Wi-Fi、6G、LPWA…… 最適な通信環境もう迷わない「エクストリームNaaS」とは?
新たな通信環境を創出する技術開発が進展している。不感地帯はなく、全陸地はもちろん海や川などの水中や航空高度の空中、さらに宇宙でも無線アプリケーションを利用できる。「ここは電波が悪いから移動します」という言葉を聞くこともなくなるだろう。その先端技術の一端を担う「エクストリームNaaS」について紹介する。
「エクストリームNaaS」とは?
NaaS(Network as a Service)は、拡張性のあるフルマネージドのネットワークサービスで、豊富なネットワークリソースから契約者の要求に対して最適なネットワークを提供するサービスを指す。そこに極度を意味する「エクストリーム」を重ねた「エクストリームNaaS」は、エンドツーエンドの無線領域にまで拡張していくNTTグループ発のコンセプトだ。将来的に標準化が期待されるミリ波帯も含む5G/6Gや無線LAN、LPWA(Low Power Wide Area)などの各種無線通信方式を包含し、環境や通信方式を問わず必要十分な性能で快適かつ安全な無線通信を可能とする。
NTTグループのIOWN構想と無線ネットワーク
NTTグループは従来より、ネットワークと予測や制御をするICTリソースを組み合わせ、環境条件を問わずアプリケーションの要求品質通りのエンドツーエンド通信を目指す「IOWN構想」(IOWN:Innovative Optical and Wireless Network)を推進する。既にコアネットワークや末端のアクセス回線、無線基地局といった中継部分も光による広帯域化が整備された。この光技術をデバイス内のチップ間やメニーコアチップ内のコア間の伝送、チップ内の信号処理などにも適用し、低消費電力かつ低遅延、大容量・高品質の各3項目を現在の約100倍に向上させる目標を掲げる。
一方、光ケーブルではなく電波を利用する無線アクセス領域は、セルラー系の5G(将来的には6Gも含む)をはじめ、ローカル5Gや新旧仕様が混在する無線LAN、各種方式のLPWAなどが利用されている現状がある。通信端末はIoT機器やスマホ、コネクテッドカー、無人搬送車(AGV)など増加の一途をたどり、扱うデータも動画や3Dグラフィックスのように大容量通信を必要とするため、輻輳(ふくそう)が必ず生じる。エクストリームNaaSは、そんな輻輳を避けてその場にある無線通信機器の性能を適宜利用してアプリケーションのパフォーマンスを最大化する。
従来は無線でのアクセスを円滑にするため、ネットワーク事業者やSIerなどが、エンドユーザーやアプリケーションが求める品質や帯域といった要件に見合う方式を無線エリア構築時に選択し、提供してきた。しかし実際のところ、どれほど優れたNaaSでも、対象エリアの環境の変化によって変動する電波環境に素早く追従することは困難だ。例えば、物流倉庫で無線環境を構築した当初は最適な電波伝搬状況だったが、物品の搬入・搬出や仮置きに伴う端末の増加やレイアウト変更、壁や物品の移動などの要因で電波伝搬状況が変わってしまう。
エクストリームNaaSは、上述のように変化する電波伝搬状況にリアルタイムで追従し、最適な無線アクセスの提供を可能とする。電波伝搬状況に応じて人やモノを移動させたり、人や端末が通信方式を切り替えたりする必要はなく、利用環境に最適な無線通信をネットワーク側で選択し、提供してくれる。ユーザーは電波環境や通信方式などを意識せずに快適なアプリケーション利用を実現する。
図のように、エクストリームNaaSの技術のポイントは、「無線アクセスの高度化」と「環境に追従するネットワークの提供」の2つだ。
エクストリームNaaSの技術のポイント(1)無線アクセスの高度化
現在のセルラー系の最新無線技術は5Gだ。その特徴は超高速大容量(eMBB)、超低遅延(URLLC)、超多端末接続(mMTC)だが、さらに拡張するものとしてBeyond 5G/6Gが想定される。エクストリームNaaSは5Gの拡張だけでなく、カバレッジを陸上では100%にし、さらに高度1万メートルの航空高度にも及ぶ空の上やドローン通信、海上、海中、さらには宇宙までカバーすることも視野に入る。また、1?以下の高解像度な測位とセンシング、ハイレベルなセキュリティと安全性の確保、99.99999%の信頼性保証といった高い要求事項も提起される。一方で、無線局免許が不要な周波数帯を利用して企業などが自営可能な無線LANや各種のLPWA(Low Power Wide Area)も同時に活用する必要がある。
電波を光で運ぶ技術「アナログRoF」
5G/6Gなどの通信性能を十分に発揮するには、ミリ波などの高周波数帯の利用がポイントになる。直進性が高く伝搬損失が大きい高周波数帯では、無線アクセスポイントを従来よりも多数かつ高密度に設置する必要がある。従来通り、基地局を増やすのは消費電力などコスト面の課題が大きい。これを解決するには、基地局を簡素かつ小型化し、低消費電力化した「張出局」の設置をするのが望ましい。張出局には従来の基地局機能の内、アンテナと増幅器などの最小限の機能だけを残し、変復調やビーム制御などの無線信号処理機能は、複数の張出局を集約する「集約局」が一括して担う。設置コストを抑え、消費電力を抑えながら、高品質な通信エリアを増やすことが可能だ。
張出局と集約局の通信は光ファイバーを介するが、間を流れる信号をデジタル信号ではなく、電波のアナログ波形をそのまま光強度に変換して流すことがポイントだ。これを「アナログRoF」(RoF:Radio-over-Fiber)という。伝送された光信号はO/E(Optical-to-Electrical)変換すれば元の無線信号に戻る。
張出局は複数の無線システムで共用が可能
もう一つのポイントは、無線システムの新設や更改も集約局側で操作できる点だ。張出局が最低限の機能しか持たないため、アンテナや増幅器の対応する周波数の範囲内では複数の無線システムが共用可能になる。張出局の容易な構築でカバレッジが拡大でき、基地局運用の負荷も大きく削減できる。
集約局から張出局の遠隔ビーム制御が可能
なお、高周波数帯の利用でシステム容量を確保するにはビーム制御が重要だ。NTT情報ネットワーク総合研究所では、集約局からの遠隔ビーム制御により、アンテナのビーム方向を変えられることを実証実験済みだ。
エクストリームNaaSの技術のポイント(2)環境にネットワークが追従
エクストリームNaaSは、あらゆる無線方式を使い分けたり組み合わせたりするため、全体を総合的に制御可能な制御、監視システムが必要だ。NTT情報ネットワーク総合研究所で開発中の制御技術群「Cradio」(クレイディオ)は、無線アクセスの利用環境の「把握」「予測」「制御」を担うなど、エクストリームNaaSの中核技術になる。
利用環境の把握技術
利用現場がどんな電波環境なのかは、建物や設備、物品などの構造や配置、アクセスポイントの位置、端末の数や位置などで変わる。それを把握するべく、研究チームは、施設の多様な端末からのデータ収集によって電磁界推定に即した3Dデータを抽出し、CADモデル化する「3D空間モデル生成システム」を開発する。また後述の品質推定、設計技術を用いて、伝搬モデルと周波数、方式横断の伝搬モデルを利用して無線品質の変化を推定し最適設計できる「無線ネットワーク品質推定/自動設計システム」を開発している。
実証実験では、物流倉庫の入出荷スケジュール情報から倉庫の空間モデルを生成し、倉庫内の物品配置に対して端末が移動しても、可動式の基地局を移動して追従制御できることを確認した。また同様に、電波の反射方向を電気的に変えられるRIS反射板(RIS:Reconfigurable Intelligent Surface、電波の反射方向を表面素子で電気的に変える機能をもつメタサーフェス技術)による仕組みを利用し、基地局を移動せず、RIS反射板の移動もなく端末移動に追従できることも実証された。
多様な無線アクセスを組み合わせて最適な通信品質を実現するためには、このような利用環境把握が基本になる。
無線ネットワーク品質予測・推定技術
無線通信品質と端末の位置、周辺環境などの情報を合わせて学習し、AI(人工知能)モデルが作成できれば、各端末の通信品質の変化を予測してプロアクティブにネットワークを制御できる。現在はさまざまな端末で測定された電波強度やスループットなどの品質情報を、位置情報や無線環境、時間帯情報などと合わせて学習して品質を推定する研究が進む。転移学習技術も利用して、データが少ない部分を補って推定精度を高めることにも挑戦しており、トラクターの自動運転にかかわる複数の無線アクセスを予測品質に応じて切り替える実証実験により有効性も確認されている。
無線ネットワーク動的設計・制御技術
上述の実証例でも示されているように、環境に応じた基地局位置などの自動設計や、可動基地局やRIS反射板(あるいは可動反射板)を利用して、環境変化に追従してカバレッジを変化させることができる。また同様にドローンや自動搬送車に基地局を搭載して適切に移動させると、局所での輻輳の回避が可能だ。また1GHz以下の周波数に対応させた新しいIoT向けの広域無線LAN(IEEE 802.11ah)についても、パラメータ制御による動的な環境追従の研究がされている。制御技術は他にも研究開発が続いており、今後の発表が期待される。
映像などの大容量データの活用や広域かつ省電力IoTをはじめ、無線通信のユースケースは現在も増え続けている。エクストリームNaaSはユーザーの負担を軽減しながら、多様で高度な無線アプリケーション活用の基盤になると期待される。
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