2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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全国の自治体に先駆けてRPAを導入し、現在20以上の部署でRPAによる業務の自動化を実現している茨城県つくば市。RPAだけでなくAIを使った議事録の自動作成や電話応対などの試験利用を行い、職員の負担軽減と市民サービス向上を目指していることを前回の記事で紹介した。こういった成果を参考にしたいと、年間70〜80件もの相談が全国の自治体から寄せられている。
つくば市では、RPA導入の早い段階から外部の業者ではなく現場の職員によって開発が行われているのが特徴だ。通常業務をこなす中で開発の時間を確保し、職員のモチベーションと技術を維持する秘訣は何か。内製化が難しいとされる理由と内製化に向けた現場の巻き込み方について、前回同様つくば市総務部ワークライフバランス推進課業務改善推進係係長の三輪修平氏に話を聞いた。
■記事内目次
- RPA開発を途中から内製化させるには、職員の動機付けが課題
- 自由記述式のアンケートを取って「嫌だと思う仕事」を書いてもらう
- 開発担当者は、定型業務に時間を取られている若い職員やゲーム好きな職員
- 現場は「お客様」。推進側は「業者」の役割に徹する
RPA開発を途中から内製化させるには、職員の動機付けが課題
−外部の業者にRPA開発をサポートしてもらっているものの、内製化に切り替えることを検討しているという話をよく聞きます。このことについてどう思われますか。
通常業務を行いながら、RPAの開発技術を習得するための時間を確保するのは簡単ではありません。そのため多くの自治体が外部の業者に開発を委託しているようです。自治体の規模や自動化する業務の種類によっては外部に委託した方が合理的な場合もありますが、つくば市程度の規模の自治体が機動性を重視してRPAを利用すると、エラーが発生した時や改修時、新たなシナリオが必要になった時にその都度業者に依頼することになって時間と労力がかかってしまい、予算面でも大きな負担になります。
全国の自治体から相談を受ける中で感じるのは、外部委託とのバランスを取りつつ内製化を進めるのに苦労している自治体が多いということです。そして内製化への移行のカギとなるのは「現場がやる気を出す」ことだと思っています。
ある自治体にはRPAの導入に強い思いを持った担当者がいて、号令をかけてさまざまなことを現場にやらせていました。今は他の課が引き取っているのですが、当時からほとんど進んでいないようです。これは現場の職員が嫌になってしまっていることが原因です。ただでさえ通常業務で忙しいところにRPAを押しつけても、新たな仕事が増えると思ってしまうだけで、管理部門が熱心に進めようとすればするほど逆効果になってしまいます。
内製化を成功させるためには、現場が自分事だと思ってRPAに関わることが大切です。そうすることでその後の継続性も違ってきます。現場と管理部門が足並みを揃える、あるいは行革部門を含めて三位一体となって推進していくことが重要であり、どこかが突出したりどこかが足を引っ張っている自治体はなかなか内製化が進んでいない印象です。
自由記述式のアンケートを取って「嫌だと思う仕事」を書いてもらう
−つくば市は導入の早い段階から内製化に成功したとお聞きしています。現場とどのようなコミュニケーションを取ったのですか。
私たちは、自由記述式のアンケートに「膨大な業務量により時間がかかる業務」など嫌な仕事を自由に書いてもらうところから始めました。自治体では通常アンケートを取る場合には課に文書を提出し、回答を待ってから課長までの決裁を得る必要があるのですが、そうすると課長まで上がった段階でアンケートがきれいな形にまとめられてしまうことがあります。きれいにまとめられた回答からは現場が嫌だと思っていることが具体的には分かりません。
つくば市で利用しているグループウェアにはアンケート機能が付いていて、職員に直接アンケートを取ることができます。その機能を使って「嫌だと思う仕事」について自由に回答してもらいました。RPAという言葉は出さず、RPA推進のためのアンケートだと意識させないようにしました。
このアンケートの工夫は、RPAという言葉をあえて出さなかった点です。RPAは全ての工程を自動化するものだと誤解されることが多く、それができないとRPAに適していないと判断されてしまい、さまざまなアイデアが出てこないことを危惧しました。予想どおり、RPAでは解決できない議事録起こしや封入封緘作業などの課題もありましたが、RPAで一部でも解決できそうな課題が見えてきました。
それらをRPAを使って解決していきましょう、と現場に提案していくことで、RPAは自分たちが嫌だと思っていることを解決してくれるものだという印象を持つようになります。上がってきた業務の中から簡単なものを選んで自動化し、実際に動いているところを見て感動すると、自分たちで他の業務も自動化してみたくなるようです。
開発担当者は、定型業務に時間を取られている若い職員やゲーム好きな職員
−嫌だと思っている仕事がRPAで解決できるとなれば、積極的に活用しようという気になりますね。しかし業務が忙しい中で勉強と開発を継続するには、モチベーションを維持するための工夫が必要になりそうです。
最初は開発できない、開発の方法も分からない状態ですので、推進側がある意味外部の業者のような役割を果たすことになります。まずは現場から自動化して欲しい業務を受注し、実際に自動化してみせるところから始まります。併せて開発のための研修を行い、職員が自分で修正できるようになるのが最初のフェーズです。この頃は少しでもできるようになれば褒めて伸ばすようにして、RPAに触れるのは楽しいと思ってもらえるように心がけています。
次は課内の職員たちがいるところで同じことを行います。最初に自動化する業務は汎用性の高いものである場合が多く、そうすると当然他の業務にも応用が可能です。自然と似たような業務を自動化したいという意見が出てくるようになり、そうなったら職員たちに自分で開発をしてもらうことにしています。最初は手取り足取り開発のサポートをしつつ、彼らが自分で進めていけるような体制に移していくのが次のフェーズです。
自走化に向けて移行中の課があれば、補助輪付きで走っている課、まだよちよち歩きの課もあります。それぞれの課のペースにあわせて少しずつ育てていっているところです。
−開発はどういった人が担当するのでしょうか。担当者を決めるポイントがあれば教えてください。
現場の係長以下の若い職員は、エクセルの転記や情報のチェックのような定型業務に時間を取られ、クリエイティブな業務や市民サービスといった業務になかなか時間を割けないでいます。彼らには残業を減らし、創造的な業務に携わりたいというモチベーションがあるので、RPAに対する理解は早いと感じています。
また、変わった視点としては、ゲームが好きな職員は楽しみながら取り組んでくれることが多いですね。業務が自動化される様子を見て、自分なりに工夫してみたくなるようです。ゲームが好きな職員にRPAで自動化した様子を見てもらうと興味を示してくれるのではないでしょうか。
現場は「お客様」。推進側は「業者」の役割に徹する
−内製化を実現するためには、最初にRPAに対して良い印象を持ってもらうことが大事なのですね。推進側は他にどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。
ぜひお願いしたいのが、現場の考えに耳を傾けていただきたいということです。自治体の職員はずっと現場を回ってきて、情報システム業務一筋、のような方もいらっしゃいます。業務改善をするのであればBPRをやればいいじゃないかと思う気持ちも分かるのですが、業務改善には現場の担当者の視点がとても重要です。
私たちが勧めているのは推進側が業者の役割に徹することです。自分たちが外部の業者だと考えれば、RPAを現場にやらせようという考えにはならないでしょう。さまざまなサンプルを作って渡したり、丁寧に説明をしたりして、使っていただくためにいろいろな工夫をしますよね。内部だと思うとどうしても通知を出して「やらせる」という意識になりがちなので、その点を変えるだけでも相当変わってくるだろうと思っています。
(取材・文/元廣妙子 デザイン/Lifebook 構成/RPA BANK編集部)
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