検索
特集

日本の貿易を支えるデジタルシフト。輸入貨物増加にAI-OCRとRPAで対応した住友倉庫

2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
移管に関する FAQ やお問い合わせは RPA BANKをご利用いただいていた方へのお知らせ をご覧ください。

Share
Tweet
LINE
Hatena
RPA BANK

業務の精度や効率化を阻む大きな要因のひとつとなっているのが、アナログ文書の存在だ。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)によってホワイトカラーの生産性は改善されつつあるものの、ロボットが扱えないアナログデータは多く、入力は人の手に委ねざるを得ない。

そこで活字や手書き文字を高精度かつ高速にデータ化できるAI-OCR( AI<人工知能>技術を取り入れた光学文字認識機能)に期待が寄せられているが、MM総研(ICT市場専門のリサーチ・コンサルティング企業)が2019年6月に実施した「国内法人のAI-OCR導入実態調査」によると、AI-OCRサービスを導入している国内法人は全体の9.6%に過ぎない。未導入のうち約半数が関心を持っているというが、そもそも導入数が少なく、成功事例や先駆的な活用シーンに触れる機会が少ない。

そんななか、国内外で総合物流事業を展開している株式会社住友倉庫が取材に応じてくれた。同社では、通関業務で取り扱う100社100様の通関書類(インボイス)をAI-OCRで読み取ることで、人材不足と業務量増加に対応しているという。

■記事内目次

  • 1.創業120周年、先進的ロジスティクス技術で次代へ
  • 2.「100社100様」のオペレーションで逼迫(ひっぱく)する通関業務
  • 3.インボイスのデータ化にかかる時間をAI-OCRで4割削減
  • 4.本質的な仕事に専念できる環境で、貿易を支える喜びを感じてほしい

創業120周年、先進的ロジスティクス技術で次代へ

―まず、住友倉庫の事業について教えてください。

永田昭仁氏(執行役員 情報システム部長):住友倉庫は、明治時代に倉庫業として創業しました。その後、倉庫を中心とした総合物流企業として成長し、2019年には創業120年を迎えることができました。物流は、世の中になくてはならないもの。そこで、これからの社会に貢献するためにも、「国内物流事業の強化」を成長戦略の一つに掲げています。倉庫施設を再構築するだけでなく、先進的ロジスティクス技術を取り入れることで物流オペレーションの効率化をはかり、より付加価値の高いサービスを提供しようとしているのです。

―業界のニュースでは、倉庫でロボットが荷物を出し入れするような光景も見かけますね。

永田: そうですね、ロボティクスやIoTも視野に入れている手段です。ただ、現時点でロボットが活躍しているのは、段ボールに収まっているような比較的形や大きさが定まっている荷物ですよね。

日本は海に囲まれているため、船舶や航空機での輸出入貿易なくして成り立たない国です。日本の輸出入貨物のうち、99.6%(2018年トン数ベース※)が船舶、残りが航空機により運ばれています。それだけに、港で積み下ろした荷物を一旦保管する場所としても住友倉庫への期待は高く、実際に当社の物流施設の多くは海のそばにあります。そこで我々が扱う荷物は、決まった形の段ボールに収まるものばかりではなく、重厚長大・軽薄短小、多種多様で、ロボットでの扱いが難しく、デジタル化も進みにくい分野です。そこで当社は業務の効率化のためにソフトウェアや人をサポートする仕組みづくりに取り組んできました。例えば、当社では倉庫での作業や事務効率を高めるため、フォークリフトに取り付けられたタブレットの画面に一連の作業指示を表示するような仕組みを開発しています。

※国土交通省「海事レポート」令和元年版より

これからも、AIなど最新の技術や仕組みで効率化や付加価値につなげられないか、いつも意識することが大切だと考えています。

−港湾倉庫ならではの事情があるのですね。

永田: 難しさがある反面、海に近いからこそ通関業務が成長しました。通関は専門性が高く手間もかかるため輸出入者である荷主様の代理人としての代行ニーズがあります。住友倉庫ではパートナー企業の協力も得ながらサービスを提供しています。

増田卓三氏(東京エージェンシー株式会社 営業部部長 通関業責任者 通関士): 港湾で貨物を輸入する際には、品名はもちろん、種類、数量、価格といった情報を書類にして税関へ申告しなければなりません。場合によっては検査を受け、関税や消費税の対象であれば納税し、ようやく輸入が許可されます。こうした一連の手続きを輸入通関手続といいます。

「100社100様」のオペレーションで逼迫(ひっぱく)する通関業務

−AI-OCRを導入することになった背景を教えてください。

永田: 近年は輸出入の総量が増加しているため、比例して通関業務も増加傾向にあります。さらに、貿易をはじめとした様々な経済分野での協力関係を強化するために経済連携協定(EPA)を締結する国や地域が増え、通関業務は一層煩雑になっています。加えて労働人口減少の流れもあり、国家資格である通関士をはじめとした業務の担い手を確保することが重要な課題となっています。安定的にサービスを提供し続けるためにも、効率的で働きやすい職場環境を整備することが不可欠となっているのです。

そこで着手したのが、AI-OCRやRPAを通関業務に活用することでした。

増田: 顧客からは通関書類のインプットになる帳票「インボイス」をお預りするのですが、現在はほとんどがPDFか紙の帳票で、データでのやり取りができるのはごく一部だけです。

インボイスには必要な掲載項目が決まっているものの、フォーマットに関しての取り決めがあるわけではありません。インボイスのレイアウトや業務に係る指示系統は顧客ごとに異なっており、顧客数が100社ならオペレーションも100通り存在するような状態です。非常に非効率な業務になっていたと同時に、ミスを防止するためのチェックに膨大な時間がかかっていました。

永田: もし間違った申告をしてしまうと国の税収に影響するだけでなく、納税額が多くても少なくても顧客に迷惑をかけることになります。それに加え、貿易統計など世界に影響を与える資料も誤った状態にしてしまうのです。

木村絢子氏(東京支店 輸出入営業第二課): 書類作成を補助するシステムやExcelマクロの使用等により省力化を図っていますが、その前段の作業であるデータ入力がとにかく大変です。インボイスのボリュームは1行の場合もありますが、東京港は消費財を扱っているため多くなる傾向にあり、50枚程度のケースも日常的です。なかには300枚にもなる取引先もあり、データ入力に半日程を費やしていました。

−以前から課題意識をお持ちだったのですか。

増田: そうですね。ただ、入力後の自動化は可能でも、そもそも紙の帳票を変えることや、全面的に取引先とシステム連携するのは、難しいだろうと思っていました。

永田: もはや従来の延長線上ではダメで、抜本的に新しいやり方が必要だと考えました。そこで従来からITソリューションのパートナーだったNEC、AI-OCRとRPAに精通するNECソリューションイノベータ、増田さんら東京エージェンシー、そして顧客の協力を得て、2017年度後半から通関効率化の取り組みを開始しました。

インボイスのデータ化にかかる時間をAI-OCRで4割削減

−取り組みについて、詳しく教えてください。

永田: まずは、住友倉庫や増田さんの知見をもとに理想型を可視化して、システムのグランドデザインを描きました。

輸入通関の場合、業務を6つの工程に分解できます。それぞれに最適なアプローチのツールが何なのか、NECやNECソリューションイノベータを交えて打合せを繰り返しました。このとき、ただツールありきの提案ではなく、通関業務をよく理解し、可視化や分析にまで踏み込んで協力してくださいました。

木村: その結果、最初に紙やPDFのインボイスをデータ化する工程では、AI-OCRによって大幅な所要時間の削減を達成。A社の場合は月間約260時間から約160時間へ、およそ4割減になりました。

増田: AI-OCRについてはいくつかの製品を試していたのですが、200種類近いパターンのインボイスから我々が必要としている項目を抜き出すことができず苦労していました。そこでNECソリューションイノベータにいくつかのAI-OCRそれぞれの特徴を分析してもらった結果、提案されたのがABBYY社の「FlexiCapture」とネットスマイル社の「AIスキャンロボ」で、ようやく的確にデータを抽出できるようになりました。

木村: FlexiCaptureは精度が高いだけでなく、間違いを見つけやすいインターフェースなので、特にミスが許されない業務に向いているように感じました。

また、帳票のレイアウトは突然変更されることも珍しくないのですが、NECソリューションイノベータが柔軟にサポートしてくれて助かっています。

―他の工程では、どのような取り組みを行ったのですか。

永田: AI-OCRで読み取った後には、データベースの構築、申告書類の自動作成が続きます。

木村: 3つの工程での取り組みを合わせた場合、B社では約46時間から約26時間へと4割程度の削減を達成しました。

永田: 各工程を「点」で改善するだけでは、効果は限定的です。NECソリューションイノベータがRPAで工程間をつなぐ提案もしてくれたので、効果が大きくなったと感じています。

木村: RPAが活きているのは、通関業務だけではありません。例えば通関後の物流オペレーションを手配する業務では、ある取引先の場合は、私が船会社のWEBシステムに毎日アクセスしてファイルを取得し、把握しておく必要があります。定時・定型的な業務なのですが、システムのレスポンスが悪いため、待ち時間も発生していました。「人でなくともできる仕事なのでは」と思っていたので、RPAで自動化してもらって助かっています。

本質的な仕事に専念できる環境で、貿易を支える喜びを感じてほしい

―今後は、どのように取り組みを広げていく予定でしょうか。

増田: 申告書類の作成まで自動化できても、そもそもAI-OCRが誤読している可能性は否定できません。また、通関士は最終的な申告書の内容については自分の目で間違いがないかをチェックして、責任を持たなければなりません。

通関業務の本質ではないExcelへの申告用データの転記と税番を集約する線引き計算には、全工程の約3割の時間をかけています。こうした本質的でない業務には手をかけず、新商品の税番を確定する等の重要な部分を通関士として注力できる仕組みを構築していきたいですね。今はチェックを楽にするためのシステムも開発中で、さらに対象の工程を増やしていく計画です。

永田: ご紹介した通関効率化の仕組みは「i-Clearance(アイクリアランス)」と名付けて商標登録している本格的な取り組みです。現在は東京支店だけにとどまっていますが、順次全国の拠点に展開していく予定です。当社は、拠点によって顧客も貨物も違い、それぞれのニーズに柔軟に対応できるのが強みである反面、個々のニーズに丁寧に対応することが時に合理化の障壁になる面があると感じています。顧客やスタッフの満足度を高めつつ展開するのが、新たなチャレンジです。

人手不足は通関業務に限らず深刻な状況です。貿易を支える喜びを感じて働ける会社だと自負しているのですが、長時間労働や単純作業の繰り返しだけがクローズアップされてしまうと、この業界を志望する人が減ってしまい、ひいては国にとっても損失となります。これからも積極的に先進的技術を取り入れて働く環境を整えることが、社会的な貢献にもつながると考えています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る