リモートビジネスの課題は人事業務……採用、教育、評価の「脱レガシー」企業の対応に差
コロナ禍以前からテレワークを導入していても人材の採用や教育、人事評価のリモート化を想定していなかった企業もあれば、従来から遠方との面接をWeb会議ツールで実施していた企業もある。人事業務のニューノーマル対応がどの程度進んだのかを調査した。
キーマンズネット編集部は2021年に注目すべきトピックスとして「セキュリティ」「SaaS」「テレワークインフラ」「従業員コミュニケーション」「オフィス」「デジタルスキル」「人事制度」の7つを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2020年11月10日〜12月11日、有効回答数866件)。企業における2021年のIT投資意向と併せて調査結果を全8回でお届けする。
第7回のテーマは、「人事制度」だ。
調査サマリー
- コロナ渦中の採用は「積極的対応」と「我慢」で二分
- フローの見直しよりも「従来手法の代替」の模索
- テレワーク時代の人事評価にも「上司の好み」
コロナ禍中の採用活動は「攻め」と「守り」に二分
2020年は世界中がコロナ禍に振り回された年といえる。日本の都市圏においては、働き方改革や訪日観光客対応のために導入を進めていたテレワークを活用できた企業と、テレワークを想定していなかったために「決死の出社」で乗り切る企業で対応が分かれた。
一方で人材の採用や教育、昇進昇格といった仕組みのデジタル化は、コロナ禍で初めて顕在化した課題といえる。通常のビジネスではなく、人材採用や教育の非対面化に対応できた企業はどの程度いたのか。
そこで、まず2020年時点で採用フローのオンライン化がどの程度進んでいたかを聞いた(図1)。
コロナ禍以前からオンライン採用に対応していたのか、あるいはコロナ禍をきっかけに対応したのか、全フローをオンライン化したのか一部のフローのみ対応したのかなどに分けて回答を募ったところ、45.6%が「コロナ以降に全部もしくは一部の採用フローをオンライン化した」と回答した。
一方、完全にオフラインのみで採用活動をした企業(26.8%)と採用活動をしなかった企業(9.7%)は合わせて36.5%となり、積極的に人材採用フローを見直した「攻め」の企業と、従来通りの採用活動を続けるか、採用活動そのものをしない「守り」の企業に分かれた。
一言で「オンライン採用活動」といっても、手段や利用ツールは多岐にわたる。そこで、具体的にどのようなツールやシステムを利用したのかを聞いた(図2)。
回答の中で最も多かったのが、「『Zoom』などWeb会議ツールを面接に利用している」(51.7%)だった。
採用管理ツールの導入率は全般的に低かった。「新しくSaaS型の採用管理ツールを導入した」(1.4%)と「以前からSaaS型の採用管理ツールを利用している」(6.5%)、「オンプレミスの採用管理ツールを利用している」(7.2%)、「Web面接専用のツールを導入した」(6.9%)と、いずれも1割に満たなかった。
「その他」と回答した33.8%に具体的な内容を聞いたところ、コメントの中で最も多かったのが「分からない」だった。採用活動に関わっていなかった例や採用活動そのものがなかった例など複数のケースが含まれるが、ビジネスのリモート化によって組織の現状が見えにくくなっている状況が見て取れる。
研修? OJT? 業務参加までのフローは
続いて、採用した人材が業務に参加するまでの教育がどの程度までオンライン化できているかを調査した。まずコロナ禍以降、新入社員に対してどのように業務を定着させたかを聞いたところ、最も多かったのが「出社してオフラインで研修/教育プログラムを実施」(31.6%)だった(図3)。
「新入社員」が2020年4月の新卒社員の場合、新人研修プログラムを急きょオンライン化するのは困難だった可能性がある。一方「テレワークで業務を遂行しながら適宜オンラインで面談を実施」(23.6%)と「体系立った研修/教育プログラムをオンライン向けに新たに作成した」(13.2%)を合わせた36.8%が、何らかのニューノーマル対応を実施していた。
また、少数派だが「オンライン向けの体系立った研修/教育プログラムがある」企業は11.1%あった。「その他」と回答した20.6%からは、以下のようなコメントが寄せられた。
- 研修はなく、出社してOJTをしている
- その場しのぎのオンライン教育を受講させている
- 新入社員のテレワークを許可していないため出社させて、教育担当が出社かオンラインで教育をしている
- オフラインの研修を無理やりオンラインシフトしたため効果が下がっている
コメントで多かったのが「新入社員はテレワークの対象外」という声だ。新人教育で「見て覚えさせる」ことを重視していた場合、リモートで教育するのは困難になる。オフラインで実施していた研修をそのままオンライン化して、従来のような効果が得られていないケースもあった。
話題の「ジョブ型雇用制度」の定着度は「年功序列」と同等
非対面でのコミュニケーションが増えると課題になるのが「人事評価」だ。出勤して対面で仕事をしていれば自然と見えていた「働きぶり」が不可視化した中で、評価制度はどのように変わったのか。
人事評価制度について複数回答を募ったところ、最も多い回答は「数値化して業績を評価/管理している」(43.2%)だった。いわゆる「MBO」や「KPI」などによる定量的評価にあたる。それ以降は「数値化してスキルを評価/管理している」(31.2%)で、「従業員のスキルは具体的に数値化されていない」(28.2%)と続いた(図4)。
新しい雇用形態として話題になった「ジョブ型雇用制度」を採用しているのは全体の8.7%で、これは「年功序列型での評価/管理」(8.3%)とほぼ等しい。
「その他」を選択した5.9%や評価制度の課題については、以下のようなコメントが寄せられた。
- コンサルを入れて評価制度を刷新したが評価項目が適切ではなく、従業員から不満が上がっている(役員・社長クラス)
- 客観的な制度運用をしている体裁になっているか、実態は上司の好き嫌いで決まる(課長クラス)
- 一時は改善の兆しがあったが上司の好き嫌い評価に戻ってしまい、若手の離職が止まらない(リーダー・係長クラス)
- 経営者の親族が厚遇される(一般社員)
- 360度評価で相手に対する課題と解決策を提議している(一般社員)
- 1on1ミーティングで精度を高めている(一般社員)
テレワークの課題に「評価がしづらい」「メンバーの働きぶりが分からない」といった懸念が聞かれるのは、印象による評価が難しくなったためだ。しかし、中間管理職クラスを中心に上がった「上司の好き嫌いで評価が決まるのが不満」という声からは、印象での評価には納得感が薄い様子が見て取れる。人事評価制度の課題は、コロナ禍の前後で大きな変化はないと言えるだろう。
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