国民の動きがまる裸? “監視ツール”と化したあのベンダーの製品とは:617th Lap
世界各国でデモ活動が繰り広げられる中、米国の当局はあのベンダーの製品を“国民監視ツール”として利用していたという。誰もが知るベンダーだというが、その製品とは?
2019年3月頃から香港で大規模な民主化デモが続いた。デモ主催者の発表によれば、約200万人もの市民が参加したとされる。米国でも、「21世紀の公民権運動」とも呼ばれる「BLM(Black Lives Matter)運動」が広まり、人種差別に抗議する市民によるデモが行われた。ときには過激化したデモ参加者によって暴動が引き起こされ、物議を醸すこともある。
こうしたデモが続く中で活動を鎮圧しようと、あるベンダーの製品が“国民監視ツール”として使われていたことが明らかになった。本来の用途とは違った目的で使われた、誰もが知るあのベンダーの製品とは?
この件を報道したのはアメリカのネットメディアThe Interceptだ。2021年5月25日に記事を掲載し、Oracleの動向にちょっとした疑問を投げかけた。
記事によると、Oracleが提供する「Endeca Information Discovery」というツールが、国民監視ツールとして使われていたという。Endeca Information Discoveryとは、2011年にOracleが買収したEndecaが開発したデータ検出ソリューションだ。マーケティングなどでのデータ分析を目的としたソリューションだが、なぜこれが「監視」に使われることになったのか。
記事ではEndeca Information Discoveryが使用された一例として、2012年にシカゴで開催されたNATO(北大西洋条約機構)サミットを挙げた。サミット開催期間中に、シカゴでは約3000人の参加者による大規模なデモ活動が行われていた。退役軍人らが中心となって、NATOが関わる戦争や安全保障問題などに抗議していたのだ。
デモ活動中に、当局はEndeca Information Discoveryを使用してSNSを監視したという。「protest(抗議)」といったワードを含む投稿を「Twitter」などのSNSから抽出し、その投稿から「感情」を読み取ってソートする。「protest」という発言に加え、怒りやネガティブな感情を含んでいる投稿なら、監視する必要がある。投稿したユーザーの行動を監視することで、デモ参加者の動きを把握して騒ぎが大きく、また過激になる前に早期鎮圧を目指した。
そうした監視対象のワードが含まれるメッセージは、投稿後わずか0.5秒で抽出され、マークされる。たとえ投稿がすぐに削除されても「ネガティブワードを投稿した」という記録はツールに残る。
NATOサミットにおいてシカゴ警察は、1時間当たり2万もの投稿を精査したという。Endeca Information Discoveryが、デモ参加者のSNSを分析してデモや暴動の鎮圧を目的としたツールとして活用されたということだ。なお2012年のデモでは、参加者の60人が拘束され、45人以上が逮捕されたという。
こうして2012年のデモで成果を上げたOracleのEndeca Information Discoveryは、その後アルゼンチンやフィンランド、アラブ首長国連邦といった海外の警察でも同様の目的で採用された。
The Interceptによれば、Oracleに買収される以前にEndecaのデータ抽出ソリューションはFBIや米軍などで採用されていて、すでにテロ対策のためのデータ分析ソリューションとして実績があったという。
Oracleは古くから米政府機関を顧客として抱えていて、同社のソリューションは犯罪記録などのデータ管理に活用されていた。そして警察当局がデモ対策のためにSNSを監視し、犯罪の「ホットスポット」を分析する手段を求めている声を耳にし、Endecaの買収に動いたのでは、と推測される。
もちろんOracleはEndeca Information Discoveryがシカゴ警察をはじめ、幾つかの法的執行機関において犯罪防止やデモ鎮圧といった目的で使用されていることを公開している。また当局が導入する同様のツールは、OracleのEndeca Information Discovery以外にも複数存在する。それらが犯罪対策として活用できているのならいいが、「行きすぎた市民の監視」とならないか、The Interceptは警鐘を鳴らす。
そしてThe Interceptは、OracleがEndeca Information Discoveryを中国当局にも売り込んでいると報告した。中国は当局による監視体制がかなり厳しく、デモだけではなく、市民の発言の監視手段とならないかが懸念される。中国への売り込みについては、Oracleの元従業員であるリチャード・トムリンソン氏が証言しているものの、今のところ、導入された事実は明確になっていない。
Endeca Information Discoveryは、過激なデモを鎮めるためのツールとして定着するか、それとも市民の監視を強めるツールとなるのだろうか。コロナ禍の収束後、再び多くの人が集うようになった時に、それが明らかになるのかもしれない。
上司X: Oracleの製品がデモの早期鎮圧に使われていた、という話だよ。
ブラックピット: ふむ、データ分析ツールなんですね、本来は。
上司X: そうなんだよ。でも、監視ツールとして使われていた、というね。
ブラックピット: まぁ、街角の監視カメラもそうですが、今ではどこでも監視されてるじゃないですか。ネットだってもう監視されてると思いながら使うべきなのかなぁ、とも思いますけどね。
上司X: 街角にある監視カメラはどちらかと言えば「街の風景のログ」だと思うな。何かあったらそこから情報を引き出せる。ネットだって、何かあった時の証拠になるしな。
ブラックピット: でも、まだ何もしていない状況でSNSをチェックするのはさすがにどうかと……。
上司X: まだ何もしていない人間のネガティブツイートを監視して、しかもスコアをつけてソートしてマークするってのは、ちょっとやり過ぎだと思うな、俺も。
ブラックピット: 今度は中国へも売り込んでいるようですが、これは非難することもないのではないかなと。商売は商売でしょう?
上司X: まぁ、そりゃそうだけど、あの香港のデモの一部始終を見ると心配になる。市民の干渉が強まるようなことにはなってほしくはないが……。その国には国の事情があるだろうからあまり深掘りはしないとしてだ。わが国日本でも、今後そうした用途に使われる可能性があるかどうかは興味深いところだな。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.