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ありがたいけどそうじゃない……“Excelのおせっかい”が引き起こしたトラブルとは:576th Lap

誤記入を自動的に直してくれるExcelの補助機能。ありがたい半面、「直さなくていい文字列まで直されてしまい、イライラした」という経験がある人も少なくないだろう。そんなExcelのおせっかい機能が、とある影響を与えているという。

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 ビジネスパーソンの多くが使用する「Microsoft Excel」。代表的な表計算ソフトとして基本機能が充実しているのはもちろん、ユーザーの表作成を手助けする補助機能も多く搭載する。ちょっとした誤記を訂正してくれて助かる半面、「余計なお世話だな……」と感じたことはないだろうか? そんなExcelの“おせっかい”が、科学者の研究結果にクリティカルな影響を与えたという。その詳細とはいったい――?

 Excelのおせっかいが大変な事態を招いていると報じたのは、テック系情報サイト「The Verge」による2020年8月6日の記事だ。

 記事によると、迷惑を被ったのは遺伝子学者だ。Excelが人間の遺伝子の名称を勝手に変更してしまうため、何度も訂正する必要があった。だが、労力を割けなくなり、もはやExcelが変更してしまった方の名称を正式名称にしてしまったという。

 記事では例として「MARCH1」が挙げられている。「MARCH1」は本来、正式名称「Membrane-Associated Ring Finger (C3HC4) 1, E3 Ubiquitin Protein Ligase」で、ヒトの遺伝子を意味する。この長い名称を論文などに省略して表記できるよう、ヒトゲノム命名法にのっとってMARCH1と略されることになっていた。

 ところがの略称MARCH1をExcelのセルに入力すると「1-Mar」と勝手に変換されてしまう。Excelの設定がデフォルトのままなら全てこう書き換えられてしまう。これは日付機能によるもので、日付のような文字列がセルに入力されると自動的に変換するというものだ。日本語圏であれば「1/2」が「1月2日」になるという経験をした人も多いだろう。

 こうしてExcelによって遺伝子シンボルで略されたヒトの遺伝子の表記が、研究者の意図しないうちに書き換えられている。2016年に発表された学会誌の調査によれば、遺伝子に関する3597本の論文のうち5分の1に、Excelによって勝手に変換されたと思われる表記ミスが存在したという。

 もちろん、Excelの設定で日付機能をオフにすることもできる。しかし他の研究者が、論文のデータをエクスポートして引用したとき、その研究者が日付機能をオフにしていないと結局日付に変更されてしまうこととなる。

 もはやExcelのおせっかいによるミスは避けられない。そう判断したのか、HUGO(Human Genome Organisation/ヒト遺伝子解析機構)のHGNC(HUGO Gene Nomenclature Committee/ヒトゲノム命名法委員会)は、2020年8月3日にヒトゲノム命名法についての新しいガイドラインを設定し「データの取り扱いや検索に影響を与える可能性のあるシンボル」について変更すると宣言した。

 新ガイドラインによれば、前述した「MARCH1」は「MARCHF1」と表記される。その他、ヒトの細胞内にあるタンパク質の一種「Septin1」の略称「SEPT1」は「SEPTIN1」ともはや省略されなくなってしまった。

 HGNCの担当者によれば、実はこの名称変更はガイドラインが発表される以前、ここ数年でじわじわと進んでいて、過去1年間だけでもすでに27種類が変更されていた。遺伝子名は容易に変更されるべきではないが、必要に応じて変更されることは珍しくないことだとしている。これまでも一般名詞と混同しやすい「CARS」が「CARS1」に、「WARS」が「WARS1」に、「MARS」が「MARS1」へと変更されたことがあり、その他にも差別用語に似た遺伝子名が変更されたこともある。

 HUGOはこの件についてMicrosoftにも相談したというが、ユーザー側で設定できる機能だったためか、特にリアクションはなかったという。実際のところ、日付機能を便利に感じているユーザーも少なくないことだろう。


上司X
上司X: 

Excelのおせっかいのおかげで、ヒトの遺伝子名が変わってしまった! という話だよ。


ブラックピット
ブラックピット: 

なんとも言えませんね……。


上司X
上司X: 

キミはまた「研究者の怠慢だ」とか言うんだろ?


ブラックピット
ブラックピット: 

おや、お察しで。自身の研究をせっかく発表するんですから、そんなExcelのおせっかいごときに惑わされていちゃ……。


上司X
上司X: 

引用でも変わっちゃうことがあるっていうんだ。研究者本人が望まないケースだってあるだろうよ。


ブラックピット
ブラックピット: 

ま、そうおっしゃるならそういうことにしておきましょう。


上司X
上司X: 

なんだキミ、自分はミスしないみたいなその自信は。ほれ、キミがExcelで作った書類のアチコチもExcelのワナにはまった形跡が多数見られるけど……?


ブラックピット
ブラックピット: 

まさかそんな! ウソでしょう?


上司X
上司X: 

いやホントに(笑)。ともかく日付機能以外にもオートフィルやオートコンプリートなどExcelにはおせっかいな機能はたくさんある。表計算のプロならそこはうまく使いこなすんだろうが、研究者たちはその面では不慣れなんだ。遺伝子学会がガイドラインを変えたのは賢明だと思う。しかしキミの場合のミスはいただけんから、なるはやで直してくれ。


川柳

ブラックピット(本名非公開)

ブラックピット

年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)

昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。

上司X(本名なぜか非公開)

上司X

年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)

中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。


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