人材採用の現状とツールの利用状況(2021年/後編)
人材の獲得競争が激化する中でも、従来の採用手法を変えない企業が目立つ。いち早く採用業務のデジタル化を進める企業が課題の解消とコストの最適化を実現しつつある。
キーマンズネットは2021年7月19日〜8月6日にわたり「人材採用」に関するアンケート調査を実施した。全回答者数211名のうち情報システム部門が29.4%、製造・生産部門が19.4%、営業・販売部門が11.4%、人事・総務部門が7.7%、経営者・経営企画部門が6.6%などと続く内訳であった。
今回は、人材採用における課題を中心に聞いたところ、企業が抱える3つの課題が浮き彫りになった。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
人材採用3つの課題
前編では、過半数の企業がオンラインでの採用活動を取り入れる一方でオフラインの選考も残り、応募のチャネルや選考過程が複雑化していることや、応募者の履歴書や職務経歴書といった個人情報が適切に管理されていない可能性について取り上げた。後編では、これら採用や選考活用における課題についての具体的な状況と、企業がどのような解決策を模索しているかを見ていく。
課題1.人材不足
自社の人材採用についてどのような課題を抱えているかフリーコメントで聞いたところ、大きく3つに分類できた。1つ目は“人材不足”で、マッチング以前に「求める人材が応募してくれない」という声が目立った。
- テレワークによって地域格差がなくなり、首都圏の企業が地方の優秀な人材をとっていく
- 地方なので応募数がそもそも少なく、高学歴の学生からの応募がほとんどない
- 若い人材がなかなか集まらない
- 高学歴の応募者のレベルが極端に低下している
- 電気や設計技術者が不足している
多くの企業が、求める能力を持つ優秀な人材の獲得に悩んでいる様子が見える。
課題2.社内体制
2つ目は、社内体制への課題感だ。現場と採用担当部門で情報の共有が不十分になり、ニーズと求人要件が一致しないケースがある。
- 現場の需要と人事の認識が違い、獲得人材のアンマッチが多い
- リソースや知識の不足から人事部がIT化に対応できていない
- 人事が説明会や募集、面接マネジメントなども現場に丸投げ
採用業務の多様化や求人要項の複雑化に関係部署が対応しきれないままでは、必要な人材を取り逃してしまうリスクがある。
課題3.定着しない
3つ目は入社後の“定着”における課題だ。コメントからは、複合的な要素が絡み合って十分な育成支援体制を提供できていない様子が見えた。
- 人材レベルのアンマッチが激しく、離職率が改善しない
- 内定者の辞退と採用後1年以内の退職が多い
- 会社側に人材を育てる体制がない
その他には「事業環境が厳しいため非正規職員の欠員補充しかできず、正職員の採用計画が立てられない」といったコスト面に関する課題があった。コストを投じて採用した人材にアンマッチやスキル不足があれば事業にも悪影響が出る。必要な人材の情報を正確にかつ安全に共有して確度の高い採用活動ができれば、これらの課題を解消できる可能性がある。
自社の採用管理手法“適切”が77.7%も……「適切ではない」とした企業の理由とは
前述までの課題を抱えつつも、多くの回答者は自社の仕組みを「適切だ」と感じている。現在の採用管理方法についての満足度を聞いたところ「満足している/適切だと思う」と「まあまあ適切だと思う」の回答は合わせて77.7%あり、「不満がある/不適切だと思う」の22.3%を大きく上回った(図1)。そのように回答した理由をフリーコメントで募ったところ、以下のような声が寄せられた。
- 課題はあるが問題と感じるほどの不満はない
- 現状の管理方法に手間が生じていないため
- 効率面には課題があるが、コンプライアンスは問題ないと思う
現状を及第点と感じたり、わざわざ改善をする必要はないと考えたりしている声が目立つ。課題に対しては「仕方ない」と感じている様子も見えた。一方で不満については、以下のような声があった。
- 募集の数が減っているのに毎年同じことを繰り返している
- コロナで面談の機会が減っているのに新しいアプローチをしない
- 業種も募集の経路も複数あり、要望の集約や採用の進捗が共有できていない
不満の声からは、現在の状況に合わせて採用活動を改善したい様子が見える。先んじて人材採用を効率化できた企業が、これまで取りこぼしてきたベストマッチ人材を獲得できるようになるかもしれない。
7社に1社が「採用業務のデジタル化」を進めている
戦略的な人事は、関係部署のシームレスな連携によって実現する。応募者情報や選考の進捗などを一括で管理できるのが「採用管理ツール」だ。採用プロセスの可視化や分析ができれば、採用計画の見直しやコストの軽減、人材獲得の確度向上などが見込まれる。採用管理ツールを「導入している」と回答した割合は11.8%あった。採用を検討中の3.8%と合わせ、15.6%の企業が採用業務のデジタル化を進めていると言える。(図2)
採用管理ツールの導入をしているかどうかに関わらず「ツールを導入する際に重視する点」を聞いたところ、上位には「操作が簡単であること(47.4%)」や「価格が安いこと(42.2%)」といった一般的なツールに求める項目が挙がった。続いて多かったのが「マッチングの精度を高められること(36.5%)」や「個人情報保護ができること(26.1%)」など、採用に関する課題解決への期待だった(図3)。
採用管理ツールの認知が進んでおらず「何に期待すべきか分からない」と感じている可能性や人材採用に関する課題は優先順位が低いと感じている様子、改善への期待が薄い様子などが見える。
労働人口の減少や多様な働き方の拡大に伴って、優秀な人材の「奪い合い」は今後も激化することが予想される。一般応募や紹介など採用のきっかけは多様化しており、それらの情報を集約/管理した効率的な運用が求められる。7社に1社がそれを見越し、先んじて採用業務の再構築を進めている状況が見えた。
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