この大離職時代に知っておくべき人事、雇用にまつわる「5つのトレンド」
2020年を境に企業を取り巻く環境は大きく変化した。それはビジネスだけではなく、人事や雇用に対する考え方もだ。企業成長の源となる人材の雇用、マネジメントにおいて、今後どのような戦略が最善なのか。
大量離職時代には大きな責任が伴う。欠員が出たポジションへの人員補充や新規雇用に際して、人事部は2021年とは異なる対応が求められる。
Willis Towers Watson(WTW)のレスリーM.ジェニングス氏(タレントマネジメントコンサルティング シニアディレクター)は、「労働力人口の減少やパンデミックの長期化に伴って組織や業界が大きく変化したため、人材定着の課題が続いている」とHR Diveに伝えた。
ジェニングス氏とWTWの同僚は「こうした人材難に立ち向かうために、雇用主のさまざまな行動を観察してきた。しかし、従来の戦略の多くが『従業員体験』を意識したものだ」と語る。
雇用主はハイブリッドワークや職場オプション、差別化された賃金戦略など柔軟性に焦点を合わせ、そして報酬や福利厚生に対するアプローチも見直し、公平な報酬や技能給、契約ボーナス、表彰などに軸足を移している。加えてメンタルヘルスのサポートや金融教育のトレーニング、従業員への休暇の提供なども強化している。
2022年、人事担当者と組織に求められる戦略転換
人材を確保するために人事部門は最善策を講じる必要がある。ここからは、2022年にリクルーターや人材獲得担当者、マネジャー、人事部門が最優先で取り組むべき5つの課題領域を紹介する。
トレンド1:鍵となるのは「ニューロダイバーシティー」
性別や人種を超えて、現在、人事担当者はインクルージョンへの取り組みの一環としてニューロダイバーシティーに注力する。多様性と公平性、包括性を研究するテクノロジー企業カナリーズのマンディ・プライスCEOは「私は大手企業の神経障害者採用プログラムやセルフID(性同一性)キャンペーンを観察している。例えば、Microsoftはディスレクシア(発達性読み書き障害)を持つ従業員をサポートする技術を提供している」とHR Diveに語った。
また、「ヒューレット・パッカードでは、自閉症を持つ従業員が自閉症啓発トレーニングに参加する従業員とペアを組み、オンボーディングのプロセスを互いに支援する“バディシステム”を導入している」とプライス氏は続けた。JPMorgan Chaseが人材採用のためにパイメトリクス(注)を利用していることも紹介した。
(注)社会性や認知、行動の特性を測るゲーム形式のツール
パイメトリクスのゲームについて、「スキルや才能ベースに基づかない時代遅れの指標とは対照的に、候補者に適した職務を適合させるのに役立つ」とプライス氏は述べる。
トレンド2:勤務場所に基づいた賃金制度の廃止
データ分析企業ChartHopのイアン・ホワイトCEOは、WFH(Work From Home:リモートワークと同義)が登場したことで、勤務場所に基づいた給与制度を廃止する企業が増えているという。
「当社は何百もの企業の報酬サイクルを管理している。多くの場合、勤務地は報酬を決定付ける大部分を占めていた。人事部門は人材と勤務地のコストを見て、それに応じて調整していた」とホワイト氏はHR Diveに語った。今や多くのナレッジワーカーの職場体験において、勤務場所はほとんど関係なくなった。
「従業員にある地域への異動を通達し、オフィスに通勤してもらうのも一つの手だ。つまり、特定の場所に居てもらうということです。リモートで仕事をしていたとしても、同一労働ならば同一賃金であるべきだ」とホワイト氏は語る。
トレンド3:「DEIイニシアチブ」はZ世代の交渉役か破滅者か
ホワイト氏は「長らくDEI(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)は人事部の仕事と見なされていた。今、Z世代は多様性と公平性、包括性のある仕事を重視している。若い求職者は、DEIをおまけのようなもの、あるいは一時的なイベントとはみなしていない」と語る。2020年に実施されたMonsterの調査では、Z世代の83%が雇用主を選ぶ際にDEIへのコミットメントが重要だと回答した。
「若い世代は、雇用主に対して単なる無意識的偏見のトレーニング以上のことを要求している。これは彼らが企業で働くための絶対条件だ」とプライス氏は考える。
トレンド4:元従業員は「人材問題の解決策」になり得る
ジェニングス氏は、「業界や人材に関する潮流が変化しているため、企業は内部と外部の双方から新しい人材源を発見することが必要だ」と指摘する。
米国人材派遣協会のリチャード・ウォルキストCEOは、2022年に重要な人材供給源となり得るのは「口コミによる紹介」だと考える。これは労働者間に存在する信頼の要素であり、求職者と雇用主との間には存在しないものだ。
「求職者は『○○社で働くことについてどう思う?』と聞ける誰かを探している。良い思いをして退職した元従業員は、うまくいけば最高の採用ソースになる」とウォルキスト氏は語る。
さらに、人材問題の解決策として今話題の「ブーメラン社員(出戻り社員)」についても言及した。ウォルキスト氏は「再雇用に投資して、再び不快な思いをする必要はない。だが、ブーメラン社員は最高の人材供給源になり得る。彼らは他の職場で経験を積んだ後に、最も忠実な従業員となるかもしれない。隣の芝はいつも青く見えるものだ」と語る。
トレンド5:「流動性」が重要
米国に本社を置く保険企業Aonの北米評価実践リーダーであるアーニー・パスキー氏は、管理職はパンデミックという“新しい海”を航海する能力を身に付けなければならないとHR Diveに語った。そのための鍵は流動性にあるという。パスキー氏の観点では「人事担当者は3つのカテゴリーに分類される」と説明する。
1つ目は、「私は人事で何が起きているのか知っている。これがわれわれの対応だ」と言う自信過剰な人たちのグループだ。ただし、彼らが正しいかどうかは分からない。2つ目のグループは、「骨化」「石灰化」した人事担当者だ。パスキー氏は「『私たちはこの方法で人事を行ってきた。今のまま続け、現在のこの“嵐”を乗り切る』と彼らは言うが、人材採用はそううまくはいかないだろう」と同氏は語る。
そして最後は、「過去のパターンや前例が今後も通用するとは思えない」と、これまでの知識を全て捨てようとする人たちだ。パスキー氏はこれらの人事担当者に「シフトの割り当てで創造性を発揮できるか」「1つの仕事を2人でやる(ジョブシェアリング)ことはできないか」「福利厚生の組み合わせを変えることはできないか」「従業員に自分が働くシフトを選ばせることはできるか」「福利厚生の組み合わせを変えることはできないか」と自問自答することを勧める。創造的で機敏な思考を続ける管理者が、職場をうまくリードするのだと同氏は説明した。
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