜氏(アビームコンサルティング株式会社 戦略ビジネスユニット 執行役員 プリンシパル)は、この日の講演冒頭で足下の成果をそう強調。国内でRPAが劇的に広まった理由として、少子高齢化に伴う人手不足や、働き方改革で求められる残業抑制といった喫緊の課題に、RPAが一定の成果を即効的に出してきた点を挙げた。
一方で安部氏は「現場が実感する導入効果を原動力にしてRPA普及を進める『第1ステージ』は、そろそろ終わる」とも指摘。RPAユーザーは今後、ロボット活用と業務の大胆な再構築を並行させ、従来業務の延長では到達しえないレベルの成果を出す「第2ステージ」に移行できるかが問われると述べた。
第2ステージへの移行にあたって特に重要な要素として、安部氏は
1.推進役をRPAの利用部門やIT部門だけに委ねず、全社横断的な「デジタル推進専門組織」を設けること
2.同組織が、RPAの運用統制に関する全社的なルールを策定すること
3.同組織から業務部門に対し、業務の集約・廃止を含めたプロセス改革の提案を行うこと
を列挙。これに対し、現在RPAユーザー企業の担当者が置かれた状況を、RPA BANKとアビームコンサルティングが2019年12月に行った調査結果から次のように整理した。
「従業員1,000人以上のRPA導入企業におけるデジタル推進専門組織は、トライアル段階では設置率1割にとどまるものの、本格導入まで進むと4社に1社の割合で設けられる。ただ、こうした組織に属するメンバーの大半が、ルールの策定やプロセス改革の提案に携わるべきだと自覚している一方、実際にそれらの実行権限を持つ組織は半数にも満たない」
その上で安部氏は、ドラスティックな事業転換の経験に乏しい多くの日本企業は、変化対応の動きを鈍らせる“業務習慣病”を多く抱えていると指摘。それらを克服し、RPAの普及を第2ステージへ引き上げるには、現場レベルの努力だけでなく「生産性向上を目的とした社内変革に踏みきる」という経営陣からのコミットを引き出すことが不可欠だと強調した。
経営判断を伴ったRPA活用に取り組む場合、そこで重要になる指針として安部氏は「ロボット化の優先順位を、現場の負担感よりも業務の絶対量で判断すること」「承認プロセスを明確化し、1観点1承認に限定すること」「RPAと併用するAI-OCRの選定は、認識精度のわずかな差よりも前後のプロセスとの適合性で判断すること」などを挙げた。
同氏はさらに、RPAを起点とするデジタライゼーションの近未来像を披露。「スマホカメラで撮影したレシート画像をチャットアプリに添付すると、AI-OCRでの認識結果がテキスト表示され、これに対する修正点を口頭で指示すると音声認識経由で反映された結果が経費精算ソフトに自動登録される」システムを、プロトタイプの操作動画を交えて解説した。
安部氏は「経営直下の混合チームが集中して取り組めば、簡便なユーザーインターフェースの背後でRPAを駆使することにより、これほど多様な技術を使いやすくまとめたソリューションがごく安価に構築できる」とアピール。「ここまでやるのが、真に『働き方を変える』ことではないか」と呼びかけてセッションを締めくくった。
RPAはAIで実装可能。それでも人が学ぶ意義とは──AI研究者・山田誠二氏の考察
「RPAとAI(人工知能)の関係は、目下OCR(光学文字認識)への応用に集中しているが、数年内にAIが、RPAの実装を担うようになる」
そうした未来予測を、昨年11月の「RPA DIGITAL WORLD OSAKA 2019」で披露したAI研究者の山田誠二氏(国立情報学研究所教授・総合研究大学院大学教授・東京工業大学特定教授)はこの日も登壇。RPAとAIの将来像を、さらに詳しく掘り下げた。
現在もっぱら人間が担うRPAの実装プロセスについて、山田氏は「作業によって実現したい目標状態」「作業前の初期状態」、それに「RPAツールで使える諸機能」が明らかであれば、実際に行うべき手順は「想定しうる組み合わせの総当たり」から探し当てられると説明。そのためソフトウエアロボットの多くは、自動生成することが理論上可能であるものの、こうした探索の膨大な組み合わせを処理しきれないことが実用化を妨げていたと解説した。
続けて同氏は、探索範囲を絞り込むことで短時間に答を返すといった、AIが用いる計算方法の進化について紹介。愛知県内でも活発な自動運転関連のAI活用に関しては「『物を持つ手を放せば落ちる』程度の常識も習得が難しいAIは、予期せぬ出来事が多い屋外環境には本来不向き。場所を選ばない完全自動運転(レベル5)は“ファンタジー”と言ってよく、ハンドル操作や加減速を行う人間への支援(レベル2)くらいが限界」との見方も示し、ソフトウエアロボットの自動生成が、AIの応用分野として自動運転以上のポテンシャルを秘める可能性を示唆した。
山田氏はさらに、RPAユーザーが規模拡大の過程で直面する「開発済みロボットの横展開」についても言及。「明確なキーワードがあるWeb検索よりハードルは高いが、AIを応用してRPAの開発成果を検索・再利用する技術が、いずれ必ず実現する」との見通しを示した。
開発と管理の両面から、RPAに携わる人間の仕事をAIが自動化していく時代を予言した一方、同氏は「事務の現場で直接手を動かしてRPAを運用することに意義がある」とも発言。その根拠として「ロボットの連携先に変更が生じたときの対応など、現場が事情に詳しく、かつAIでの自動対応が難しいメンテナンス作業が存在すること」、さらに「AIをはじめとするテクノロジーの社会実装を加速する理工系教育の一環として、手軽に操作できるRPAが有効なツールであること」を強調した。
「スマホアプリの使い勝手がよくなければ自分で手早く書き換えてしまうような『誰でもプログラマー』の世界を実現する上では、RPAの運用を外部に委ねず、現場で活用することが第一歩。テクノロジーの普及を左右する費用対効果の向上に関しては論文も乏しく、実践から得られる知見に期待している」
RPAの活用推進に取り組む実務者を前に、研究者ならではの視点からエールを送ってセッションを終えた山田氏に、会場からは盛んな拍手が送られた。
【デモンストレーションセミナー/展示】「費用以上の効果獲得」に具体的提案が相次ぐ
東海地域においても既に多くの組織がRPAを導入し、幾多の成功事例が知られるようになったことを受け、今回15社が関連ソリューションを披露した展示スペースでは「導入費用以上の効果」を確実に得るための具体的な提案が目立った。以下では、そのうち6社の模様をピックアップして紹介する。
Blue Prism株式会社
「創業者のポリシーに基づき、RPAの実行環境にのみ課金するシンプルなライセンス体系を採るため、運用規模が一定以上に達すれば開発運用の効率化をそのまま反映してコストパフォーマンスが向上する。こうした『独自の規範を持つ』ツールは、レディーファーストを重んじる英国紳士とも通じるのでは」
世界1,800社のユーザーを持つサーバー型RPAツール「Blue Prism」の国内販売元は今回、自社製品をそのように紹介。縦割りの組織別に構築されたシステムを橋渡しする狙いで英国の大手金融向けに開発された歴史を持つ同ツールと、“故郷”の気質を象徴する英国紳士との共通点をアピールした。
デモンストレーションセミナーで講師を務めた担当者は、紳士の美徳として「独自の規範」のほか「高い教養」「行動の一貫性」を列挙。テキスト分析やプロセスマイニングなど、AIを活用した最新ソリューションと手軽な操作で連携できるBlue Prismの“賢さ”を強調したほか、開発運用に関する確固とした思想をベースに設計された同ツールが、全ての操作履歴を改ざん不可能な形式で記録している「一貫性」もPRした。
このうちBlue Prismの一貫した製品コンセプトに関して担当者は、Excelの請求書データを販売管理システムに登録するソフトウエアロボットの実演を交えて解説。作業の「手順(プロセス)」と「操作内容(オブジェクト)」を分けた整理方法でロボットの保守と転用を容易にしている点や、ロボット実行時に必要なパスワードの具体的内容を知り得ない状態で開発できるセキュリティ性などへの説明に、深くうなずく参加者の姿もみられた。
トッパン・フォームズ株式会社
「ある調査によれば、RPA導入企業の4割は『期待した効果が出ない』など何らかの不安を持っているようだ。しかし、かりに年間ライセンス費用が100万円程度のRPAツールを導入した場合、時給2,000円強の派遣社員と同等の作業が行えれば、1日あたり2時間弱の手作業に相当するロボット化で “元が取れる”。ポイントは、こうしたロボット化を社内人材が担う『内製化』だ」
RPA導入支援事業を展開するトッパン・フォームズの担当者は、デモンストレーションセミナーでそう説明。コスト面からみたRPAの導入効果を最大化する上では、導入初期に社外から得るサポートで知見を獲得した上で、新たな人件費や外注費を出さない内製化へとステップアップすることが重要だと強調した。
セミナーでは、同社の支援実績を踏まえた内製化成功のポイントとして「社内開発者に一定の開発時間を継続的に確保すること」「開発運用ノウハウの構築」「導入環境との相性に応じ、ライセンス更新のタイミングでRPAツールの変更も視野に入れること」の3点を列挙。このうち後2者に関しては「RPAツール4種を手がけるマルチベンダーで、システム開発経験も豊富な当社の強み」とアピールしたほか、AI-OCRに関しても2製品の併用でコストパフォーマンスを最大化した自社ソリューション「FastAI-OCR」の優位性が説かれた。
AI inside株式会社
AI-OCR「DX Suite」を開発提供するAI insideは展示ブースで、大手金融や自治体など900契約にのぼる導入実績とRPAとの連携事例をアピール。併せて、AI運用に特化した独自開発のエッジコンピューター「AI inside Cube」の実機を披露した。
2019年6月に発表されたAI inside Cubeは、高い演算能力を備えた半導体「GPU」を搭載し、外部のネットワークに接続しない環境でのAI活用を実現する製品。DX Suiteの利用時は、常時アップデートされるクラウドサービス版の数ヶ月前に相当するバージョンをインストールしたAI inside Cube本体がユーザーに貸し出される。
AI inside Cubeの特長について、担当者は「クラウドサービス型のAI-OCRに対するセキュリティ上の懸念を根本的に解決できる上、クラウド版では処理項目単位の従量制となる料金を『定額使い放題』にできる」と説明。「項目数にもよるが、おおむね月間5〜10万枚以上の文書をDX Suiteで認識させる場合に有利な選択として提案している」(同)と話していた。
ユーザックシステム株式会社
受発注効率化システムなどの「名人シリーズ」で約900社の導入実績を持つユーザックシステムは、Webブラウザ「Google Chrome」での操作に対応したデスクトップ型RPAツール「Autoジョブ名人」の最新版「バージョン3」をブースで紹介した。
担当者によると、名人シリーズの1ラインアップであるAutoジョブ名人は、シリーズ共通の強みである受発注業務に関連し「売掛金と入金の自動照合」などと用途を特定した上で検討されることが多い。ターゲット業務があらかじめ明確で、予定通り進めば“収支とんとん以上”になる見通しを立ててからの導入となるため失敗が起こりにくい一方「さらに新たな用途も探し出して導入効果を積み上げていく段階には課題が残っている」(同)という。
そのため、この日のブースではAutoジョブ名人の新たな用途として、ネットスマイル株式会社のAI-OCR「AIスキャンロボ」との併用を実演。紙帳票のデータ化を起点に生産性を高めるワークフローが提案された。
日本システム開発株式会社
「RPAを『ツール』よりも『サービス』として使っていただくコンセプト」
日本システム開発(NSK)のブース担当者がそう説明したのは、同社製のRPAツール「EoRPA(エウロパ)」と、業務整理・可視化ツール「flowM(フローム)」だ。
エウロパでのロボット作成とメンテナンスを担うのはNSKのエンジニアで、「ユーザーはツールの実行ボタンを押すだけ」(同)。導入希望の企業は、1週間無料トライアルできるフロームを使いながらロボット化の対象業務を検討し、NSKが示す見積もりを踏まえて実装(数十万円)を依頼する仕組みで、ロボット単位で発生するライセンス費用(年間15万円)の支払いが、いわば「ロボットによるサービスの利用料」に相当する。RPAソリューションとしてはユニークな方式だが、既に大手小売企業などから継続的な利用があるという。
「一般的なデスクトップ型RPAツールと比較しても、ライセンス費用は相当安価な設定。過去の開発成果が当社に集積しているため実装費用もリーズナブルで、実際に依頼するかどうかは見積もりを踏まえた判断でよい。こうした仕組みの合理性を理解いただけたら」と担当者。AI-OCRとエウロパを組み合わせた、帳票データの登録作業自動化のデモンストレーションに足を止めて見入る来場者の姿もみられた。
日本電気株式会社
日本電気(NEC)は、自治体への導入実績で東海地域の支持を広げている自社製のデスクトップ型RPAツール「NEC Software Robot Solution」などを紹介した。
全国で導入企業が1,300社を突破した同ツールは、多くのRPAツールが採用するフローチャート式ではなく「行単位」の作業手順表示で統一したユーザーインターフェースを採用。「上から順に追っていくだけで内容を把握でき、条件分岐は『シートを追加して表示』するなど、既に表計算ソフトでなじみ深い要素を採り入れた操作性が特長」(担当者)という。
高い操作性に加え、同ツールはシステム開発の実績も多いNECが「自社製と他社製に分かれたシステム間の連携」や「自社が開発を担当するシステムの更新を待たない急ぎの改良」などに積極活用したことで普及を拡大。「東海地域では、愛知県庁と一宮市役所での導入がマスメディアで報じられたのを機に、他自治体だけでなく民間企業からの問い合わせも増えた」(同)といい、現在はツール販売実績の約半数が代理店経由とのことだ。
同ツールのユーザー企業ではRPA推進をIT部門で担う例が多く、業務の現場から活用の対象を探り当てるのに手間取るケースもみられるという。こうした実態を踏まえ、ブースでは業務効率化の対象選定に役立つ運用改善支援ソフト「WebSAM IT Process Operations」の活用も提案された。
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