企業はパンデミックによる過去18カ月にわたる混乱の中で、従来の人材対策ではレジリエンスの全体像が描けないことを知った。従来、企業は従業員の健康を評価するために組織へのエンゲージメントやウェルビーイング、パフォーマンスなどにおける全社的な平均データを使用していたが、このアプローチではHRリーダーが混乱期の影響を理解する上で盲点が生じる。このテーマには、多くの人が想像する以上に微妙なニュアンスがある。
現在、従業員をいつ、どのように職場に戻すかを検討しているHR分析リーダーは、混乱が続く環境の中で従業員の状況を理解し、より効果的な介入策を設計する絶好の機会にある。
進歩的な企業とHR分析リーダーが、人材データからより多くの価値を引き出すために実施すべき4つの施策とは。
前進と後退(thriving and diving)を見極める
パンデミックの間、平均的なデータを判断材料にしてきた経営幹部は、これらのデータで「エンゲージメントや生産性が安定もしくは改善しているか」や「現状がうまく機能しているか」を判断するのは大雑把すぎると考え始めた。
平均的で見ると違いがなくとも、データをばらばらにすると見えるストーリーが変わるのだ。
Gartnerの分析によると、パンデミックは従業員に「前進と後退」の両方をもたらした。2021年に同社が2万人を超える従業員を対象として実施した「Gartner Workforce Resilience Employee Survey」では、パンデミックによって「心理的安全性が低下した」という回答が34%だった一方「心理的安全性大幅に改善した」という回答も36%あった。
この結果は平均値では安定的に見えるが、混乱が従業員にとって相反する結果をもたらす可能性があることを示している。
例えばパンデミックの発生に伴って、多くの企業が子どもを持つ従業員に対する包括的なサポートを提供したが、未就学児の親は大学生の親とは大幅に異なるストレスを経験した。子どもの年齢によるニーズの違いを調査しない「平均的」なアプローチでは、従業員が必要なストレッサーを十分に満せない。
HR分析リーダーが効果的で手頃な介入策を開発するためには、平均値に依存せず、さまざまな従業員に混乱がどう影響するかについての理解を深める必要がある。
時点(ポイントインタイム)だけでなく、変化を測定する
ポイントインタイムデータは従業員の現時点での状況を示すが、混乱が原因で標準よりも悪化したか、それとも改善したかを示すものではない。
混乱中の従業員の健康状態を評価するためにHR分析リーダーが採用する最も強力なアプローチの一つに「継続的な調査」がある。混乱前のデータを混乱後のデータに関連付け、変化を測定することで、マイナスとプラスの影響が理解できる。
しかし、混乱の前に調査を設計するのは難しい。解決策としては、混乱前に取得していたデータを始点に混乱後の調査を設計し、個人やチームレベルでデータを遡って調整する方法がある。例えば混乱前のマネジャー個人のフィードバックを確認し、それを混乱後のフィードバックと並べると、全体的なスコアに関係なく、マネジャーがどのようにチームを率いてきたかをより正確に把握し、マネジャーが後退したか前進したかを評価できる。それによって混乱期のマネジャーに共通する特徴に焦点を当てながらトレーニングやサポートを実施できる。混乱の影響を洞察に満ちた形で把握して介入に優先順位を付けられるのだ。
チームのレジリエンスに関心を示す
従来、従業員のレジリエンス(回復力)は個人のレジリエンスまたはグリット(粘り強さ、やり抜く力)の構築に関連付けられてきた。しかし一個人に依存する個々のソリューションは高くつき、それほど効果的ではない。
対照的に、チームレベルのレジリエンスははるかに強力な前進の道を提示する。
HR分析は、チームレベルのレジリエンスの差別化要因の特定に役立つ。例えば「役割と責任が明確に別れているチームはより回復力があるか、全員参加型のチームはより回復力があるか? 結局はチームレベルのレジリエンス属性を発見してそれに基づいて結束力を高めるような施策が絶大な影響を及ぼす。Gartnerの調査によると、混乱の時代において結束力の高いチームは、従業員の健康を維持する可能性が37%高くなる。
レジリエンスのあるチームに関する洞察は回復力そのものではなく、混乱から生じる企業のストレス要因に対する集合的な対処方法を学ぶチームに焦点を当てることで、スケーラブルな投資の方向性を見出すのに役立つ。
データのベストアンサーが決断のベストアンサーとは限らない
当社の調査では、混乱の際にリーダーが下す方針や決定は、従業員の日常業務への直接的な影響と同様に、従業員の認識にも関係することが何度も判明している。
例えば、企業が思慮深く明確に定義した福利厚生を提供すると、それを使用しない従業員の健康状態も改善する。福利厚生が提供されているという認識は、実際に利用するのと同じくらい強力な効果がある。
人材分析リーダーがデータを収集して分析し、洞察をHRリーダーに伝えるとき、そのデータが「ある決定が正しいことを示唆しているかもしれないが、その決定が発するメッセージが実際には全て間違っている可能性がある」ということを考慮しなければならない。混乱期に人材に関する意思決定をする際には、従業員の認識を含む決定の完全な影響を考慮して調整する必要がある。
企業が仕事の未来について意思決定をする際は、雇用主と従業員の両方にとって最良の決定が下されることを確認するために、よりきめ細やかな人材データが必要になる。そのためには従業員の健康を測定するための従来のアプローチはあまりにも鈍感だ。平均的なデータは、的確な意思決定の妨げになる。「平均の先を見据える」ことは、価値の高い、真に戦略的な人材分析リーダーの新たな使命になる。
著者:モリー・ティップス
Gartner HRプラクティスのアドバイザリー シニアディレクター。重要なスキルや多様性、公平性と包括性、人材分析の専門知識を備え、戦略的優先事項についてHRリーダーと協業する。
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