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「No密」組織の知識交換はどうなる? 動画コンテンツ基盤がもたらすメリットとは

テレワークを実践する企業の中には、オンライン会議、商談などの録画データの蓄積が増えているのではないだろうか。いま、この記録を新常態らしく活用する方法が提案されている。組織コミュニケーションはこれからどう変わるだろうか。

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「暗黙知が伝わらない距離感」をどう受け入れるか

 コロナ禍をきっかけに国内大手IT企業を中心に出社を前提としない働き方を選択しする企業が出てきた。いち早く全面的なテレワークに切り替えたGMOインターネットグループの他、テレワークを前提とした勤務形態を選択し、今後3年でオフィス面積を半減させると発表した富士通、ジョブ型雇用制度の導入と併せて在宅勤務を標準とする働き方を推進する日立がその代表だろう。

 テレワーク移行の対応の中で課題となりやすいものの一つが「暗黙知」の伝達手段だ。「分かりにくいことがらを口頭で説明してもらう」「作業する様子を横で見てもらう」といった、組織が「密」であることを前提としたコミュニケーションはテレワーク環境で再現することが難しい。ドキュメントやマニュアル類を整備すればある程度の情報共有は可能だろう。だがそれらの情報整理は従業員の負担を増やすことになる。また、細かな情報はドキュメントからも抜け落ちやすく「ちょっと聞けば済むこと」はドキュメントの中でも暗黙知のままになることもある。抜け漏れなく全て文字情報にしてしまえば情報量が膨大になり「何が重要か」が伝わりにくくなる弊害も起こり得る。この点で、Web会議などの映像を使ったコミュニケーションは個人の表情やインタラクティブなやりとりの中で情報を補完でき、表情や声色などの「熱量」を感じられるため、密になれない組織の連携手段として注目されている。

 従来、企業内の動画コンテンツは、対外向けのマーケティング素材や技能伝達、社内教育教材に使われ始めていたが、いずれも全社的に利用される性質のものではなかった。このため動画の取り扱いは部門や業務単位になるのが一般的で、部門横断で動画を活用するといった発想は生まれにくかった。営業教育向けの動画資料を製品開発部門が閲覧する、といったシナリオはあまり想定されてこなかった。

たまり続ける「議事録ついでに保管した動画」の使いどころ

 コロナ禍に起因する業務のオンライン化シフトをきっかけに、業務のさまざまな場面で発生するコミュニケーションは簡単に映像で記録できるようになった。皆さんもWeb会議を主催すれば「念のために」「議事録代わりに」と、録画データを保管しているのではないだろうか。

 社員受け入れの研修をオンラインで実施した企業は、次の入社手続きに向けて研修を録画して再利用するかもしれない。優秀なセールス担当の営業プレゼンテーションを記録して、教材として閲覧する企業もあるだろう。出張が難しくなった企業では、技術伝達のマニュアル代わりに映像解説を配信するかもしれない。テレワークやソーシャルディスタンスが当たり前になった現在、企業のさまざまな業務に「動画」が入り込んでいる。この「動画」をどう自社の資産として生かすかを考えたときに必要なのは、個別の業務支援ツールにおける映像コンテンツを一元的に取り扱える全社的な動画基盤だ。

 だが、ただ動画を置いたところで忙しい従業員がわざわざ見るとは限らない。知らない部署の関係がなさそうな動画となればなおさらだ。ここで、別のもう一つの工夫が必要になる。

密にならない組織の、人と知識と組織の関係はどうなるか

 2020年8月、システムインテグレーターとして日本企業のIT導入を支援してきたアシストが新たに「IoK構想」を打ち出した。IoKとは「Internet of Knowledge」(知のインターネット)のことを指す。アシストによればIoKはもともとセマンティックWebの研究で知られる大向一輝氏が提唱した概念だという。アシストはこのIoKを、組織がつながりにくい現状を変えるドライバーと位置付ける。その背景には何らかの形で人がつながり、知識、アイデア、体験などを共有することこそが、密を必要としない組織にとって重要な資産になる、との考えがある。同社は今後このIoKのコンセプトに即してさまざまな製品、ツールを展開する計画だ。そしてIoKの段階的な発展のファーストステップに位置付けられるのが「ナレッジシェア」だ。


アシストによるIoKの段階的進化のイメージ

 知のインターネットといわれてすぐ想起するのは「ナレッジマネジメントツール」ではないだろうか。ナレッジマネジメントの文脈では個人の知識を組織で共有して昇華するためのプロセスとして「SECIモデル」が提唱されてきた。

 SECIモデルは、共通体験による暗黙知の獲得や伝達(共同化)、暗黙知の形式知への変換(表出化)、形式知同士を組み合わせて新たな形式知を創出(連結化)、利用可能な形式知を基にした個人実践とその知識の体得(内面化)の4つのステップで構成される。ナレッジマネジメントはこの4つのステップを通じて個人や組織内の暗黙知を形式化して共有、組み合わせたり体験したりする中で組織全体で知識を深め、成長していくプロセスと定義される。ここで動画コンテンツも何らかの方法で形式知として探索できれば、ナレッジマネジメントの枠組みで活用できるようになる。そこで同社が目をつけたのは「Panopto」という動画配信プラットフォームだ。Panoptoは米国で2007年に創業したPanopto社が提供する動画配信プラットフォームだ。「Zoom」や「Skype」、「BlueJeans」などのWeb会議ツールと連携でき、ストリーミング配信や視聴データ分析などの機能を持つ。北米では企業の他、教育機関などでの利用も多い。アシストはこのPanoptoを、IoK構想の第1段として2020年8月3日から取り扱っている。

動画を探索させる仕組み

 IoK構想において、なぜPanoptoが多数ある動画プラットフォームの中から選ばれたのだろうか。ナレッジマネジメントの文脈に動画を組み込む場合、鍵を握るのは「情報をどう探索させるか」だ。制作者が任意のタグやキーワードを付与して登録することも考えられるが、資料やプレゼンテーションの一部を参照したい、といったときにこれではヒットしない可能性が高い。Panoptoは登録した動画コンテンツのプレゼンテーション資料をOCRで読み取り、音声データから文字を書き起こす機能を備える。これらの情報を元に、Panoptoにアップロードした動画には自動でインデックスが付けられる。動画内の音声も全てテキストとして格納されるため、資料の一部のコンテンツであってもテキスト検索にヒットする。対応言語は日本語、英語を含む21種類。今のところ汎用(汎用)辞書のみでの提供だが「将来的には企業ごとの辞書登録を可能にすべくPanopto開発陣に要請している」(アシストでPanoptoを担当する松山 晋ノ助氏)という。

 動画配信プラットフォームを軸に見れば「Brightcove Video Cloud」や「Vimeo」なども注目を集めるが、アシストはIoKwo軸に、Panoptoのナレッジマネジメントとの親和性を強みとして、日本企業への動画プラットフォーム導入を進める考えだ。


日本語のプレゼンテーション。日本語のプレゼンテーション動画でも高い精度で文字を認識できるという

Panoptoでのキーワード検索イメージ。複合語の検索にも対応する

 全社横断の動画基盤にテキスト付きの動画を配置しておけば、あらゆる部門の従業員が探索できるようになる。全く関係がないと思われるテーマの動画の中に、実は重要な議論が含まれていた、といった発見を促す効果も期待できるだろう。

 アシスト自身も、Panoptを全社導入しており、既に数千の動画を蓄積する。「テレワークが続く中、従業員数も多いため、直接会ったことがない同僚もいる。ナレッジとは別の視点だが、エンゲージメント強化に向けて自己紹介を動画で公開してもらったところ、『表情などを確認できてどんな人かを理解しやすくなった』『オンラインでの会話を進めやすくなった』という声が寄せられている。長期的なプロジェクトでは途中から人員を増やすこともある。途中参加メンバーがプロジェクトになじむには時間がかかることがあるが、過去の会議を視聴したり、関連するプレゼンテーション動画を探索したりして、メンバーの『熱量』を感じ取り、情報を深く理解できるため、モチベーション向上につながっているようだ」(松山氏)

 Panoptoは動画配信プラットフォームとしても一通りの機能を備えており、閲覧状況の分析や配信管理、動画編集や音声の修正、自動認識したテキストの修正なども全てPanopto上で処理できる。なおPanopto自体はオンプレミス版とクラウド版があるが、アシストでは基盤の負荷や運用を考慮して「Amazon Web Services」(AWS)を使って製品を提供する計画だ。まず2020年9月から数社に限定してトライアル参加企業を募る。

 

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