「例の崖」まであと4年、中小企業が今からできるDXとは
コロナ禍が、これまでなかなか進まなかったDXの状況を変えるきっかけの1つになっている。大企業を中心にペーパーレス化や脱はんこが本格化する中で、IT投資やデジタル化で遅れを取ってきた中小企業は今、何をするべきだろうか。
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」から、DX(デジタルトランスフォーメーション)は日本企業の生き残り策として注目されている。しかし、DXの意味する「デジタルを通じた変革」を捉えきれず、多くの企業が「とはいえ何をすれば良いのか分からない」と悩んでいる。
2020年11月26日、経理業務の自動化支援サービスを提供するロボットペイメントが主催した「中小企業向けDX入門」セミナーの中で、同社の藤田豪人氏(フィナンシャルクラウド事業部長 執行役員)とクラウドERPの企画と開発、サービス提供を手掛けるキャム 社長の下川良彦氏が、コロナ禍における中小企業のDXを語った。
中小企業にとってDXがひとごとではなくなった経緯とこれまで変革を遂げられなかった理由は何か。どこから始めて、何をゴールとするべきだろうか。
DXで設定するべきスタートとゴールとは
下川氏によれば、DXの意味する「デジタルを通じた変革」の必要性が決定的に認知されたきっかけはコロナ禍だった。2018年からデータ活用やDXの必要性は知られていたが、コロナ禍によって「いよいよ、やらなければならない状況に追い込まれた」(下川氏)という。
しかし中小企業にとっては、大企業のような大掛かりなDXはハードルが高い。藤田氏によれば、中小企業のDXにはまず「スタートとゴールの設定が必要だ」という。何をスタートとし、何をゴールとするべきかについて、下川氏は以下の例を挙げた。
スタート:社内で明確な合意を取ること
DXは広範囲にわたる変革となるため、対象範囲を広げようと思えばいくらでも広がってしまう。そのため「散らかってしまって進まない」「部門間で情報の共有不足が発生してDXが止まってしまう」などの失敗が起きる。それを防ぐにはDXの実施について社内合意を取り、プロジェクトチームを作って権限を持たせる必要がある。
ゴール:人間にしかできない仕事が残ること
例えば一時期、テレワークの定着によってオフィスが不要になるのではないかという予測があった。しかし現実として、オフラインのコミュニケーションを丸ごとオンラインに置き換えるのは難しいことも分かりつつある。
それと同様に、今われわれが人間にしかできない仕事だと思っているものが、本当に自動化に不適合だとは限らない。また、自動化できる仕事でも「人間らしさ」が付加価値となる場合もある。人間にしかできない仕事が残ってビジネスの付加価値となる状態は、ゴールのイメージになり得る。
DXは何から始めるべきか、失敗パターンとは
中小企業にありがちなのが、業務のあちこちに古い手法が残ってデジタル化を難しくしている例だ。下川氏は、それらの洗い出しがDXのスタートになると述べる。
「紙にプリントアウトする業務や『Microsoft Excel』の手入力作業、FAX、電話といった業務を持ち寄るだけで、課題は見えてくる」(同氏)
それらの課題に取り組む際は、企業上層部による優先順位付けが必要になるという。DXは広範囲にわたるため、現場部門に任せてしまうと現状の業務に追われて変革に手が回らないためだ。
同様に、サプライチェーンマネジメントにおけるDXは上流工程から実施するべきだとも強調する。
「上流工程で紙をなくせば、下流工程でもなくなる」(同氏)
一方で、DXのよくある失敗事例「散らかってしまう」ケースも、企業上層部から始まりやすいという。変革に巻き込む範囲が途中で変わったり、やりたいことが増えた経営者に逆らえず、現場が疲弊してしまったりするためだ。下川氏はそれらの対策として、DXのプロジェクトチームにITベンダーが参加することを提案する。
「従業員から経営者への進言が心理的に難しいこともある。そのような場合にベンダーの立場をうまく利用してほしい」(同氏)
中小企業のDXとクラウドERPとの親和性
前述したようにDXは広範囲にわたるため、一気に大規模に実施しようとすると「散らかって」しまう。下川氏は、プロジェクト開始時点で設定したゴールへの進捗(しんちょく)をフェーズごとに区切り、一部の業務から新しい仕組みを稼働させていく手法でDXの散逸を防げると語る。
「スモールスタートができるという点で、クラウドシステムとDXの相性は良い。従来型の、オンプレミスのERPは大企業だけが導入するものという印象があるかもしれない。しかしクラウドERPは、中小企業にこそ必要なものではないか。クラウドERPをDXのハブとして、適した業務系サービスを適宜導入していく方法は良いだろう」(同氏)
下川氏は最後に、DXのプロジェクトメンバー選定と経営者の権限委譲の重要性について強調した。
「さまざまな部門の人員が参加するべきだが、やる気の強いメンバーのアサインが不可欠だ。また、経営者がしっかりと権限を委譲する必要がある」
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