コールセンター業務のBCP対策、増加する問い合わせにどう対応する?
災害や疫病など有事が発生すると顧客からの問い合わせは増加します。最低限、コールセンター業務が通常通り遂行できていなければ企業のサービス品質は低下してしまいます。どのような方策をとれば良いのでしょうか。本記事は「BIZTEL ブログ」の記事を元に編集・再構成しています。
新型コロナウイルス感染症の流行で、災害や疫病対策がいっそう重要視されています。企業に対する信頼は「安定性」「継続性」などが大きく影響するため、異常事態でもサービスを継続するための工夫が求められます。
顧客接点領域の柱となるコールセンターでは、災害やパンデミックを機に問い合わせが激増する可能性が高く、柔軟性や即応性を考慮した「BCP(事業継続)対策」が必須です。本稿では、コールセンターのBCP対策に役立つクラウドサービスと、実際の導入事例を紹介していきます。
コールセンターにBCP対策が必要な理由
まず、コールセンターにおけるBCP対策の大切さについて解説します。2011年3月に発生した東日本大震災では、東北地方と首都圏で多数のコールセンターが業務停止を余儀なくされました。
コールセンターが業務停止に追い込まれた理由は、次のように整理できます。
東日本大震災時のコールセンターの実情として「通勤困難によるオペレーターの稼働率低下」「首都圏全体の電力不足によるシステム稼働時間の強制的な短縮」などが挙げられます。2011年、特に深刻な打撃を受けたのは、単一拠点で「分散」「冗長化」が不十分だったコールセンターでした。地震が直撃していない郊外のコールセンターでも、市街地のライフライン停止の影響から、復旧まで2カ月近く要した例もあります。コールセンター自体の被害は軽微でも、周辺地域の復旧が遅れれば満足な稼働は見込めません。
その一方で、震災から数日後には、業務停止の反動から問い合わせ件数が数倍に増加しました。急激な業務量増加に現場はついていけず、満足なサービスの提供ができないという問題も発生したそうです。
地震以外にも新型コロナウイルス感染症のように疫病による業務停止リスクもあります。インフルエンザをはじめ感染症は、公共交通機関やオフィスなど「人が集まる場所」を中心に拡散していきます。もし従業員が感染した場合、感染していない従業員も通勤制限をかけ稼働を維持する方法を考えなくてはなりません。
コールセンター向けBCP対策として考慮すべきことは、多拠点化と冗長化に加え、遠隔地に拠点を分散させると拠点同士でお互いの業務を補完できる仕組みの構築、通勤を伴わないコールセンター運営基盤の構築が重要です。社員を一カ所に集めず、出勤や欠勤の管理、シフト調整などが可能なシステムを構築しておくことも必要です。
「オンプレミス型のシステムの利用をしている」「特定の地域内にのみ拠点を持つ」といったコールセンターは、災害対策が難しく、BCP対策の観点からするとリスクが高くなるため、分散と冗長化、共通化が容易なクラウドを活用したBCP対策の立案についても検討すべきでしょう。
BCP対策に役立つクラウド型コールセンター導入事例
コールセンターのBCP対策として有用な手段はクラウド型コールセンターシステムの利用です。多拠点でのコールセンター業務の他、在宅でのコールセンター業務も可能とするシステムとは。その機能と3つの事例を紹介します。
低コストかつ短納期なクラウドPBX
コールセンターシステムの要ともいえる「PBX(構内交換機)」をクラウドで利用することができます。インターネット回線を経由してPBXの機能を提供するため、物理的な設置工事が必要ありません。オンプレミス型のPBXに比べ、コストと納期も優れており、災害時の臨時的なコールセンター立ち上げにも活用できます。
ソフトフォン
ソフトフォンは、「PC内で動作するソフトウェア型の電話機」です。PCとインターネット回線でコールセンター業務が再開できるため、災害発生時の緊急の在宅勤務などでも活用できます。専用電話機の設置が不要で、コスト面も優れています。
着信振り分けの管理
クラウド型コールセンターシステムでは、転送先と着信先の変更や、着信先の優先度の設定をWebブラウザで実行できます。時間と場所を選ばず変更でき、状況に合わせてバックアップコールセンターや在宅勤務の従業員に素早く切り替えたり、計画停電エリアに応じて業務量を調節したりできるため、コールセンター業務の継続がしやすくなります。
コールセンターの受電・応答状況や、オペレーターの稼働状況の確認
災害発生時は通常とは異なる受電状況となるため、コールセンターにどのくらいの呼量が来ているのか、詳細に把握しておく必要があります。また、在宅勤務や臨時拠点のオペレーターの稼働状況を確認し、十分な応答率を保てているかも意識する必要があります。
クラウド型のコールセンターシステムであれば、臨時拠点や在宅も含めコールセンターの対応状況をリアルタイムで確認可能です。オペレーターのパフォーマンスについても、受電・架電した件数や、通話・事務処理・離席していた時間などが確認できるため、臨時体制を運用に適しています。
在宅・臨時拠点オペレーターのID管理
災害時には、複数の拠点からコールセンターシステムへのアクセスが見込まれるため、アクセス権やセキュリティの管理が必須です。オペレーターごとに割り振られたIDに対し、適切に権限を付与しなければなりません。クラウドであれば、在宅勤務や臨時拠点の人員など、オペレーターのID作成・管理が素早く、容易にできます。
クラウドCTI
在宅コールセンターは、従業員の行動を監視しづらく、セキュリティ面で不安を抱える企業が少なくありません。通話内容は顧客情報を含んでいるため、音声情報に対するセキュリティについて考えておくことも重要です。クリックトゥコールと通話録音、着信振り分けといったコールセンターシステム機能をクラウドサービスとして提供する「クラウドCTI」では、在宅勤務者の応対品質管理や稼働状況の把握も可能です。また、セキュリティオプションを適用すれば、データ暗号化やシステムへのアクセス制御などができるため、高いセキュリティ水準を確保しやすくなります。
この他にも、クラウド型コールセンターシステムでは、通話録音機能などコールセンター業務に必要な機能を提供しています。PCやヘッドセット、インターネット回線があれば、在宅勤務や臨時拠点での利用ができるため、BCP対策のハードルを下げられます。
クラウドシステムを活用したコールセンター向けBCP対策事例
では、実際にクラウドシステムを用いたコールセンターのBCP対策事例を紹介します。
金融コールセンターの構築 損保ジャパンパートナーズ
損保ジャパンパートナーズでは、首都圏広域災害を想定したBCP対策として、関西地域の社員による臨時コールセンターを構築し、運用の訓練をしています。災害時には、被災地域の支店あての電話を転送して別拠点で代理受電するという活用がされています。
コスト削減と多拠点化・可視化を両立 日総工産
人材サービスを展開する日総工産では、国産のオンプレミス型PBXからクラウド型に移行しました。移行の理由は、老朽化によりリプレースが必要だったことと、録音機能がなくその追加に多額の費用が必要だったからです。アウトバウンドコールを行う新拠点の開設を見据え、多拠点化が容易なクラウドの特性も後押ししたようです。導入により、拠点の多地域分散が可能になり、BCP対策も同時に実現しました。
在宅勤務での体制強化で品質も向上 ブイキューブ
Web会議システムなどビジュアルコミュニケーションツールを提供するブイキューブでは、カスタマーサポートの応対品質を上げ、継続利用率向上を促すため、サテライトオフィスと在宅コールセンターにクラウド型CTIを導入し2拠点の連携によって新たなサポート体制を構築を試みました。応対品質向上に加え、拠点が複数に分散されたことで、豪雨や停電といった災害時でもサポートが継続できるようになりました。
先述のように、クラウド型コールセンターシステムの導入はコスト削減やBCP対策、人材活用の観点からとても合理的な施策です。企業のBCP対策を再考する際、コールセンター業務のクラウド化を実施してみてはいかがでしょうか。
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