2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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多くのRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)製品が、「プログラミングのプロでなくても扱える」「ドラッグ&ドロップで容易に記述可能」などと、開発におけるハードルの低さを訴求している。RPA BANKの取材でも、現場のプログラミング未経験者が開発に携わった事例を紹介してきた。
だが、ソフトウェアの操作は容易であっても、第一歩となるそのツールの設計思想や特殊な用語、概念の理解で苦労しているという声も聞かれる。このような「想定外の苦労」を解消する方法のひとつに、プロに支えてもらい触れながら理解を深められるハンズオントレーニングがある。
主要なRPAツールの1つとして名前が挙がるBlue Prismは、ぜひ一度は触ってみたいものだが、無料で気軽に受講できるトレーニングは希少だ。そんななか、日商エレクトロニクス株式会社が大阪で未経験者向けに無料の「体験コース」を提供開始したと聞き、さっそくBlue Prism未経験の記者が受講してみた。
■記事内目次
- 1.大規模展開の経験にもとづく体験重視トレーニング
- 2.【前半】丁寧なフォローを受けつつ、基幹システムへのログイン
- 3.【後半】よくあるExcelのデータ処理にフォーカス
- 4.短時間で要点を押さえた体験に満足
大規模展開の経験にもとづく体験重視トレーニング
日商エレクトロニクスは、このほど大阪で「デジタルレイバーアカデミー」を開設したのだが、その一つが「RPA(Blue Prism)トレーニング 体験コース」だ。「まずはBlue Prismを触ってみたい」という未経験者を対象に毎月1度開催されており、2時間で大まかな概念の理解と操作を体感できるという。
Blue Prismでは珍しい無料のハンズオントレーニングである。
会場はJR大阪駅から徒歩4分ほどのビルにある、同社関西支社オフィスだ。あいにくの雨模様だったが、地下から迷うことなく到着。記者を含めた受講者は6名で、Blue Prismの導入意思を固めつつある企業、他社ツールと比較検討中の企業からも、情報システム部門の担当者が参加していた。選定や運用に携わる立場として、概念や操作の理解をこれから深めようとしているようだ。同社によると、毎回さまざまな立場の参加者から申し込みがあるという。
机上にはノートPCと持ち帰れるテキストが用意されており、メモを取るためのペンだけ用意しておけばよい。スタッフは講師の他、受講者を随時サポートする担当者が見守っていた。
午前10時、始めに日商エレクトロニクスの簡単な紹介が始まった。同社は大手総合商社である双日のグループ企業で、各種ICT基盤や業務ソリューションを扱い、グループ内外の企業に対して業務改革を支援してきた。RPAに関しては、自社での活用だけでなく、双日における大規模展開を担ってきた実績があり、そのノウハウをベースに導入支援やエンジニア派遣、教育サービスなど幅広いメニューで働き方改革を支援しているという。
続いてBlue Prismの特徴にも簡単に触れ、フローチャート式での定義、そして定義を部品化することによって再利用やメンテナンスが容易であることを強調した。ここまでわずか10分であり、大部分の時間を「体験」に充てられるコースである。
【前半】丁寧なフォローを受けつつ、基幹システムへのログインに成功
この体験コースでは、演習を通じて4つの学びを得ることが目的となっている。
- 業務フローに沿ってブロックを並べることで簡単にロボットが作成できる
- 「プロセス」と「オブジェクト」によりロボットの開発効率が高い
- テンプレートを使うと、開発も早く、運用もしやすい
- 豊富なログで、異常時も原因究明しやすい
用意されたシナリオは、体験コース用に準備された受注システムに注文情報を登録し、登録後に発行される参照番号を取得する業務だ。
まずは前方の大型モニターで、完成形の自動化された動きを確認する。この体験で扱うデータは2件に過ぎないが、目で追えない速さで処理が回る様子に改めて驚かされる。
トレーニング開始から15分、早くもBlue Prismに触れ始めた。最初はユーザー名とパスワードを入力してログインするのだが、一つひとつの操作は、まず講師が見本を見せてくれるので通常は迷いようがない。ところがテキストの別ページをよそ見していて油断し、話を聞き逃してしまった。こんなところで手を挙げるのは恥ずかしいが、後方のスタッフがログインできていない状況を察知しフォローしてくれたので事なきを得た。
無事にログインできると、Blue Prismのメイン画面について説明が続く。開発では大きく2つ「プロセススタジオ」「オブジェクトスタジオ」を使用するのだが、そもそも「プロセス」と「オブジェクト」の違い、関係性を独学で理解することは初心者にとって難しいように感じた。実際の画面を操作し、作成済みの定義を参照しながら説明を受けることで、効率よく理解できたように思う。またテキストだけでなく、講師がホワイトボードに図や線を引きながら処理の「動き」を見せてくれたのも理解の大きな助けとなった。
演習の進め方は、ドリル問題の空欄を埋めるようなイメージであり、少しずつ自分で考えて手を動かす範囲を広げていく。
最初に着手したのは、「受注システム」へのログイン機能だ。ほぼ完成している状態だが、ログインIDとパスワードを自動入力する定義が必要だった。オブジェクトスタジオの機能を使って入力フィールドを認識させ、正しくデータが入るように設定を行う。
続いてフローチャートの部品を並べ、線を引いてリンクさせる操作も体験したが、Excelで図形を描画するのと同じような操作感で簡単に処理の流れを定義できた。そして変数を使い、ドラッグ&ドロップ操作でフィールドの要素と値を紐づけることでログイン機能は完成だ。実行ボタンをクリックすると、想定通りにフローチャートが動き出した。
まずはログインID、次にパスワードと、似たような設定を繰り返すことは無駄のように思えたが、実際に操作してみると設定のわずかな違いが影響することを理解でき、また、手順が記憶に残りやすくなる効果を感じられた。
【後半】よくあるExcelのデータ処理にフォーカス
5分間の休憩を経て、トレーニング開始から1時間が経過。短時間で一連のシナリオをすべて定義することは、初心者にとって困難である。そこで演習の後半では、RPAが特に力を発揮する繰り返しの定型処理である、注文情報をExcelから転記する機能に注力する。手を入れる必要があるのは、Excelデータを読み込む機能だ。
Blue Prismでは、よく使用されるフローチャートのテンプレート等が公式サイトや外部の開発者によって用意されており、必要な修正を加えるだけで機能を実装できるため、開発の手間を大きく減らすことができる。Excelからデータを読み込む場合にも、公式に提供されているオブジェクト「MS Excel VBO」をプラグインで取り込み利用できる。このオブジェクトではExcel操作に関する多数のアクションを実行できるのだが、まずは講師の手本を追いながら「Excelを表示」させるプロセスを実装する。プロセススタジオの画面で、マウス操作で「アクション」を並べ、線を引いてリンク。それぞれに入力と出力の変数等、設定を施していく。
テキストには、それぞれのアクションに必要な設定が表で示されているため、以降の設定は自分で進めていく。自力で何度も設定を経験することで、操作方法が定着していく。もちろん不明点があればスタッフのフォローを得られるのだが、全員が難なく進められたようで、5分ほどで終えられた。さっそく実行して答え合わせだ。開発中のロボットは他のユーザーが誤って実行しないようにするため、通常は管理ページから見えない設定となっているのだが、満を持してロボットを「公開」しての実行方法についても学んだ。
実行の前に編集内容を保存するのだが、Blue Prismでは必ずコメントを入力する必要がある。誰がいつどのような編集をしたのか、確実に履歴を残す安全仕様だが、自分以外がメンテナンスする場合や、過去のバージョンと比較したり戻したりする場合にも便利だ。
以上で演習は終了。「プロセス」と「オブジェクト」について軽く復習し、最後にログの確認方法を学ぶ。Blue Prismは逐一ログを記録するため監査やセキュリティ対策として有効だが、個人情報が含まれる場合など、あえてログを残さない設定もできるということだった。
およそ30分を残して、講師が質問に応じてくれる時間に。この日はプラグインやテンプレートの入手方法や種類に関する質問があり、具体的な方法や調べ方、トラブルシューティングの方法にも言及した説明が得られた。終了時刻の12時まで余すことなく質問が続き、いずれも丁寧に答えてもらえたのが印象的だ。
短時間で要点を押さえた体験に満足
全体を振り返ると、短い時間ではあるものの、セキュリティの強さなどBlue Prismの特徴にきちんと触れながら、日商エレクトロニクスが勧める考え方も交えた内容で構成されていた。冒頭、講師から「Blue Prismが初めての方もいますが、遠慮なく止めてください」と気遣う発言があったものの、要所で「大丈夫ですか」と呼びかけたり、スタッフのフォローもあったりしたため大きく止まることはなく、初心者の足並みが揃いテンポよく進められたトレーニングだった。
テキストでは「プロセス」と「オブジェクト」の詳しい説明を早い段階で実施したほうがいいのではないかと感じた。だが、一通りコースを終えてから読み返してみると、理解が難しい概念を学習意欲が落ちない絶妙なタイミングで説明していることがわかった。また、似た操作を繰り返す量など、限られた時間で要点を抑えるために、かなりよく練られていることもわかる。「機能を一通りなぞるだけでは」という事前期待を超え、実質的に80分程度で特徴をつかむことができた。担当者によると、アンケート結果には「不明点が理解できた」とのコメントが寄せられていたという。他の製品との比較時にも、スペック比較にとどまらない踏み込んだ検討ができそうだ。
時間の最後には、他のコースについての紹介もあった。Blue Prismのステップアップとしては、概念や基本操作を本格的に学びたい未経験者向けの「入門コース」(3日間)がある。さらに「入門コース」受講者や経験者を対象に、演習中心でロボット開発や動作確認のスキルを身に付ける「ロボット開発者育成コース」(2日間)を用意。このコース受講者もしくは1か月程度の開発経験者なら、応用知識習得やデベロッパー資格取得を目指す「デベロッパー資格取得コース」に進むこともできる。
また、デジタルレイバーアカデミーでは、Blue Prismだけではなく、UiPathやOCR(ABBYY)のトレーニングコースも提供する。
製品選定中の担当者向けには、1日でBlue Prism、UiPath、Automation Anywhereの3製品を比較し、典型的なRPA化対象業務であるExcelファイルから業務アプリケーションへの転記を実際に確認できる「3大RPA製品比較体験セミナー(ハンズオン)」が提供されている。
新たな一歩をうまく踏み出せるかどうかは、その後のモチベーションにも影響する。RPAの恩恵をいち早く、スムーズに取り込むためには、レベルや目的に応じたトレーニングを活用することを検討してはどうだろうか。
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