BCP見直しとIT投資予算の動向調査(2020年)/後編
緊急テレワーク対応で企業のIT予算はどう変化したか。キーマンズネットの調査では、対応を急ぐために他の予算をテレワーク対応に割り振ったり、今後の計画を見直すといった意見が寄せられた。
キーマンズネットは2020年5月12〜24日にわたり「BCP見直しとIT投資予算の動向調査」を実施した。全回答者122人のうち、情報システム部門は33.6%、製造・生産部門が15.6%、経営・経営企画部門が10.7%、営業・販売部門が6.6%などと続く内訳であった。
前回の記事では新型コロナウイルス感染症対策でのBCPの実施状況や課題を確認した。今回は「IT関連予算や投資計画の変更有無」や「今後早期に導入したい製品」など、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて企業のIT投資予算や投資先にどのような影響が生じたのかを調査した。なお、グラフ内で使用する合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
「コロナ禍」きっかけでIT予算を見直した企業の割合と予算の増減は
2020年冒頭に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の影響は、経済活動やわれわれの行動様式にも大きな影響を与えた。
IT部門においては従業員の安全と事業継続を両立するため、テレワーク型の動労に切り替えたり、顧客接点の作り方を見直したりと、従来とは異なるニーズが一気に押し寄せる形となった。一方、企業全体としての事業見通しについては、状況を鑑みて見直しが必要となった組織もあるだろう。
そこで調査では、IT関連予算や投資計画について2020年に何らかの変更があったかを調査した。結果は図1の通りだ。
図1の通り、予算について何らかの「変更があった」と回答したのは36.9%と全体の4割弱だった。
緊急でテレワーク対応は増額するも別案件は「凍結」か、変化の内訳
あくまでも参考値となるが、変更があったとした回答者の詳細を見ると、今回のサンプルではIT関連予算について「当初予算よりも増額した」とした回答が64.4%で「当初予算より減額した」の15.6%を大きく上回る結果となった。
フリーコメントでは「新規案件を凍結し、在宅体制の構築に予算を回した」「リモートアクセスシステムの増強用に予算を拡充した」といった声が聞かれた。
PCやスマートフォン、ルーターなどの設備投資やVPNや仮想デスクトップ環境の導入などテレワークに対応するために、別で確保した予算をスライし、さらにIT予算を増額させた、との意見が多く寄せられた。
この他、自治体や政府によるテレワーク推進の制度を活用してテレワーク環境導入を急いだとの意見もあった。IT導入補助金をはじめ、各種支援制度はテレワーク向けの設備投資やソフトウェア購買、PCなどのリースや購入を想定した制度もあるため、活用したいところだ。
いまあるIT予算は全てテレワークに投入する企業も
新型コロナウイルス感染症の流行により、具体的にどのようなIT製品やサービスに注目が集まっているのだろうか。そこで、調査では今後早期に導入したい製品も聞いた。
その結果、「特にない」とした回答が多数となった。一定数の企業は事業継続に必要なITツール類についての対策が間に合ったと考えられる。
一方で今後導入したいツールを挙げた回答では「VPN接続を使った業務アプリへのリモートアクセス」や「電子署名システム」「Web会議システム」などが上位となった(図2)。
前編で紹介した通り、今回の調査では全体の約半数が今回の「コロナ禍」において、策定済みのBCPやパンデミック対策が「不十分だった」と回答している。
その多くがテレワーク環境が未整備であったり、テレワークの対象範囲が限定的であるとの理由であった。2020年5月末時点では緊急事態宣言が解除され、国内においてはいったん収束を見せている状況だが、ワクチンや治療薬の開発も含めた抜本的解決までは先行き不透明だ。今後、第2派、第3派の流行が想定されることからテレワーク環境のさらなる整備や導入は多くの企業が急ぎ検討している。
フリーコメントで見てみると、「Webカメラやヘッドセットなどの関連機器の全員への配布」「モバイルルーターと回線契約などの見直し」など、具体的な活用イメージと製品群が挙げられており、既に予算が投入されている企業も少なくないとみられる。
「コロナ禍」で見えてきたIT投資“今後”の課題
今後のIT投資計画の課題について、「テレワークのトレーニングを事前にしておくべきだった」という反省の声が多く寄せられた。今後の計画について意見を求めたところ幾つかの傾向が見えたのでまとめておく。
収益悪化の懸念、終息後を見通せないため、IT予算を絞る
まず「景気がいつ回復するのかが不透明なため、IT投資を計画通りに進められるかの想定が難しい」「テレワーク推進のためにIT予算を拡充したくても、売り上げの見通しが立たない中では新規投資ができない」といった景気減速に伴う投資マインドの減退や投資時期の延期などへの不安である。
いざ投資を決めたとしても「テレワークが今後どのくらい続くのかが分からない中、どれだけ投資すれば良いかの判断に迷っている」などの意見もあり、見通しが立たない経済下では費用対効果をはかるのが非常に難しいのも理解できる。
withコロナ時代の「新しい生活様式」への対応の課題
今後の施策を検討するとした意見の中には。「テレワークでのコミュニケーションツールや通信回線の強化など、何に投資するべきかがはっきりした」といった声に見られるように、自社のBCP策を見直す機会としてプラスに捉える意見も多かった。
「データセンターに保有するオンプレミス環境をクラウド移行する必要がある」「作業契約請負者へのテレワーク環境の提供を急いでいる」といったテレワーク定着に向けた取り組みを急ぐ意見が多く寄せられた
デジタル・ガバメントはいつから? 代表印を求める公的機関、取引先
この他には取引先側のアナログさを問題視する意見もあった。例えば「公的組織の顧客が代表印や原本(紙)から離れること」という意見だ。行政機関のデジタル変革(DX)を念頭に各種法改正とともに内閣府が進める「デジタル・ガバメント実行計画」は、まだ始まったばかりだ。今後、各種手続きを電子化やデータ連携が進むと考えられるが、現状ではまだ紙を前提としたルールが多数残る。この問題と同様に「請求書のオンライン処理化と仕入れ先との整合」といった日本独特の商慣行に基づく運用を課題として挙げる意見もあった。
感染症のリスクをきっかけに多くの企業が働き方を見直すことになった。今後はテレワークで企業が準備すべきことをいま一度見直し、効率の良い働き方を目指していただきたい。
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