請求書、契約書の電子化は何をもたらすのか? 導入事例で解説
紙の処理が少なくない基幹系業務を電子化することで、企業はどのような恩恵にあやかれるのだろうか。また、受発注者のどちらもが電子化を強く望むとも限らない。社外の関係先とどう連携し電子化を進めていけば良いのか。導入事例とともに解説する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で、企業はテレワークの必要性を痛感した。テレワーク環境での業務に不可欠なのが、業務基盤のデジタル化だ。特に、COVID-19による緊急事態宣言期間中に話題となった契約書の取り交わしといった紙の処理は、出社しない限り企業の外からは手の出しようがなかった。
もとより、テレワークに関係なく業務基盤のデジタル化は企業にとって避けては通れない道だ。財務会計システムをはじめとした基幹系業務は、長い年月をかけてデジタル化が進められ、改善に改善を重ねてきている状況だ。
しかし、請求書のやりとりなど社外の取引先と関わるフロント業務は、いまだに人海戦術で取り組む企業も少なくない。昔ながらの商習慣を引きずり、手作業と郵送での書面のやりとりに疑問を持たない企業は、今こそデジタル変革に取り組むべきだろう。
請求書や契約書といった社外と関係する紙業務のデジタル化は実際にどういった恩恵をもたらすのか、バックオフィス業務のデジタル化に特化した「BtoBプラットフォーム」シリーズを提供するインフォマートの大谷 恵太郎氏(営業企画部課長)に話を聞いた。BtoBプラットフォームシリーズの対象領域は、請求書業務、契約書業務にも広がった。2020年6月末時点で、製品全体の利用社数は44万社、2019年末の流通総額は実に11兆円を超えているという。
本稿は、「BtoBプラットフォーム請求書」「BtoBプラットフォーム契約書」のユーザー事例を基に、紙業務のデジタル化の実態を解説する。
ミスすれば信用問題に関わる請求書 企業ごとに違うシステムでも連携可能に
従来は企業間で大量の紙をやりとりしていた請求書。企業規模や業種によっては、発行も受け取りも膨大な量になった。請求ミスが起きると入金の遅れや会計業務の混乱を生み、対外的には企業の信頼にも関わる。
ご存じのように企業が発行する請求書のデザインはさまざまだ。だが、基本的に書かれてあることは、「〇〇の代金として□□円を請求します。△△日までに××に振り込んでください」といった内容で共通する。
「従来、請求書業務の企業間連携は、両社の販売管理システム(会計ソフト)が同じものを使っていなければ成り立ちませんでした。インフォマートが個別の書式を吸収して“ハブ”の機能を果たすことで請求書の管理業務をシンプルにし、国内の主要な会計ソフトとの連携が可能となりました。一部ではAPIによる連携も始めました。全日空、野村證券、サイバーエージェントなど、業種業態にかかわらず幅広く利用されています」(大谷氏)
電子化によるメリットは正確性の向上だけでなく、コスト削減効果も著しい。請求書関連のコストというと、まず受け取り側における支払いの振込手数料などが思い浮かぶ。しかし大谷氏は「紙の請求書の場合、実際は受け取ってからの人的なコストが非常に大きい。当社のモデルケースで150件の処理をした場合、1件当たりの処理コストは紙の場合と比べて約77%も削減できる」と話す。
事例で解説 電子化によるメリットとは?
同製品のユーザーである野村證券は、年間2.5万枚の紙の請求書を削減し、人が確認するプロセスをなくしたことで数千万円のコストを削減したという。また請求書の電子化によって月次決算の早期化も実現した。
コカコーラ・ボトラーズジャパンは、請求書の発行数が月間約15万通に達し、膨大な人手が必要だった。電子化によって現時点で数千万円、将来的には年間1億円以上のコスト削減を見込むという。
「電子化しないで」紙を欲する顧客も見捨てないペーパーレス化
ただ、システム上で発行が終わっていても「郵送で」という顧客が一部存在する。このようなニーズに対しては、紙の請求書の発行代行サービスをオプションで提供する。
発行側にとっても印刷コスト、郵送コスト、それに伴う手作業の人件費が大幅に減り、トータルで約67%のコストが削減できる。インフォマートの電子請求書の発行は1通60円なので、単純に郵送代だけと比べても安い。
請求書を受け取る側も、請求内容はそのまま会計システム、ファームバンキングに接続されるので処理ミスが起きにくくなる。「大企業の場合、受け取る請求書枚数が非常に多いため、バラバラのフォーマットでは後から確認するのが厳しい。これを電子化すれば、検索も瞬時にできるようになります」(大谷氏)。
契約書の電子化事例 サイバーエージェント、
「BtoBプラットフォーム契約書」は、2018年から販売している比較的新しい製品だ。インフォマートとしてブロックチェーンをはじめて採用し、契約情報のセキュリティを高めた。契約を取り交わす相手企業にもこのプラットフォームを入れてもらう必要があるが、両社で同じ基盤を用いることで画面上で契約締結が完結する。
文書の形式に決められたフォーマットはない。例えば「Microsoft Word」で作った契約書のひな型をプラットフォームにアップロードすると、自動的にPDF化されて契約先の企業に発行される。受け取った側は社内で内容を確認し、修正の必要があれば差し戻す。そのプロセスを両社で回していく。社内のワークフローと作成中の契約書の受け渡しがこのプラットフォームの中でできるため、データが外部に流出するリスクを低減できる。また社内の部署や役職ごとにアクセス制限をかけることもできるので、機密事項が関係者以外に知られないように統制をかけることができる。
本システムのもう1つの特徴が、文書の保管機能だ。電子データだけでなく、紙の契約書もPDF化して契約書のプラットフォーム内で保管できる点だ。
ただし、紙をスキャンしただけでは何の契約書か分からない。表計算ソフトで管理台帳を作っていれば、それをアップロードして、スキャンデータとひも付けることでインデックスが完成する。紙の契約書が大量の場合は、協力会社のBPOサービスも利用できる。
サイバーエージェントは、2018年にBtoBプラットフォーム契約書を本社部門に導入した。段階的に利用範囲を拡大する方針で、2019年にグループ企業7社で導入が始まり、2020年4月には30社、同年10月までには50社が採用する予定だ。 サイバーエージェントは、契約書事務のコスト削減につながることはもちろん、契約と発注、請求などの業務を1つのシステムでつなぐことで管理の連携とガバナンス強化を狙っている。
また、建設コンサルタントの玉野総合コンサルタントもユーザーだ。同社は民間、公共事業のコンサルティングを提供する企業で、事務担当者は工事請負などの契約業務に毎日5時間も費やしていた。BtoBプラットフォーム契約書の導入で、契約事務の作業を半減、保管する書類も半分にすることができた。契約書の承認ワークフローも導入し、上司が外出しているときにも内容を確認できるため、契約完了までの時間も短縮できたという。
コロナと民法改正で契約書の電子化ニーズが沸騰
コロナ禍のテレワーク業務の障壁と言われたハンコに関して、政府は契約書の押印を不要とすることに前向きな姿勢を示した。また2020年4月に民法が120年ぶりに改正され、これを機に既存の契約内容を見直して交わし直す「再契約」の動きが出てきている。再契約する際に紙の契約書では印紙代がかかるので、企業間で電子契約への移行を模索する動きが広がっている。これらの需要が重なり、電子契約マーケットはかつてない追い風が吹いている。
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