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法人向けAI翻訳サービスとは? 特徴と選定ポイント、運用の注意点を徹底解説

近年、AI翻訳サービスの精度が飛躍的に向上し、業務での利用を考える企業もあるだろう。市場では無料ツールも提供されているが、業務利用するにあたって注意点がある。法人向けAI翻訳サービスの特徴と選定ポイント、運用の注意点、事例を徹底解説する。

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 近年、AI(人工知能)技術の一つである深層学習の活用によって、言語を自動翻訳するAI翻訳サービスの精度が飛躍的に向上している。専門家に翻訳を依頼するよりもコストが安くわずかな時間で完了するAI翻訳サービスを利用したいと考える企業もあるだろう。ベンダーからは無料サービスも含めて幾つかのサービスが提供されているが、どのような基準で選べばよいのか。

 本稿ではAI翻訳サービスの導入ガイドとして、業務で無料AI翻訳サービスを利用する際の注意点とともに、法人向け有料AI翻訳サービスのメリットや機能、選定ポイント、運用の注意点などを紹介する。AI翻訳サービス業界の専門家であるNTTコミュニケーションズの戸田晋行氏(プラットフォームサービス本部 アプリケーションサービス部 AI推進部門担当課長)に話を聞いた。

無料サービスを業務に利用してはいけない? コロナ禍で企業の意識に変化

 AI翻訳サービスを提供するベンダーは各社ともエンジンの高度化に注力しており、翻訳の精度が拮抗している。無料サービスであっても有料サービスと同様の精度で翻訳できるため、業務で既に利用しているケースもあるのではないだろうか。

 AI翻訳サービスは、インターネットを経由して翻訳エンジンにアクセスするクラウド型サービスが一般的だ。サービス事業者のサーバに翻訳対象のテキストを送信する必要がある。無料サービスの場合、アップロードしたテキストは一定期間保存され、学習データなどに流用されることがほとんどで、機密保持が保証されていない。

 「DeepL翻訳(無料版)」のプライバシーポリシーは、「当社では、ニューラルネットワークと翻訳アルゴリズムのトレーニングおよび性能向上を目的として、入力済みのテキストおよびアップロード済みの文書ファイルとそれぞれの訳文を一定期間保存します」と記述し、原文と訳文を学習に利用すると明記している。Google翻訳の規約においても、ユーザーがコンテンツをアップした場合に、Googleがそのコンテンツを特定の目的において世界中で使用する権利を与えたことになる、とある。機密情報が含まれているビジネス文書を事業者のサーバに送信することに問題があると考えることもできるだろう。

 過去には、無料翻訳サービス「I Love Translate」に入力した文章が、検索サイト経由での閲覧が誰でも可能な状態で保存されていたという問題もあった。これは極端な例だが、翻訳サービスに社内文書やメールをアップロードした場合、その情報が漏えいしたり、盗まれたりする危険はゼロではない。

 これに対し、有料の法人向けサービスはセキュリティに配慮して設計されている。戸田氏によれば、近年はセキュアなテレワーク環境の構築に関心が集まった影響で、無料翻訳サービスを使っていた企業が法人向けサービスの利用を開始することが増えた。ユーザー企業の業種や職種はさまざまだが、用途としては、海外の顧客や自社海外拠点との会議に使う内部資料やメールの翻訳に使われることが多いという。

 企業によっては文書の内容自体に重大な機密情報が含まれていなくても、無料翻訳サービスを使っているというだけで問題になるケースもあることから注意が必要だ。

法人向けAI翻訳サービスの特徴と選定ポイント

 セキュリティの他にも法人向けサービスを利用するメリットは幾つかある。以下では、法人向けAI翻訳サービスの特徴と製品選定の際に知っておきたいポイントを紹介する。

翻訳精度

 AI翻訳サービスの精度 はここ数年で、流ちょう性や文章の統一性、専門用語の認知度ともに業務でも活用できるレベルにまで向上した。各社とも翻訳エンジンの高度化に注力していて、有料の法人向けサービスだからといって格段に精度が上がるということはない。一つの基準としてCOTOHA Translatorは、「TOEIC960点レベルのビジネスパーソンに匹敵する」とうたっている。これはNTTコミュニケーションズが独自に精度調査を実施して割り出したものだ(精度の測定方法についてはコラムを参照)。

 法人向けサービスは、あらかじめ固有の用語を辞書として登録する辞書機能 や、法務、財務などの業界用語、独特な言い回しを学習させた翻訳エンジンを提供しているケースがあり、専門用語の正確な翻訳という意味で優位性がある。辞書機能 については無料サービスから提供されている例もあるが、日本語に対応していないといった制限に気を付けたい。

 無料・有料の軸とは少し異なるが、海外製と国産サービスで日本語の訳文のレベルに差は出るのか。戸田氏によれば、国産サービスのCOTOHA Translatorは“ごぶさたしております”といった日本語ならではの表現が含まれた学習データをチューニングに使用しており、英語を母国語にしたベンダーのサービスと比較して日本語のニュアンスに配慮しているという。

 なお、AI翻訳サービスだけで業務シーンでの翻訳を100%完了できるかという問題については現時点でまだ難しく、訳が抜けてしまう、反対の意味に訳す、未知の単語に対応できない、曖昧な候補から正解を選べないといったケースもあるため、特に間違いのリカバリーが不可能な対外公式文書などの場合は最終的に人間のチェックは必要だ。法人向けサービスによっては、従業員や外部の翻訳家と訳文を共同編集するための画面を提供している場合がある。


図 COTOHA Translatorの法務・財務モデル(資料提供:NTTコミュニケーションズ)

コラム<精度調査はどのようにしているの?>

 翻訳レベルがTOEIC960点のビジネスパーソンに相当するという評価はどのように割り出したのだろうか。NTTコミュニケーションズでは、日本語のサンプル文書とそれに対応する英文を約100セット用意し、それぞれを変換エンジンにかけた結果を「変換後の言葉を母国語とする翻訳家」3人がチェックする。

 精度の評価は、「正確さ」と「流ちょうさ」の2つ観点で5段階評価する。3人の評価をスコア化して、総合的な翻訳精度として提示する。

 TOEICスコアによる評価は、TOEICテストで960点、900点――というスコアを持つ複数人でグループを作り、各グループに翻訳エンジンにかけたものと同じ文章を翻訳させる。その結果を人間が覆面評価し、COTOHA Translatorは960点のグループ平均値を上回る精度だったため、TOEIC960超の精度とうたっている。


翻訳スピード

 法人向けAI翻訳サービスは、翻訳スピードの速さにも重点を置いて設計されている。数十枚に及ぶ資料を翻訳する際、人間では数時間程度かかることが通常だ。これに対し、COTOHA Translatorでは、TOEIC960点レベルの人が翻訳に7時間かかる文書(400字詰め原稿用紙25枚程度)を、約2分で処理できるとしている。

ファイル翻訳機能

 法人向けのAI翻訳サービスには、テキストをコピー&ペーストして翻訳させるのでなく、PDFや「Microsoft PowerPoint」「Microsoft Word」「Microsoft Excel」などの会議資料やレポートをファイルごと翻訳する「ファイル翻訳」機能が付随している。

 この機能は、無料のGoogle翻訳やDeepL翻訳でも提供されているが、元のファイルのデザインや体裁の再現性という意味では、有料サービスに優位性があると言える。COTOHA Translatorでは、翻訳後の文書は、文字の色や太字、アンダーラインなどの文字装飾も含めて、原文を忠実に再現するように設計している。

 以下は、編集部でPower Pointの日本語資料をGoogle翻訳とDeepL翻訳(無料版)、COTOHA Translatorで英語に翻訳した結果だ。このケースでは文字サイズの処理や、図形とテキストの兼ね合いといった点で、COTOHA Translatorがより元の体裁を忠実に再現しているように見える。ただ、これはあくまで一例にすぎず、あらゆる体裁やフォーマットのファイルの翻訳結果を比較したわけではないので参考程度にとどめてほしい。


図 Google翻訳による日本語Power Pont資料の英訳。Google翻訳はWord、PDF、Power Point、Excelに対応している。

図  DeepL翻訳(無料版)による日本語Power Pont資料の英訳。DeepL翻訳は、Word、PDF、Power Pointの翻訳が可能。ただし翻訳文字数やファイル数が限定されている。

図  COTOHA Translatorによる日本語Power Pont資料の英訳。COTOHA Translatorは、Word、PDF、Power Point、Excel、txt の翻訳が可能。対応言語は、標準プランで5言語ペア。 (資料提供:NTTコミュニケーションズ)

 今回使用したPower Pointの資料は全部で25ページにわたるが、翻訳にかかった時間はいずれも1〜2分程度だった。操作もシンプルで、Google翻訳やDeepL翻訳(無料版)は、「ファイルを参照」というボタンの操作によって、COTOHA Translatorはファイルを規定のボックスにドラック&ドロップすることで文書を翻訳 できる。

セキュリティへの配慮

 ユーザーが翻訳サービスにアクセスする際に閉域網を設置して通信を暗号化するVPN接続機能や、翻訳ファイル を暗号化する機能、IPアドレスによる接続制限や二段階認証といったユーザー認証機能、翻訳結果ファイルを一定期間後に自動削除する機能は、法人向けAI翻訳サービスの代表的な機能だ。ユーザー専用のプライベートクラウド環境を構築し、翻訳エンジンや翻訳サーバなどのインフラを専有できるメニューの他、自社ネットワーク内にエンジンやサーバを導入するオンプレミスのメニュー を用意している場合もある。

 翻訳処理時に翻訳元のファイルから抽出したテキストデータは翻訳処理後にサーバから削除され、学習などの用途に流用しないといった秘密保持の規約を定めていることも法人向けサービスの特徴だ。自社開発した翻訳エンジンを使用していれば、文書のデータが外部に流出する心配はさらに低くなる。

 ただ、一部のサービスは複数の翻訳エンジンを使い分けており、翻訳言語によっては「Google Translate API」などの外部サービスを利用してその結果を自社サービス内で表示している。こうしたサービスは各翻訳エンジンの事業者と「データの二次利用は不可」とする個別契約を結んでいることは前提だが、 言語によってサービスポリシーやセキュリティレベルが変わることがあるため確認が必要だ。


図 サービスによっては「Google Translate API」を利用しており、精度やセキュリティ、データ保護規定はGoogle Cloudのセキュリティポリシーに従っている場合がある。

従量課金か定額制か

 法人向けサービスの料金体系は、従量課金制と月額料金制に大別できる。月額料金制は使えば使うほどコストメリットが出るため、大量の翻訳案件がある場合は有利な一方、翻訳件数が限定的な場合は従量課金制の方が安く済む場合が多い。

 COTOHA Translatorでは、月額料金制はユーザー数に応じて月額料金が決まるプランと、ユーザー数に関係なく料金が一定の上位プランを用意している。後者については、1社で数万のIDを発行して利用している企業もあり、1IDあたりの利用料は安く抑えられる。

運用の注意点

 せっかく法人ユースに耐えるAI翻訳サービスを導入したら、無料のクラウド翻訳サービスの使用は禁止にすべきだ。だが、これを徹底することはなかなか難しいと戸田氏は言う。シャドーITとして無料サービスを利用させないよう、IPアドレスの制限をする企業もあるが、全ての企業でそうした対応ができるわけではない。既存のものを制限するよりも、新しいセキュアなAI翻訳を積極的に利用してもらえるように社内プロモーションに力を入れている企業が多いという。社内用語の辞書登録を充実させ、社内用語をしっかり翻訳できるように精度を向上させることで、従業員がおのずと法人向けサービスを使うように工夫している企業もある。

10倍の速さで翻訳し、コストは桁が1つ減る効果を創出

 グローバルに拠点を持つある金融企業は、顧客向けの資産運用レポートを外部の翻訳業者に委託していたが、1万文字程度の原稿で20〜30日、1文字当たり数十円という時間とコストを課題に感じていた。外部委託では間に合わない場合は従業員が深夜残業で対応していたという。この状況を変えるためにCOTOHA Translatorを導入し、自動的に翻訳した内容を人がチェックする体制にシフトした。AI翻訳の精度は外部委託よりは落ちるものの、手直しの時間を含めても、これまで20日間かかっていた作業を2日ほどで完了できる。翻訳にかかるコストも“桁が1つ減る”までに削減できたという。

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