勤怠管理システムの利用状況(2020年)/後編
テレワークで残業時間の管理はどう変化したのだろうか。現場からは上長や経営層のやり方に不満を抱く声、管理側からは現場の実態を把握できないという困惑の声が寄せられた。双方の溝は大きいようだ。
キーマンズネットは2020年7月10日〜7月29日にわたり「テレワークと勤怠管理システムの利用状況」(全回答者数103人)に関する調査を実施した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策でテレワークに取り組む企業が増えてきている昨今、企業における勤怠管理の在り方に変化はあったのか。本稿では、勤怠管理システムの「導入状況」「満足度」などを2019年に実施した同様の調査と比較した形で分析する。
前編では、テレワークで勤怠管理システムの利用がどう変化したかを取り上げた。後編となる本稿では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以後の残業にフォーカスし「残業時間管理への対策有無」や「対策をしない理由」「残業時間と自社の勤怠管理方法についての課題」について取り上げる。
過半数の企業で“残業時間”の管理や抑制を強化
前編では全体の9割でテレワークが実施されており、8割の企業で勤怠管理システムが導入されていることに触れ、その背景にCOVID-19対策や働き方改革関連法対応が影響しているものと予測した。そこで後編でも引き続き、情勢の変化に企業がどのような対応をしているのかをまとめる。
はじめに、2020年の新型コロナウイルス流行以後、従業員の残業時間管理に対して何らかの工夫や対策をしているかどうかを尋ねたところ「対策している」が39.8%、「対策を検討中である」が14.6%、「何も実施していない」が45.6%となった(図1)。対策をしている企業と検討している企業をまとめると54.4%と過半数が残業時間の管理や抑制を強化したいと考えていることが分かった。
では、既に強化した企業は具体的にはどのような対策をしているのだろうか。フリーコメントで聞いたところ「テレワーク時は勤怠管理システム上は規定の就業時間通りに設定される。残業が発生し、PCログイン時間で把握した実態と乖離(かいり)があればエラーが表示される仕組みになっている」「従来の勤怠管理システムに加えて、在宅勤務申請と実施報告をすることで詳細な勤務管理を実施している」など、勤怠管理システムの機能を活用したり新たな運用ルールを制定したりすることで、柔軟な対応をしているようだ。
その他にも「フレックス勤務のコアタイムをなくしてテレワークを組み合わせ、残業自体をなくした。人との接触も最小限にできている」のように働く時間や場所をうまく調整することで、従業員の感染リスクに配慮しながら残業時間対策を実施したり「事前申請以外の残業を不可とした」「基本的に残業禁止となっている。必要な場合は事前に上司の了承を得なければならない」のように、残業自体の抑制方針を決めたりとさまざまな対策が寄せられた。
「管理職の怠慢」「親会社の意向……」 テレワークでも進まぬ残業対策の実態
一方、残業時間の管理や抑制につながる対策や工夫を実施していない企業は45.6%と半数近く存在する。その理由として最も多かったのは「テレワークとは関係なく、勤怠時間の上限時間管理に配慮している」や「裁量労働制を採用している上、企業文化として残業が少ないので、テレワークだからと取り扱いを考慮する必要がない」などの以前から残業時間抑制の対策を実施できているという声だった。
ただ、一部の回答者からは進まない残業対策に上長や経営層に対して憤慨する声も寄せられた。具体的なコメントを紹介したい。
「危機管理体制が機能していないため、テレワークで残業時間が増えたところで対策を検討する人がいない」「管理職が怠慢で残業時間を管理していないように思われる。深夜にちょっとした業務をしていても特に見られていないようだ」「親会社の意向で、残業時間を減らす取り組みはしていない」など、上長や経営層と現場の食い違いによって労働環境に改善が見られないといった不満が挙がった。
とはいえ「もともと不要な残業が多かったが、働く側の意識が変わりテレワークで自然淘汰(とうた)された」といった声もあった。業務に反映されないケースもあれば業務改善につながったケースもある。
急変する業務環境下で生まれた管理者と従業員の新たな溝
最後に、自社の勤怠管理方法についてテレワークに主眼を置いた課題や問題点を聞いたところ、まず目についたのはシステム面の課題だ。「複数の勤怠管理方法が併存しており統合してほしい」「静脈認証で勤怠打刻しているが認証精度に不満がある」「単一管理であり、ワークフローなどとの連携ができていない」など、システム仕様のせいで非生産的な作業が発生しているという不満が挙げられた。一方で「工場と事務所での管理の違い、拠点での管理の違いなど、会社内での統一が難しい」「勤務体系の種類が多く管理が煩雑になる」など管理者やシステム導入者である回答者からは“柔軟な働き方”への対応に混乱しているようだ。
その他にも管理者視点では、「スマートデバイスで在宅勤務中も自宅から打刻ができるが、実態の勤務状況との整合性を検証しにくい」「在宅勤務中の労務管理は難しい」など、テレワーク環境で部下の業務状況が見えづらい点が課題として挙げられた。個人の勤務態度や成果につながる行動、工夫といった仕事ぶりが見えづらいテレワークでは、双方のコミュニケーションが重要となる。
対して従業員側からは、テレワーク下での業務管理の在り方について見直しが必要との声もあった。「業績評価において成果主義が十分にできていない。残業問題よりもそちらの対策に着手すべき」「テレワーク中のアウトプット/成果の評価をどうするか明らかでない」など時間管理ではない新たな評価の仕組みを欲する意見もあった。
こうした現場と管理者の認識のズレは従業員個人の大きな不満となってしまう。コロナ禍で一気に環境を変化させたという背景ではあるが、むしろこれまで度々言及されてきた柔軟な働き方や勤務形態の多様化、それに伴う評価指標の見直しといった課題が浮き彫りになった。
COVID-19の影響や働き方改革関連法への対応を好機とし、もう一度、自社が目指す最適な働き方像を定義し、そのための制度設計やシステム導入などの環境整備を検討していくと良いだろう。
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