Beyond 5Gに向けた柔軟なネットワーク機能「CNF」って何?
ミリ波を含む活用が進み本格的な5G時代が到来すると、ネットワークを効率的に使い分けるネットワークスライシングが新サービス開発のカギになる。現状で進展している「VNF」よりもネットワークに柔軟性をもたらすのが「CNF」だ。今回は、5Gのさらに先にあるBeyond 5G/6Gを実現する要素としても注目される「CNF」に注目したい。
「CNF」が注目されるワケと5G/Beyond 5Gとの関係
5Gと言えば「超高速大容量」「超低遅延」「多数接続性」だが、まだその特徴を十分に生かし切れるアプリケーションはそう多くはないのが現状だ。スタンドアロン構成のインフラ(SA:4Gネットワークに依存しない5G専用の基地局とコアネットワーク)整備が5G本格活用の前提となり、通信キャリア各社は5G商用展開の駒を着々と進めている。その一方で、5Gの次なる世代「Beyond 5G」を見越した技術開発も進んでいる。その一例に挙げられるのが「CNF」(Cloud-native Network Function)だ。
CNFが注目されるのは5Gの本格活用と、Beyond 5G/6Gで重視される「ネットワークスライシング」が容易かつ迅速に実現されると考えられているからだ。
ネットワークスライシングとは、ネットワークが備える機能を用途によって切り分けて(スライスして)利用し、ユースケースやビジネスモデルにネットワーク機能とリソースを動的に改変して提供する技術のことだ。これには動的なネットワーク制御とリソースの割り当てが前提になるが、これが実現したときには同時に障害予測や検知、迂回経路などの設定、復旧の自動化などを考慮した、よりハイレベルなメンテナンス性、耐障害性をもったネットワークが実現することになるだろう。
ネットワークスライシングのイメージを示したものが図1だ。用途によって異なるネットワークへの要求に応じて柔軟に機能を割り振る仕組みが、5GはもとよりBeyond 5G/6Gにも重要となる。それに最適なネットワーク機能を実現するための技術の一つが「CNF」なのだ。
「PNF」「VNF」「CNF」って何? 何が違うのか?
動的に、また自動的にネットワークを最適化するとはどういうことだろうか。
ネットワーク機能には、ルーターやスイッチ、ファイアウォール、ADC(Analog to Digital Converter:アナログ-デジタル変換回路)などIT部門担当者になじみのある機能に加え、通信キャリアが構築する5Gコアネットワークに必要な各種の個別機能群(認証系の機能やモビリティ管理を行うAMF〈Access and Mobility management Function〉、セッション管理を行うSMF〈Session Management Function〉など)がある。
従来のネットワークは専用アプライアンス上にネットワーク機能を搭載し、物理的な専用アプライアンスを組み合わせて全体のネットワークを構築してきた。しかしネットワークの大規模化や複雑化に伴い、専用アプライアンスの運用管理性やコスト効率、スケーラビリティなどが求められるようになった。
異なるベンダー機器の相互接続や各機器の個別設定、機器の故障が発生した際の機器交換や修理、再設定、迂回経路設定などには多くの労力とコストがかかる。また一部の障害や通信の混雑状況に応じた最適経路の選択、設定をリアルタイムに行うことも難しい。さらにネットワーク構築や更改計画においても数年程度の時間間隔で考えざるをえず、現在のように短期間で変化する多様な通信ニーズに応えることは難しい。
それを解決する仕組みの一つが「VNF」(Virtual Network Function)だ。これは、物理的な専用アプライアンスを汎用サーバに置き換え、個別のネットワーク機能はそれぞれのサーバに立てた複数の仮想マシン(以下、VMと呼ぶ)が担う仕組みだ。
ハードウェアは互換性の高い汎用製品を用い、その上に載る機能はVM上のアプリケーションが提供する。VM間の連携はREST API(標準インタフェース)を用いる。OpenStackなどの管理ツールにより、VMやアプリケーション、サービスの立ち上げ、設定や管理などを自動化して、物理機器の作業を必要とせずに必要なネットワーク機能の追加、削除、変更ができる。サーバリソースの利用も効率化し、スケーラビリティも増す。コスト低減も可能なため、現在のネットワークは「PNF」(Physical Network Function)VNFに移行しているところだ。
しかし、5Gの本格活用やその先のBeyond 5G/6Gを見越すと、VNFでも十分でないと考えられている。5G以降の仮想ネットワークで期待されているのが「CNF」だ。
「CNF」はマイクロサービス化されたコンテナによりネットワークを構成すること
「CNF」は、VNFのコンセプトを継承しているが、VMの代わりにコンテナを利用するところが大きな違いだ。
VMはOSを包含したいわばPCのようなもので、多数のVMが物理サーバのハイパーバイザー(VMWareなど)上に構成される。コンテナも物理サーバに複数起動するが、コンテナにはOSがなく、ファイルシステムやメモリ、プロセス空間だけを持っている。物理サーバのOSを各コンテナが共用する仕組みだ。VNFにおけるOpenStackに対応するのが、今や業界標準となった「Kubernetes」で、コンテナの起動や停止などの管理、運用を自動化できる。
コンテナは個別にOSを含まないためサイズが小さく、多数のコンテナを構成してもVMよりもリソースを消費しない。また構成に要する時間もVMよりもずっと短く、秒単位での起動が可能だ。
つまり、「CNF」はVNFよりも物理リソースをより有効に活用でき、ネットワーク機能の変更やネットワークリソースも迅速に調整できるのが大きなメリットだ。
「PNF」「VNF」「CNF」への推移のイメージを図2に、VMとコンテナの概念の違いを図3に示す。
マイクロサービスとの相性がいいコンテナ
コンテナはOSの分だけコンパクトになったVMのように見えるが、実際にコンテナで実行されるのは1つのプロセスだけだ。アプリケーションが格納されるといっても、多くの機能を備えたビジネスアプリケーションのようなものではなく、アプリケーションから要素を切り出した、ごく小さな単位の機能を実現する。
これはクラウドプラットフォームで発達したマイクロサービスアーキテクチャと相性が良い。マイクロサービスアーキテクチャとは、相互に依存しない最小限の機能を1つのモジュールにしたマイクロサービスを多数組み合わせ、目的に沿ったサービスを提供する開発手法のことだ。多数のマイクロサービスを連携させて利用する技術に「サービスメッシュ」がある。
コンテナにマイクロサービスを載せてサービスメッシュを介して連携させることで、ネットワークの機能変更や追加、削除などが容易になる。ユースケースに応じて、必要なときに必要なネットワーク機能とリソースを提供できるというわけだ。
コンテナにアプリケーションと使用するライブラリがパッケージになっているため、メンテナンスが容易なところも開発者としてはメリットだ。これならビルドもデプロイも容易になる。開発や運用現場で重要視されているCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー。ソフトウェアを常に改善し続けて即座に現場に反映できる仕組みのこと)の展開にも役立つ。
そして何より、マイクロサービスアーキテクチャやサービスメッシュなどのクラウド技術に準拠する「クラウドネイティブ」なネットワークになることで、物理サーバのOSやIaaS(Infrastructure as a Service)などのサービスによらず、コンテナを柔軟に移動して配置できるようになる。ネットワークはVNFによって専用アプライアンスのくびきから解放されたが、CNFは汎用サーバ上で動作するアプリケーションを他の汎用サーバへ柔軟に配置することが可能になる。
Beyond 5GにCNFはどう生きるのか?
総務省の「Beyond 5G戦略」ではIPトラフィック量が2016年の4.7ZBから2030年には年間170ZB(36倍)になると指摘し、2030年代にはアクセス通信速度と同時接続数は5Gの10倍、コア通信速度は現在の100倍が目標となり、また5Gの10分の1の低遅延とそれを補完するネットワークの高度な同期が必要だと述べている。Beyond 5Gには、このような性能指標の他に、AI技術を生かした自律的なネットワーク構築機能や、セキュリティやプライバシーが常に確保され、災害や障害の発生時でもサービスが停止することなく瞬時に復旧できる機能が必要だとし、さらに消費電力を現在の約100分の1に抑えることを検討する必要があるとしている。
このような将来のネットワークを実現するために、リソースの利用効率が高く、ごく短時間でネットワーク機能を変更でき、ポータビリティも高いCNFは最適な手段になる。
しかしまだまだ課題もある。専用アプライアンスのような性能にまだ追い付いていないことと、多数のマイクロサービスの連携に関わる管理対象数や種別の増加への対応、当面はVNFとCNFの混在環境が続くため、リソース調整などが複雑化することなどが問題だ。
CNFとその実用化に向けて研究開発を続けるKDDIの河崎純一氏は、ネットワークアーキテクチャの適性について「CNFは、通信キャリア専用ではなくネットワークへの要求事項がたびたび変わるような事業などに適したアーキテクチャです。より細かい粒度でマイクロサービスを用意して迅速に適用することが可能なので、スピードと柔軟性が求められる場面には最適です。一方でPNFは高速転送性能を生かすバックボーンネットワークには残るかもしれませんし、現在導入が進みつつあるVNFも、当面はCNFと併存、併用されることになるでしょう」と語った。
またKDDIの小松優氏は可用性面について「障害が起きてもすぐに復旧できるネットワークは、必要に応じて制御可能なマネージブルなものであるとともに、ネットワークの利用状況やアプリケーション、機器などの稼働状況を常に監視、観測できる、オブザーバブルなものでなければなりません」と指摘した(図4)。
その言葉通り、同社は情報通信研究機構(NICT)とNECとの共同による「先進的仮想化ネットワーク基盤技術の研究開発」で障害事前予測技術の研究開発を担い、各種の新しい手法による障害指標データを収集し、AIによる障害対応の自動化に生かすことができるよう研究している。「突然の故障はともかく、徐々に劣化していく場合などは数分前の時点で検知することが可能になるため、自動対応が可能になっていれば故障前に対処してトラブルを未然に防ぐこともできます。CNFのマイクロサービス化されたモジュール性や、移転やスケールの容易な点は障害対応だけでなく障害予防にも役立つものです」(河崎氏)。
この共同研究では、CNFとVNFの混在環境で複雑化するリソースの最適制御技術の研究(NICTが担当)と、マイクロサービス化で複雑になる設計を高速化し、分単位でサービスを再構築可能な超高速化ICTシステム設計技術の開発(NECが担当)も行われている。三社の研究成果は、2022年中旬には発表される見込みとのことだ。
他社からも、ネットワーク仮想化に関する最新技術開発と実証、実用化の話題はこれから続々と出てくると思われる。今後も注目していきたい。
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