iPaaS(Integration Platform as a Service)の利用状況(2021)/後編
RPAによる自動化の範囲を拡大し、一気通貫の業務自動化を目指す「ハイパーオートメーション」の文脈でiPaaS(Integration Platform as a Service)の有用性がうたわれている。一部の企業は早くもRPAを補完するツールとして認知しているようだが、「プロセス自動化の業」とも言える不安要素があるようだ。
キーマンズネットは2021年11月19日〜12月11日にわたり、「iPaaS(Integration Platform as a Service)の利用状況」に関するアンケートを実施した。iPaaSとは、オンプレミスやクラウドの別を問わず、複数のシステムの統合に必要な各種機能を提供するクラウドサービスを指す。
近年、「iPaaS」という用語を頻繁に耳にするようになった。その背景にはSaaSとSaaS、あるいは既存のオンプレミスシステムとSaaSを連携させたいというニーズの高まりがあるようだ。近年は業務を一気通貫で自動化する「ハイパーオートメーション」の盛り上がりとともに、RPA(Robotic Process Automation)を補完するツールとして紹介されることもある。前編では、iPaaSの導入率や普及の可能性を紹介したが、後編では業務の自動化を実現するオートメーションツールとしてどれほどニーズがあるのか、どのような不安要素があるのかを明らかにする。
「一部だけ自動化」が多数、本当にそれでいいのか?
業務の自動化がどのくらい進んでいるのかを聞いた結果、「全ての業務を自動化している」(1.6%)、「ほとんどの業務を自動化している」(10.7%)、「一部の業務を自動化している」(50.0%)をまとめて62.3%が業務の自動化を実施していることが分かった(図1)。特に従業員規模が1000人を超える企業においては約8割が何らかの形で業務を自動化していた。
自動化の手法としては「ワークフローツール」が55.3%、「Excelマクロによる集計」が39.5%、「RPAやAI技術を使った自動化」が30.3%で、iPaaSなどの「SaaS連携ツール」による自動化は13.2%だった(図2)。N数が少ないので参考値となるが、RPAやAI技術を活用した業務自動化は企業規模が大きいほど実施率が高い傾向にあった。
関連して業務自動化の課題も聞いた。最も多かったのは「一部の業務しか自動化できずスケールしない」(36.8%)で、「スキルを持った人材がいない」(31.6%)、「ツール導入のコストがかかる」(23.7%)、「部分最適のツール導入によって自動化のプロセスがサイロ化している」(19.7%)と続いた(図3)。
最も回答率が高かった「一部の業務しか自動化できず全体最適を図ることができない」については、RPAにまつわる課題として話題に上る。原因はさまざまだが、導入後に「エラーが発生して安定稼働できない」「ロボットが増えるにつれえ統制が効かなくなる」といった問題を抱えたために、横展開が進まないというケースはよく耳にする。他にも開発の工数や、ライセンス・保守のコストがかさむことで思ったような費用対効果を得られず、結局は局所的な業務自動化に止まることもある。
こうした業務自動化の課題をふまえ、より広範囲な自動化を目指す際に有用なオートメーションツールとしてiPaaSを押し出す動きがある。iPaaSは、APIを活用して連携を実現する。RPAのように人間のデスクトップ作業をシナリオとして倣うものではないため、UI変更などに伴うエラーの発生や処理速度の問題にも対応できると言われる。「RPAの代替」ではなく、得意分野が異なる自動化ツールの1つとして活用することで、業務自動化の範囲を拡大するとして期待を持たれている。
実際に、iPaaSの導入目的として約2割が「RPAのリプレースもしくは補完」と回答しており、業務自動化の分野における有効性を認めている企業もあるようだ。
RPAの悲劇が再び「プロセス自動化の業」
業務自動化による全社最適を推進していくにあたり、iPaaSへの注目が高まることが予想される。iPaaSを選定・活用する際に重視するポイントや活用に向けての懸念点を調査した。「RPAの二の舞」を懸念する声も寄せられた。
選定・活用時に重視するポイントについては「導入費用が安価」(55.7%)、「セキュリティ機能が充実している」(37.7%)、「システムを連携させるコネクターが豊富」(30.3%)が上位に挙がった。複数システムを連携させるためのコネクターの多様さといった機能面よりも、まずは導入コストやセキュリティ面に関心が集まっていることが分かる(図5)。
iPaaSの利用で懸念される課題についてはフリーコメントで回答を募ったが、主に「運用負荷」「セキュリティ」にまつわる課題を指摘する声が集まった。運用負荷については「iPaaS側の仕組みの変化により、(自動化フローの)大幅な刷新の必要に迫られる恐れがある」や「複数のシステムを連携して業務自動化をした場合、あるシステムのサービスが終了した際に、自動化フローに影響するのではないか」など、iPaaS製品や自動化対象のシステムの変更による保守業務の負荷を心配する声が挙がった。「技術者が不足するのではないか」「運用できる人材が不足」など、運用を担う人材を確保できないことを懸念する回答者もいた。
セキュリティ面では「野良プロセスや野良APIが作成され、作成者が退職または配置換えを繰り返すことにより、(プロセスが)分からなくなってしまう」や「結局システム保守や運用が属人化して元のもくあみになってしまう」などが挙げられた。
自動化による“全社最適”を望むも……推進主体は「情報システム部門」が43.4%
ここまで、企業が抱える業務自動化の課題を契機に、iPaaSへの期待値を探ってきた。前述したように、近年は一気通貫での業務自動化を目指す機運が高まり、RPA製品をさまざまな技術と連携させる動きが盛んだ。だが、全社での業務自動化に取り組むのであれば、ツールだけでなく組織体制の整備が必要だ。
全社横断で継続的に変革を推進するためには、プロジェクトの中核となる「CoE」(Center Of Excelence)を立ち上げることが理想だと言われる。だが、豊富なリソースを持つ企業でない限り、CoEを設置することは簡単ではない。
業務自動化プロジェクトの主体を聞いた質問では、「情報システム部門」とする回答者が43.4%、「ユーザー部門と情報システム部門」が27.6%、「部門ごとに実施しているため分からない」が19.7%、「ユーザー部門」主体が17.1%だった。「自動化プロジェクトの専任部門(CoE)」の設置は6.6%と極めて低いのが現状だ(図6)。
全社的な業務自動化を目指す際は、RPAやiPaaSといったツールをどのように組み合わせて活用するかを考える他、組織体制をどのように整備するかの課題にも向き合わなければならない。
なお全回答者数122人のうち、情報システム部門が27.9%、営業・販売部門が16.4%、製造・生産部門が15.6%、経営者・経営企画部門が13.2%と続く内訳であった。グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
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