IT資産管理のメンドウを「Power Platform」にぶん投げてラクする方法
台帳への登録や定期的な棚卸作業など、まだ面倒な手作業が多く残る資産管理業務。こうした面倒作業をPower Platformを使って自動化し、もっとラクできるフローにする改善術を紹介しよう。
総務部門やIT部門の面倒な仕事の一つにIT機器の資産管理がある。資産管理ツールを用いれば、データを基にした管理は可能だが、機器の登録作業や管理番号と機器を突き合わせ、管理シールを貼ってユーザー部門に配送、定期的な棚卸をして利用状況を確認するといった作業フローには、まだ手作業に頼るところがある。
固定資産として計上するものは、資産管理台帳に記入し、物品購入や棚卸しの都度、更新する必要があり、組織で管理する機器が多いほど、こうした作業に伴う負荷は高まる。場合によっては1日仕事になることもあるだろう。人的リソースが限られている組織や部門では、コア業務と兼務して対応するケースもあるだろう。
こんな面倒なことばかりの資産管理業務は、ローコード開発プラットフォーム「Microsoft Power Platform」(以下、Power Platform)に任せて省力化しようと語るのは、ソントレーゾのCTOで、「Microsoft MVP for Business Applicaions」の受賞歴を持つ中村亮太氏(CTO)だ。同氏は「いきなり現状を大きく変革しなくても、業務の流れをしっかり確認し、どこに改善の余地があるかを見出して、できるところから少しずつ変えていけばいい」と言い、Power Platformを活用した資産管理業務の省力化を提案する。
本稿では、中村氏が提案するPower Platformを活用した資産管理の省力化の方法を紹介する。
まだ手作業の多い資産管理の2つの作業
資産管理に伴う作業には、「登録作業」と「棚卸作業」の作業がある。
登録作業
購入申請、承認フローを経て、物品を購入し、納品後に物品情報を資産管理台帳に記録する。その後、台帳の情報を基に管理番号や物品の名称、利用開始日、管理部門などを記したシールを作成し、現物に貼付して利用部署に配送する。資産管理台帳の作成は「Microsoft Excel」や専用システムを利用すればいいが、データ入力やシール貼付、物品配送は手作業になる。
棚卸作業
定期的に行う棚卸作業は、まず物品の利用部署の担当者へ棚卸依頼をするところから始まる。各部署の担当者に棚卸依頼をし、期日までに回答をもらって集計する。紙ベースの依頼状や回答書、メールなどで回答を収集する。その後、台帳管理システムへの転記作業が必要となる。
登録作業をPower AppsとPower Automateで自動化
まず、登録作業のフローの改善策として、中村氏は次のようにアドバイスする。
「購入申請は紙のやりとりで行っているのであればシステム化し、そして承認されたものは自動的に資産管理システムに登録、物品に貼付する用管理シールを自動的にプリンタで出力する仕組みに変えれば作業は楽になる。後は担当者が物品にシールを貼って、利用部署に送付すればいいだけだ」(中村氏)
Power Platformでこの改善案を実現するには、まず「Microsoft Power Apps」で登録アプリを作成し、品目名や購入日、金額、利用部署、ユーザー、用途などを入力すると、管理IDが自動生成され、資産管理台帳に登録されるようにする。「Microsoft Dataverse」にデータが格納されたタイミングでRPAツールの「Microsoft Power Automate」がトリガーされ、社内のオンプレミスのデータゲートウェイを経由してPowerAutomate Desktopの処理が実行され、シール作成用のアプリケーション(ここでは「TEPRA」)を起動して、シールに印刷すべき項目(データパラメータ)をTEPRAアプリケーションに入力、保存して、管理用シールのプリントを自動実行するといった仕組みができる。
中村氏は、この講演で、実際に資産管理台帳に項目を入力して保存、自動的にシールを出力するまでを実演して見せたところ、所要時間は約3分程度だった。
図4 Power Appsでの登録、Power Automate Desktopの処理、TEPRAの印刷までの流れのデモ(左のウィンドウがPower Automate、右上がTEPRA、右下がTEPRAプリンタのシール出力)(出典:投影資料より)
簡単に作れる棚卸スマホアプリで面倒作業を効率化
棚卸作業は、システムで棚卸依頼を各部署の管理担当者に送信し、担当者が管理対象機器に貼付された管理用シールにあるQRコードをスマホアプリで読み取る。もし故障などの事情がある場合は、その旨を記入してアプリで回答する。こうしたフローに変えることで、効率的な運用に変えることができる(図6)。
中村氏はこれも「Power Appsで棚卸アプリを作れば簡単」だとし、QRコードを読み取れば棚卸の確認作業をワンアクションで終了させることができると、簡単なデモアプリを約12分程度で完成させて見せた(すでに資産管理用の情報がストアされていることが前提)。テキストボックスやボタンといったパーツをレイアウトして、それぞれのパーツの役割をExcelの関数入力とよく似た形のコードで入力するだけで簡単な棚卸アプリができる。
棚卸スマホアプリによって、棚卸担当者(または機器の利用者)が自分のスマホで物品の資産登録シールに貼付されたQRコードを読み取るだけで棚卸が完了する。講演中に作成されたものはデモアプリだが、実際にはさらに機能を追加する必要はある。まずは棚卸担当者に使ってもらい、フィードバックされた意見を基に改善を繰り返すことで、より自社のフローに適したアプリに変えることができるだろう。
中村氏は「まずは現状の業務をしっかりと知り、流れを確認して有識者同士で議論することが大切です。業務の流れの中でどこに改善の余地があるのかをしっかりと議論して理想像を描く。そして具体的な形を描いて共有することが肝心です。最初から理想像を目指すのではなく、できそうなところから少しずつ試してみて改善していくことが重要」だとアドバイスする。
続けて「理想像はぶっ飛んだ夢みたいなことでもいい。それを実現するにはどうすればいいかを考え、アイデアを形にできたらすぐに共有し、いろんな人に使ってもらい、使用感や機能を試してもらう。得られた感想を基に改善を繰り返すことでより良いアプリに成長させることができる」と締めくくっった。
本稿は、「Microsoft 365 Virtual Marathon 2021 Japanese Track」における、ソントレーゾの中村亮太氏による「資産5管理業務をPower Platformを使って“劇的に”改善してみた」の講演を基に、編集部で再構成した。
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