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「イラつき」の可視化で効果30倍、業務自動化の成功企業が実践したこと

属人化の問題で、業務効率の悪化が課題となっていたmediba。業務改善に着手したものの、次々と課題が明らかになりプロジェクトは難航した。しかし「イライラマップ」を用いた取り組みをきっかけにプロジェクトが大きく前進したという。

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 RPA(Robotic Process Automation)やAI(人工知能)を使った業務改善プロジェクトを進める上で課題となるのが、「現状を変える必要性を感じない」「自分ごととして捉えられない」といった現場のマインドだ。業務の属人化に悩み、業務改善プロジェクトに着手したmedibaも同様の課題に直面した。しかしある取り組みが功を奏し、業務改善に自主的に取り組む文化が定着しつつあるという。現場の自主性を促し、業務改善の成果をもたらす秘訣(ひけつ)について、同社の佐藤崇氏(テクノロジーセンター BPM UNIT Unit Manager)が語った。

従業員が付いてこない……RPAプロジェクトのボトルネック

 medibaはKDDIのau関連サービスの企画・開発・運用を行う他、自社開発のポータルサイトやアプリケーションの運用などを手がける会社だ。同社は、業務の効率化と属人化の解消を実現し、ものづくりのための時間を創出する目的で、2018年5月にRPAによる業務改善プロジェクトを開始した。第一段階として、RPAの適用可否を判断するためにデスクトップ型のRPAを、総務、経理、人事部門で試用するPoC(Proof of Concept)を実施した。

 PoCの結果、RPAが業務の時間削減や品質向上、従業員の心的負担の軽減をもたらすことが分かったが、幾つかの課題も明らかになったという。佐藤氏は「想定よりもRPA開発の難易度が高く、現場担当者による開発には限界があると感じました。他にも自動化対象業務の判断方法や開発時間の捻出方法、セキュリティの課題があると感じました」と振り返る。

 これらの課題を解決するために新たな体制を構築し、2019年2月からRPAの本格稼働を開始した。プロジェクトを統括するのは業務改善推進部隊として新設されたBPM UNITであり、統括(1人)や開発・保守(1人)、業務推進(2人)を担当する4人のメンバーで構成されている。RPAの適用範囲を現場部門から全社へと拡大し、RPAは新たにUiPathを採用した。

 新体制では、重要な柱として「制度や仕組み」「IT・ソリューション」「人の成長」の3点を掲げた。ロボット開発時のガイドライン策定やRPA製品の見直し、開発スキル向上のための研修・イベント参加などを進めたが難しい点もあった。「中でも『人の成長』、特に業務改善に自主的に取り組むマインドの育成が最大の課題でした。現場部門が気軽に業務改善に取り組むための環境を整えることは非常に重要です」と佐藤氏は語る。

タスク抽出の秘策「イライラマップ」で

 従業員のマインド育成のため、佐藤氏らのBPM UNITは「イライラマップ」の作成を提案した。イライラマップとは部署の全業務を書き出し、「作業量」と「イライラ度」の軸で各人の業務をカテゴライズしたものである。まずチームの全員が自分の業務を付箋に書き、模造紙に貼る。そして参加者全員で話し合いながら付箋の位置を決定し、チームのマップを完成させる。これによって、それぞれの業務の関係性を把握できる。佐藤氏は「イライラマップでお互いの価値観を可視化することで、他人と自分自身の認識にギャップがあることを知ることになります。社内に自律的な改善の文化を作り出せると考えました」と語る。

 イライラマップは、RPAやAIに適用しやすい業務を可視化する上でも有効だ。RPAやAIに適用しやすいのは、イライラ度が低く、作業量が多い業務だと考えた。この領域の業務は既にプロセスが明確化されていることが多く、ロボット開発の要件定義がしやすいからだ。それらの中でも、ルール化された判断を伴う業務はAIの適用に向いている。

 これに対してイライラ度が高く作業量も多い業務の場合、ボトルネックの要因は多岐にわたる。ここを改善しない限り、RPAを適用しても期待するような成果を上げられない場合が多い。最初にこの領域の自動化に着手してしまうとなかなか成果を出せず、従業員のモチベーションが低下してしまう。まずは業務に対する部全体の課題認識と仕組み自体の改善が必要だ。

 イライラ度が低く作業量が少ない業務は専門性が低い可能性があり、アウトソーシングできる可能性がある。反対にイライラ度が高く作業量が低い業務は、専門性が高く属人化している可能性が高い。これについては社内で知識を共有して属人化を改善しつつ、AIを使ったソリューションを適用できる例もあった。

 イライラマップを作成することで従業員が業務全体を俯瞰(ふかん)して見られるようになり、どの部分にRPAやAIを適用すべきかをスピーディーに判断できるようになったという。佐藤氏は「RPAやAIで業務の課題を解決した成功体験を社内に蓄積することは、ロボットに何ができるかを具体化し共有することでもあります。他の業務についてさらなる気付きを生み、業務改善の範囲を拡大することにつながります」と語った。

RPA削減効果が30倍に

 新体制による取り組みの結果、業務改善プロジェクトは2018年と比較して約30倍の工数削減を達成した(2021年度半ば時点)。RPAの企画から導入までの期間は平均で約1カ月、手動の業務の時間は50%以上削減できている。AIに関しては企画から約2カ月で運用を開始し、人とAIの協働という形で人員の削減、作業時間の短縮を達成している。RPAと同様に、人が手で行っている業務の約50%を削減している。

 成果を出せた理由として、佐藤氏は業務改善推進部隊と現場のコミュニケーションを挙げた。

「プロジェクトを推進する中で、自動化の頻度や範囲、品質を現状よりも上げたいと思っている従業員が非常に多いことが分かりました。業務改善を成し遂げるためには、イライラマップ作成などによって隠れたニーズをどれだけ引き出せるか、それを反映できるかが鍵となります。現場とのコミュニケーションを密にするだけでなく、言い出しにくい困りごとなどを丁寧に聞く姿勢も大切です」(佐藤氏)

 他の成功要因としては「改善工数を測定して公表すること」「イライラマップで業務を可視化し属人化領域に踏み込むこと」がある。属人化領域を可視化することで、社員に対して「これはあなたの仕事ではない」と視覚的に示すことができ、RPAやAIなどのテクノロジーをより有効に使えるようになる。佐藤氏は従業員の自主性を引き出して業務改善をすることが肝要だと締めくくった。

本記事は、UiPathが開催した「Reboot Work Festival Japan 2021」のセミナーの内容を編集部で再構成した


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