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「脱・アナログ」したい中小企業への新補助金制度はどこまで使えるか?

苦境の今だからこそ、ITを積極的に活用して1人当たりの生み出す価値を高め、組織として十分な収益を確保できる仕組み作りが必要だという。政府は中小企業に向けて、補助金による新たな支援策を提示する。

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の打撃を受けて、中小企業は苦境に立たされている。国内企業の約99%を占め、廃業件数が右肩上がりで増加傾向にあるという中小企業は、平時でさえ厳しい経営状況にある。そのような中で追い打ちを掛けるようにコロナ禍が訪れ、状況は一層深刻になった。

 経済産業省(経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長)の浅野大介氏は、コロナ禍というピンチをチャンスに変えるためには、中小企業もデジタルトランスフォーメーション(DX)を人ごとにせず、積極的に向き合っていかなければならないと言う。

 コロナ禍で情勢が厳しい中小企業がいかにしてDXを実現するか、そしてそれに向けた政府の支援策とは。

本稿は、中小企業の働き方改革推進担当者に向けた「UCHIDAビジネスITオンラインセミナー」(主催:内田洋行)における経済産業省の浅野氏による講演「コロナ禍における中小企業のDX対策について」を基に、編集部で再構成した。


これから問われるのは「1人当たりのGDP」の向上

 浅野氏はDXを進めていく上で、まず意識を向けるべきは労働生産性だと言う。製造業と建設業を除く広義のサービス産業が国内の名目GDP(国内総生産)の約7割を占めるが、この領域の労働生産性が著しく低いという。


各業種の名目GDPに占める割合(2018)(資料提供:内田洋行)

 なぜ労働生産性に着目する必要があるのか。この問いに対して、浅野氏は「今までは国のGDPの向上という目標を掲げて突き進んできましたが、これから問われるのは、1人がどれだけの価値を生み出すのか、つまり『1人当たりのGDP』の向上です。それには、1人当たりの労働生産性の向上に向けた経済政策や企業経営が求められます」と返す。

 特に、宿泊や飲食、生活関連、娯楽、教育、学習支援、医療、介護、保育などの業種は労働生産性が低く、報酬の伸びが期待されない現場で働いている人も少なくないという。浅野氏は「今のままでは日本の経済は成り立たなくなります。1人当たりが生み出す価値を高めることで組織が十分な収益を確保し、従業員が労働の対価をしっかりと得られる仕組みを作らなければ、明るい未来はありません。国としてはそれに向けた政策を講じ、企業は今の経営を変えなければなりません」と語る。

コロナ禍の中小企業のDX、政府による2つの支援策

 労働生産性の向上にはITによる「効率化・集約化」と「付加価値の向上」の両立が重要だという。しかし、コロナ禍によって経営状況が厳しい中小企業にとっては、そこまで経済的な余裕は残されていないだろう。

 そこで、コロナ禍における中小企業のIT活用の促進を目的に、政府は補助金による新たな2つの支援策を提示した。ここからは、その内容を見ていく。

(1)COVID-19対策としてIT導入補助金に新枠を創設

 効率化・集約化には「IT導入補助金」の強化で支援する。IT導入補助金とは、中小企業・小規模事業者を対象に、ITツールの導入にかかる費用の一部を国が補助する制度だ。事前に事務局の審査を受けてIT導入補助金のWebサイトに登録されたソフトウェアおよびサービスなどの1年分の利用料に対して補助が受けられる。


IT導入補助金のスキーム (資料提供:内田洋行)

 補助率は枠によって定まっており、新型コロナウイルス感染症が国内に拡大する前は、補助率が2分の1、補助額が30万〜150万円未満の「A類型」と、150万〜450万円の「B類型」のみだった。それに加えて、COVID-19対策として補助率を3分の2に引き上げた「C(甲)類型」と4分の3の「C(乙)類型」「C(丙)類型」を新設した。C類型の補助額は30万〜450万円となる。


新設された特別枠(C類型)の補助額と補助率(資料提供:内田洋行)

 「C(甲)類型」はサプライチェーンの毀損(きそん)への対応、「C(乙)類型」は非対面型ビジネスモデルへの転換、「C(丙)類型」はテレワーク環境の整備を目的としたもので、それぞれで申請要件が異なる。

 またC類型には今まで対象外とされていたハードウェアへの補助が、「ハードウェアレンタル費用」に限り対象に含まれるようになった。PCやプリンタなどのハードウェアは、購入後の転売といった不正も起こり得るため今までは補助対象外だったが、返却の必要があるレンタルという利用形態であればそうした不正も起こりにくいと考え、対象に含められることになった。

(2)「共創型サービス・IT連携支援事業」の開始

 付加価値の向上には、「共創型サービス・IT連携支援事業」で支援する。浅野氏によれば、IT導入補助金だけでは解決できない面もあるという。

 今や、業種や業態、プロセス別に多種多様なITツールやサービスが存在していて、仕様や連携性などはそれぞれで異なる。導入したはいいが「現場の課題にフィットしていない」「UI/UXにおいて、利用者目線で設計されていない」などといった導入後の新たな課題が発生する場合もある。


現場にマッチしないITツールやシステムが生まれる背景(資料提供:内田洋行)

 こうした課題が生まれる背景として、現場の実態を知り、利用者が何を求めているのかをくみ取りながら開発できていないことが原因だという。これを解決するために、サービス産業とITベンダーがタッグを組んで現場が求めるITツールを共創する「共創型サービス・IT連携支援事業」を今後進めるという。


現状の開発手法と共創型による開発手法の違い(資料提供:内田洋行)

 流れとしては、まず中小企業とITベンダーがコンソーシアムを結成し、中小企業は既存のITツールを導入して使い勝手を見る。ITベンダーは現場の意見をくみ取りながら改善を重ね、最終的には既存のツールをベースとした新しい汎用(はんよう)的なパッケージを作り出す。あくまでも、特定の事業者に特化したものではなく、汎用性のあるツールを生み出すことが目的だという。

 「事業計画の策定」「ITツール導入費」「要件定義」「設計」「運用テスト」にかかる費用が補助対象であり、「プログラム開発」の工程は補助対象外となる。なお、詳細な日程は未定だが、2020年9月下旬以降に公募を開始する予定だという。


助成対象となる対象経費、工程(資料提供:内田洋行)

 最後に、浅野氏は「日本の課題は労働生産性を上げることです。政府としても中小企業の皆さまが得られる報酬をどれだけ上げられるか、また国民の皆さまにどれだけ分配できるかに意識を置いて、注力していきたいと考えています。経営者の皆さまも労働生産性の向上という課題にぜひ意識を向けていただきたいと考えます」と締めた。

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