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人材流出に歯止めをかけるにはアレが効く? 組織と従業員をつなぐ4つの心得とは

組織から離れる従業員やスタッフ。なぜ、人材流出は起こるのか、有効な改善策はないものか。本連載最終回は、組織離れに歯止めをかける施策について解説する。

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 本連載の最終回となる本稿では、従業員エンゲージメントの向上とインナーブランディングとの関係、インナーブランディング成功企業の事例や社内報と採用サイトで社内外に情報発信する際に考えたいポイントなどについて解説します。

著者紹介:太田 努(デジタルフォルン 取締役COO)

大手人材総合サービス企業在籍時にアウトソーシング事業を中核とする社内ベンチャーを立ち上げ、上場。主に営業やサービス企画、グループ企業経営などに従事。その後生活産業系企業に移り、BtoCの店舗運営事業の立ち上げに携わる。事業責任者として店舗オペレーションやサービス企画、マーケティングなどを統括。現在はデジタルフォルンのCOOとして事業運営全般を担当しながらグループ会社であるサイト・パブリスの執行役員を兼務。デジタルマーケティング領域の拡大に向けた取り組みを行う。


従業員エンゲージメントの向上とインナーブランディングとの関係性

 この人手不足の時代において従業員の定着が課題となる中、離職率低下の鍵を握るのが「従業員エンゲージメント」です。エンゲージメントを高めるには、企業が掲げる理念やビジョンは重要な要素です。企業と従業員の価値観が一致すれば、それぞれの思いや意思が強まるだけでなく、労使間の信頼関係も強まります。

 「従業員エンゲージメント」は、今働いている会社をどれだけ信頼しているか、どれだけ貢献したいと考えているか、など勤務先への愛着を示す概念です。しかし、エニワンが2019年4月に実施した「企業理念・ビジョンの浸透に関するアンケート」によれば、企業理念やビジョンをしっかりと理解していない従業員は6割に上り、そのうちの約4割が「理想と現実の差が大きい」と感じているといいます(図1)。また、エンゲージメントが高い従業員の離職率は、エンゲージメントの低い従業員よりも90%近く低いという調査結果もあり、あらためてエンゲージメントの向上は離職率の防止に有効だといえるでしょう。


図1 企業理念・ビジョンをしっかりと理解しているか(出典:エニワン「企業理念・ビジョンの浸透に関するアンケート」)

 従業員エンゲージメントを高めるには、企業理念とリンクした取り組みが重要です。解決策として、本連載第4回でも解説した「インナーブランディング」があります(詳しくは第4回の記事をご参照ください)。インナーブランディングのお手本となる企業としてサントリーや伊藤忠商事などがあります。伊藤忠商事はコーポレートメッセージの発信力を高めることで社内への価値共有を進めています。この両社に共通するのは、企業理念やコーポレートメッセージが誰から見ても分かりやすく、浸透しやすい言葉を選んでいることです。これは、インナーブランディングによって従業員エンゲージメントを高める際のポイントになります。

先行企業に見る企業情報の発信の在り方とは

 ただし、インナーブランディングの推進には時間を要するため、並行して取り掛かれる別の施策も必要です。特に従業員に対する情報発信は重要です。多くの組織はラインマネジメントによる人づてか、グループウェアを活用して情報を発信していますが、それで組織メッセージが従業員に十分に伝わっているとは思えません。そのため、伝えるメッセージを明確にするとともにタイムリーに情報を発信することが重要です。以降では2社の成功事例を参考にインナーブランディングの具体的な手法を紹介します。

 エン・ジャパンは「en soku!」という社内報を公開しています。「正直で詳細な情報を提供する」という企業コンセプトに基づいて、従業員一人一人がライターとなって記事を執筆し、公開します。従業員のありのままの日常や自社の情報を発信する社内報としての在り方を保ち、Webサイトで社外にも公開しています。

 ソフトバンクは「Biz TV」という社内報を持ち、動画による情報提供もいち早く取り組んでいます。動画は5分以内にまとめるという編集ルールを設け、“飽きさせない社内報”を目指しています。

 エン・ジャパンの取り組みはまさに口コミサイトやSNS時代を捉えた積極的な情報開示策といえます。企業として隠せることは何もないことを大前提とし、拡散効果を逆手に取った戦略といえます。

 ソフトバンクは動画を積極的に活用するだけでなく、視聴率も測定しています。情報提供が一方通行にならず、視聴率を測定することで情報の受け手への伝わり方を把握する点はデジタルの特性を生かした取り組みといえます。両社に共通するのは、ツールの活用だけでなく、従業員を顧客目線で見ているところです。また、デジタルネイティブ世代を意識したコミュニケーション手段を選択している点も共通しています。ターゲット層をどこに置くか、どういった施策を選択するかインナーブランディングの実践において重要です。

社内報と採用サイトを作るときに考えたい4つのポイント

 従業員を顧客と捉えているこの2社の事例のように、社内報も採用サイトもマーケティング視点で考えることが問われています。今のグループウェアや採用サイトはその点が抜けているのです。

 これは、他業種の動きを理解するとイメージが深まります。旅行業界や飲食店の業界を例に挙げて考えてみましょう。宿泊業界は既に第三世代に移行しています。第一世代がJTBなどの旅行代理店の時代で、第二世代が楽天トラベルなどのネットエージェントの時代、そして現在は第三世代で、ネットエージェントなどのチャネルを残しつつ、自社サイトでも集客し、自社サイトの向上にも注力しています。

 飲食業界も同様で、「食べログ」や「ホットペッパー」を集客手段として活用しつつ、自社サイトの集客力を高めようとする動きもあります。学生の採用サイトの“ナビ離れ”が進む中、採用媒体の費用対効果に疑問を持つ企業は増え、通年採用時代に移行しようとする中で、自社サイトの集客力をいかに向上させるかは避けられない問題です。

 以上の情報を基に、企業が社内報や採用サイトを再構築する上で重要なポイントを以下にまとめました。

1 メインターゲットをデジタルネイティブ世代に置き、共感をもってつながる情報発信の在り方を基軸とする
2 採用サイトをマーケティングツールとして位置付け、組織自らで情報を更新し運用する仕組みを考える(オウンドメディア化)
3 興味・関心の状況把握や簡易なアンケート機能など、効果を測定できる仕組みや対象セグメントごとに情報発信できる機能の実装(MAツールの活用)
4 画など短い時間で情報が伝わる発信方法の積極的な活用

 企業それぞれで事情は異なりますが、ステークホルダーごとのファン化のレベルや情報発信とコミュニケーションレベルを棚卸し、優先順位を付けて戦略を立案、実行することが求められます。戦略を実行していく上でITの活用方法もより深く掘り下げていく必要があります。時間の短縮と運用コストの軽減も期待できるSaaSを選択するのも有効でしょう。

 今回の連載で伝えたいことは、今や企業は選ぶ立場ではなく、あらゆるステークホルダーから選ばれる立場にあるということです。従業員やスタッフなど組織内のステークホルダーに対して、この感覚をもって情報発信やコミュニケーションをとることが重要です。第4回でも触れたように、インサイド情報が口コミサイトやSNSで簡単に拡散される時代です。

 その情報を株主などのアウトサイドのステークホルダーも注視しています。企業活動の最大の目的は、事業を通じて社会貢献を行うことであらゆるステークホルダーを自社の“ファン”にすることです。インサイド側のステークホルダーである、従業員やその予備軍である求職者をもファンに取り込むアプローチが必要です。こうした考えが本連載を通して少しでも理解いただけたのなら幸いです。

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