「M1チップ」とは別次元? Intelが秘密裏で開発した“隠し玉”とは:632nd Lap
CPUと言えばAppleの「M1チップ」が大きな話題を呼んだのが記憶に新しい。その裏で、Intelは一般的なCPUとは一線を画するある開発を進めていた。
このところ世界的な半導体不足が続き、PCやスマートフォン、ゲーム機といったデジタル製品の供給に大きな影響が生じている。
今もなおこの状況が続く中で、Intelがひそかに開発を進めていたチップがあるという。それは話題を呼んだAppleの「M1チップ」に対抗するものなのか、はたまたそれ以上のものなのか……。
Intelが開発を進めていたのは、人間の脳を模したチップ「Loihi 2」だ。Loihi 2は、「ニューロモーフィックチップ」と呼ばれ、一般的なCPUやSoC(System on a Chip)などとは一線を画するものだ。
「2」とあるように、すでにIntelは第1世代の「Loihi」を2017年10月に発表しており、3年間にわたってニューロモーフィックコンピューティングの研究に使われてきた。
ニューロモーフィックコンピューティングとは、「人間の脳の働き」に着想を得たコンピューティング技術だ。人間の大脳灰白質にある「ニューロン」の物理特性を模した設計で、ニューロンが接続されてできる「ニューラルネットワーク」を機械的に再現することで、人間の脳内で行われている情報処理や記憶処理に近い電算処理が可能になる。
ニューロンの接続部分は「シナプス」で、人間の脳内には約1000億のニューロンと約1000兆ものシナプスが存在する。人間の脳は学習することでシナプスでの情報信号を伝達しやすくし、ニューロン間の情報伝達速度が変化するという。学習によって特定の情報に強く反応するニューラルネットワークが作られることで、人間らしい「記憶」や「推論」といった情報処理が可能になる。
つまりLoihi 2は「人間の脳内を機械的に再現可能なチップ」なのだ。約30平方ミリメートルの1チップ当たり100万個のデジタルニューロンが搭載される。Intelが2023年に発売予定の主力プロセッサに採用される「Intel 4プロセス」で得た成果だという。第1世代のLoihiと比較するとデジタルニューロン数は8倍、処理速度は10倍にまで向上する。
従来のコンピューティング技術を使ったAI(人工知能)では、機械学習に大量の学習データを用意する必要があったが、ニューロモーフィックコンピューティングを採用したAIならば、人間の脳のように限られた情報からでも推論と記憶を繰り返して効率的な学習ができる。人間の脳と同様に情報処理のエネルギー効率も高く、AIに革新的な進化をもたらす可能性もある。
従来のCPUとは根本的に設計が異なり、データはメモリではなくLoihi 2のニューロン結合に保存される。クロック周波数というものも存在しない。こうした設計であることからLoihi 2は革新的ではあるものの、スマホやPCなどわれわれに身近なデバイスに搭載されることはなさそうだ。
Loihi 2は、主にメーカーの開発部門や大学の研究機関に提供される予定だという。IntelのLoihi開発担当者によれば、ロボットの触覚を改善する人工皮膚の実験や、ドイツ鉄道での列車運行スケジュールの最適化に活用されるという。
われわれに身近な技術となるのはまだ先のようだが、Loihi 2がより高性能なデバイス開発の礎となる可能性もある。脳内のニューラルネットワークをフルに活性化しながら妄想を育み、将来に期待しよう。
上司X: Intelから人間の脳を模したチップ「Loihi 2」が登場するよ、という話だよ。
ブラックピット: ニューロモーフィックチップですか、ふむ。
上司X: なにが「ふむ」だ。まぁ、俺もそんなに知らない技術だけどね。そもそも第1世代が出ていたことも知らなかったよ。
ブラックピット: 僕もですよ。それにしても、以前ほどCPUをあまり気にしなくなりましたね。
上司X: 「Intel Pentium II」だIIIだ4だ、Core-iだAtomだなんだって。たまには「AMD Athlon」で組んでみるかとか、昔はよくそんな風にね……。
ブラックピット: 出た出た、出ました、懐古厨!
上司X: そういうことを言うんじゃない。でも、ちょっと前まではCPUが新世代になると劇的に性能が上がったもので、新型のCPUが発売されるたびに興奮した覚えがあるよ。しかし、今ではPCの自作もしなくなったしなぁ……。
ブラックピット: 今では、CPUでPCを選ぶのはゲーム愛好家の皆さんあたりじゃないですかね? まずは価格帯を決めてからメモリ、SSDの容量を見て、最終的に製品を見極めるんじゃないですかね。ソースは自分なので違ったらすみません。はい。
上司X: だいぶ話は逸れたけど、ともかくIntelのLoihi 2だ。人間の脳内と同様の処理ができるとなれば俺たちの知識じゃとても追い付かないだろうが、なにか偉大なことができるはずだ。直接使えることはないにしても、いずれ俺たちにもメリットがあることを期待したいものだな。
ブラックピット(本名非公開)
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
上司X(本名なぜか非公開)
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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