「顔が見たい」はハラスメントか? ツールで変わる常識とマナー
キーマンズネット会員866人を対象に「従業員コミュニケーション」の状況を調査した。コロナ禍で大きく代わったコミュニケーションの在り方に、企業はどう対応しているのか。混乱期ならではの、コンプライアンスやハラスメントに関する事例も寄せられた。
キーマンズネット編集部は2021年に注目すべきテーマとして「セキュリティ」「SaaS」「テレワークインフラ」「従業員コミュニケーション」「オフィス」「デジタルスキル」「人事制度」の7つのトピックスを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2020年11月10日〜12月11日、有効回答数866件)。企業における2021年のIT投資意向と併せて調査結果を全8回でお届けする。
第4回のテーマは、組織内の「従業員コミュニケーション」だ。
調査サマリー
- まだまだ根強い「電話」文化、公式ツールと非公式ツールにすみ分け
- 「顔を見せて」がハラスメント問題に? IT以外のリテラシーにも個人差
- 「混乱期の終わり」の傾向も
まだまだ根強い「電話」文化、公式ツールと非公式ツールにすみ分け
まず、社内で公式に利用しているコミュニケーションツールと非公式で従業員同が利用しているツールを聞いたところ、公式に利用しているツールで多かったのは「電話(55.3%)」と「Microsoft Teams(54.2%)」「Zoom(51.4%)」だった。非公式に従業員が利用しているツールには「電話(54.8%)」や「LINE(44.1%)」「個人メール(31.6%)」「SMS(28.8%)」が目立った。
電話でのコミュニケーションは、公式と非公式の利用が共に50%を超えている。フリーコメントでは「記録が残らないため使いたくない」という声と「電話より便利なものがない」という声が共に寄せられ、従来型の手段が根強く残っている状況が見える。「従業員個人の携帯電話端末を使っている」などのBYODに関する声に関連すると思われるのが「LINE」で、非公式で使われている割合が高い。LINEに関するフリーコメントでは「業務利用したくない」という声と「企業のルールで利用できない」という声が共に寄せられた。
「Zoom、Teams、その他」の違いは? 名指しで聞いた「ここが不満」
公式なツールとしてシェアの高かったMicrosoft TeamsやZoomと競合する製品には「Skype for Business(19.6%)」や「Slack(13.9%)」「Google Meet(10.9%)」がある。これらとシェア上位ツールとの違いはどこにあるのか。そこで、利用ツールに関する不満や課題を募ったところ、具体的なツール名を挙げた上で以下のようなコメントが寄せられた。
- 検索機能がない、流行機能への対応が遅い(Google Meet)
- 音割れやハウリングが起きやすい、Zoomより通話品質が落ちる(Skype for Busines)
- 相手のリアクションを通知する機能がないため、いちいち確認しに行く必要があり不便(Chatwork)
- 公式に認められているが、LINEほどUIが使いやすくない(Wow Talk)
- 情報を見落としやすいため、意見交換には向いていない(Eメール)
- 複数人が同時に発言すると音声が途切れる(Zoom)
- 全体的に操作性が悪い(Microsoft Teams)
ツールそのものへの課題感とは別に、新しいツールを導入することへの抵抗や現場任せになっている状況も目立つ。以下のコメントからは、組織的な判断がされないまま現場が目の前の状況にどうにか対応しようとしている様子が見て取れた。
- 問題の多い自社開発のツールを使い続けているが、新しいツールに文句をつけるだけで改善も新規導入もされない
- 社内の標準ツールとエンジニアが使うツールが違う
- 公式なツールとして全社的に導入してほしいが、利用の判断が個人任せになっている
- ツールが多く、どれが公式に認められているものか分からない。
「顔を見せて」はハラスメントか? IT以外のリテラシーにも個人差
現場が目の前の状況に対応しようとすると、どうしても非公式のデバイスやツールが使われてしまう。フリーコメントで募った「従業員コミュニケーションにおけるトラブル例」では、従業員が私的なリソースを業務に割くことで、プライベートと業務の線引きが曖昧になっているという声が寄せられた。
- チャットは社内で温度差があり、あまり利用されていない。多数のチームが業務連絡に個人のLINEを使用している
- ツールの費用を会社が負担しないため、個人で契約している
公私の切り分けが曖昧になると、コミュニケーションの在り方についての認識も個人差が大きくなる。それがトラブルの種になったり、ハラスメントの事例になったりというエピソードもあった。
顔出し賛成派? 反対派?
コメントで対立構造が浮かび上がったのが、Web会議におけるカメラのオン/オフ問題、つまり「顔出し」をするべきか否かだ。賛成派の意見には、なるべく対面でのコミュニケーションを再現したいという思いが見える。
- 顔の表情や言葉の量など、対面コミュニケーションよりも情報量が少ないせいか、いさかいが起きやすい
- チャットでのやり取りは、書き方に気を付けないと相手に不快な思いをさせやすい
- 対面コミュニケーション頻度が少なく、チームワークの低下や帰属意識が低下する
一方で顔出し反対派の意見には、新しいコミュニケーション手段に旧来の価値観を持ち込みたくないという思いが見える。
- 顔出しをする意味がわからない。以前から海外とのやりとりでオンラインミーティングの経験はあったが、顔出しは皆無だった
- カメラが非常に苦手でオンにしたくないが、相手からカメラをオンにするよう迫られる
賛成派と反対派の意見の相違が、コンプライアンスやハラスメントに関する問題として顕在化している例もあった。
- 業務時間外の連絡が増加した
- 上司がプライベートに首を突っ込んでくる
- 女性メンバーに対してカメラ映像をオンにするよう求め、問題になった
さらに、指示系統や業務と私事の切り分けが曖昧になり、「派遣社員への直接指示」などのB2Bのコンプライアンスに関する問題に発展したという声もあった。
「混乱期の終わり」の傾向も
今回のアンケートからは、2020年のコロナ禍によって急激にコミュニケーションの在り方が変わり、それに対応しようと組織や個人が模索している様子が見える。まだ課題は残しつつも、「最初の頃はプロジェクトごと、グループごとに違うツールを使うなど混乱があったが、現在はMicrosoft Teamsに統一されつつある」など、企業なりの答えを見つけた例もあった。
従業員と非対面でコミュニケーションを取る割合をおおよその感覚で聞いたところ、34.6%が「51%以上」と回答している。
コロナ禍の初期段階からリモートコミュニケーションを「恒常的な変化」として取り組んできた組織と「一時的な避難策」として取り組んでこなかった組織との違いは、2021年の組織の命運を分けるかもしれない。
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