非常時のテレワークに備えたPC運用とは? PC、周辺機器の選び方を解説
コロナ禍のような非常時に備えるために、今こそ押さえておきたいPC選定から運用のポイントを解説します。
第1回では、IT機器のライフサイクルマネジメント(LCM)サービスとしてPCなどのレンタルを展開している当社への問合せ状況を通じて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の中で情シス担当者が苦労の末にテレワーク用機器を導入していたことを解説しました。第1回で解説した通り、テレワークを実現する上で「機器の調達」「キッティング作業」「トラブル時の対応(ユーザーサポート)」「ユーザーの効率低下」の4つが大きなボトルネックになっていました。
2020年7月現在、COVID-19の第二波に加え夏季の台風被害、大型地震などが懸念され、情報システム部門は非常時を見据えてIT機器を運用する必要があります。本稿は、コロナ禍で表面化した情シス部門の課題の解決策を提示します。
著者紹介:杉 研也
IT機器の調達から運用管理、データ消去、適正処理までをLCMサービスとして提供するパシフィックネットの取締役を務める。企業や官公庁におけるIT機器の排出からデータ消去、リファービッシュまで、ITAD(IT Asset Disposition)の責任者として、多数のリユースの現場に携わる。環境省が開催する「使用済製品等のリユース促進事業研究会」で委員を務め、また総務省がオブザーバーとして参加する「リユースモバイル関連ガイドライン検討会」で主査に任命されるなど、社外活動にも積極的に参加、リユース業界の透明性の高い健全な発展に尽力する。現在は、サブスクリプション(レンタル)ビジネスの責任者として、働き方改革とテレワーク導入の推進、DaaS(Device as a Service)の提言など、新たなIT機器の活用方法を企業に提唱している。
BCPを勘案して機器の調達を
急激に高まったテレワーク需要によるPCの枯渇は想定以上でした。緊急時においては、メーカーやベンダーなども業務をストップする可能性があるため、平常時から事業継続計画(BCP)を勘案しておく必要があります。コロナ禍へ対応するため、急いでノートPCを導入したが、緊急事態宣言解除後は社内にあるデスクトップPCを利用するため、余計なコストがかかったとの声も聞きます。
非常時に、PCレンタルを活用していただくのも一つの手段ですが、希望の機種を希望の納期までに調達できるかどうか確実ではありません。短期利用であっても二重コストとなる可能性もあるため、テレワークを見据えたノートPCなどの端末にリプレースする方が、機器確保とコストの両面からもリスクを減少できます。2011年の東日本大震災の時に、重要なデータが入っているためデスクトップPCを持って避難したという例もあります。緊急時にPCを手軽に持ち運べることは、機器選定の重要なポイントです。
当社にもデスクトップPCからノートPCへの切り替えの相談が多くの顧客から寄せられています。当社のレンタルサービスを利用しPCを調達している企業では、デスクトップPCのレンタル契約を解約し、新たにノートPCのレンタルに切り替えを実施した事例もあります。すでに購入済みの自社所有デスクトップPCをリユース品として売却し、新たに購入するノートPC用資金に充当された例もあります。
キッティングなどの物理的作業はアウトソーシングで
今回のコロナ禍で、最も問い合わせが多かったのは、ハードウェアの保管やキッティング業務のアウトソーシングサービスでした。レンタルしているPCだけでなく、顧客がリースや購入で管理されている余剰PC(予備機など)を預かり、顧客の必要に応じて、キッティングして指定の拠点へデリバリーするというものです。
あくまで当社の例ですが、新規の顧客の場合、初回のマスター作成に時間がかかってしまい、顧客が待ちきれず自前でキッティングすることになり、情シスはテレワークできず……、という例もありました。
すぐにテレワークを実施できた企業とそうでない企業の差は、キッティングなどの物理的作業をいかにアウトソーシングしていたかどうかによるのではないかと思われます。
ヘルプデスク活用で情シス担当者のリソースを確保
情シス部門は構築や環境の設定など業務が山積みで、従業員個々のサポートまで手が回らなかったという例もあります。コストの問題はありますが、非常時に備えてヘルプデスクも外部リソースを活用するのもBCPとして有効です。
情シス部門のミッションは本来、IT戦略の立案やデジタル化に向けたIT導入といった高付加価値業務です。PCの管理業務やIT資産管理、キッティング、問い合わせ対応などは、これを機に思い切ってアウトソーシングすることも選択肢の一つではないでしょうか。
運用先の選考方法とリスク回避
ただし、アウトソーシングする場合、委託先企業の選定には注意が必要です。非常時に休業したり地震や台風などで委託先企業が被災したりする可能性も否定できません。
委託先の選定は、以下の3点が重要なポイントとなります。
- 感染症対策がしっかり行われていること
- 災害時などにも稼働ができる施設、体制であること
- 顧客のPCなど情報資産を預けることもあるため、セキュリティ対策が施されていること
当社のテクニカルセンターを例に、この3つの対策の実践例を写真を交えて紹介します。
生産性を上げるためのテレワーク環境構築のポイント
ここからは、テレワークに最適なPCと周辺機器の選び方について解説します。
A4ノートPC
- コストが安価
- あまり持ち運びが発生しない従業員向け
- テンキーがあるものだと経理部門などの入力作業に適している
B5モバイルノートPC
- コスト的にはやや高価
- 頻繁に持ち運びがある従業員に最適(特に女性は持ち運びの負担を考えるべき)
- テンキーや外付けキーボードの支給を検討
B5モバイルノートPC(LTE付き)
- コスト的には高価
- 在宅だけでなく、外出先で作業をする事がある人に支給
- セキュリティ保護のため、プライバシースクリーンの支給は必須
- ハードウェア的にセキュアスクリーン付きのモデルもあり
テレワーク機器の選定ポイントで盲点になりやすいのが、デバイスの音やマイクの機能です。ヘッドセットを活用すれば解決することですが、ノートPCによっては、マイクが4つ搭載されていて集音に優れており、リモート会議なども快適にできる機種があったり、スピーカーも機種によって性能格差が大きくあります。このようなサウンドの部分を注目して機器を選定することもおすすめです。
次に周辺機器の選定ポイントを紹介します。
Wi-FiルーターとSIM
- 自宅でのLAN環境構築に必須
- ZOOMなどのビデオ通信では、1時間あたり800MB弱の通信容量なので容量に注意
モバイルモニター(14インチや15インチの薄型外付けモニター)
- 在宅でのテレワークの効率化に最適
- 設置場所、保管場所を取らないので、邪魔にならない
モバイルプリンタ
- どうしても紙の出力がある業務もテレワークが実現可能
- 紙でチェックができるので、正確性が上がる
- 紙、インクの支給が必要で、割と早くなくなるので注意が必要
- 使用後はシュレッダーにかけるなどセキュリティルールの徹底が必要
ヘッドセット
- オンラインで会議、商談する際の品質が向上し、相手にストレスを与えない
ACアダプター
- ACアダプターを会社と自宅用に支給するだけで、持ち運びのストレスが大幅軽減
拡張ドッグ
- 1本のケーブルで、充電・有線LAN・外部モニター出力・キーボードマウスが接続可能
- ケーブルの抜き差しの面倒から解放される
周辺機器に関しては、あれば便利だがコストもかかるため導入を迷う顧客も多いです。しかしテレワーク環境での作業効率の上昇が望めます。当社もテレワーク導入時には、生産性が上がらない、業務に集中できないなどの声が多数上がりましたが、周辺機器の支給後はそのような声が聞かれなくなりました。
第二波にそなえるために、今やるべきこと
すでに情シス担当者も、第二波に備えてさまざまな対策を取られているでしょう。テレワーク推進のためには、新たに電子承認ツールや資産管理ツールを導入したり、システムによってはオンプレミスからクラウドへの移行を検討したりする必要があります。テレワーク向けの人事制度の構築や社内ルールの策定など課題が山積みでしょう。機器の運用管理に手が回らなければ、各ベンダーに相談しアウトソーシングすることも一つの手です。この連載が、情シス担当者を含めたテレワーク定着の一助になれば幸いです。
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