操作ナビゲーションツールとは? デジタルアダプションで現場の「ムリ、ムダ、ムラ」を解消する:IT導入完全ガイド
アナログ業務で発生しがちな「ムリ、ムダ、ムラ」を解決したくとも、現場への適用に手間がかかれば、真価を発揮する前に使われなくなってしまう。現場を楽にして生産性を上げ、デジタルの効果を最大化する方法とは。
業務プロセスの見直しやデジタルツールの導入は現場の負荷を下げ、業務の生産性を上げるために検討される。しかし現場業務とのすり合わせやツールのカスタマイズ、作業担当者の習熟などのために一時的な負荷増大や生産性の低下が発生しては、従業員が「わざわざ苦労するよりは、多少非効率でも今まで通りの方法のほうがマシだ」と感じてしまう。そうなれば、どれだけ優れた案やツールでも定着は難しい。
そのため、これまで現場業務の改革には「強力なリーダーシップ」や「トップダウン判断による思い切った見直し」が不可欠とされてきた。負荷の責任を取れるリーダーがプロジェクトを率いる必要があったためだ。
近年、システムと業務のギャップを埋める方法として「操作ナビゲーションツール」が注目を集める。システムの改修やツールのカスタマイズは不要で現場の業務もそのまま、マニュアルを読んだり口伝の引き継ぎを受けたりする手間が不要になり、先述した「一時的な負荷の増大」を回避できる。従来の業務に適用すれば「ヒューマンエラーの抑制」や「紙マニュアルと口伝による引き継ぎ」といった属人的な作業を不要にできる。
具体的にどのような仕組みで、どのような業務に使えるのか。メリットや導入の注意点、価格などを解説する。
「システムUIと作業者の間」に入って定着を支援する「デジタルアダプション」ツールとは
操作ナビゲーションツールは、システムと作業者の間をつなぐサポートツールだ。業務アプリケーションの定着を支援する「デジタルアダプション」ツールの一種で、北米を中心に普及が進む。デジタルアダプションは日本でも認知が高まっており、2020年から2025年にかけて市場規模は10倍になるという予測も存在する。
操作ナビゲーションツールの利用イメージを分かりやすく例えると、いわゆるカーナビゲーションシステム(カーナビ)が近い。カーナビは、地図情報とドライバーの仲立ちとして機能する。目的地までの道のりや道路状況を伝えることでドライバーは運転に集中でき、紙の地図とは段違いに便利で安全に、効率よく目的地に到着できるようになった。
これをオフィス業務に当てはめると、例えば「社内稟議の方法を記したマニュアルを探す」や「業務アプリの使い方を前任者に教えてもらう」といった、本来の業務をこなすための“手段を探す時間”を解消できる。
具体的には、業務アプリケーションのUIと作業者の間にレイヤーを追加し、吹き出しやボタンなどで操作手順をナビする。ユーザーはナビの指示に従って操作すれば、目的の業務を迷わずに進められる。管理者は新しいシステムを導入したり、既存の業務プロセスを見直したりする際の操作マニュアルや説明会が不要になる。
操作ナビゲーションツールで何ができるのか
操作ナビゲーションツールは、ツールが「次はここを選択する」「ここにこのデータを入力する」といった操作を案内するものだ。以下で活用例を紹介する。
SaaS導入の迅速化、手戻りの抑制による作業効率アップ
操作ナビゲーションツールの導入は、北米を中心とした海外で進んでいる。例えばデジタルアダプションツール「WalkMe」を導入した大手生命保険会社では、SaaS導入にあたっての研修時間を導入前より150時間削減できた。適切なナビゲートによって入力ミスを抑制すれば、人間の目視に頼ったデータチェックやそれによる業務の停滞を防ぎ、作業効率を向上できる。とある医薬品メーカーでは、1人あたりのシステム操作時間が年間77時間削減できたという。
「たまにしか実施しない操作」のナビ
日常的に使うシステムの操作を便利にする以外に有効なのが「たまにしか行わない操作」の支援だ。例えば年末調整や結婚に伴う名字の変更、慶弔金の申請などが該当する。
これらの手続きは日常的に実施するものではないため、生産性を高める目的でのプロセス見直しにおいて優先順位が下がりやすい。そのため、手続きが必要になった際に「あの申請はどこから送ればいいのか」「このマニュアルで合っているのか」「誰に何を頼めばいいのか」などを手探りで調べる必要が出てしまい、入力ミスがあれば手続きが停滞する。操作ナビゲーションツールで適切な操作を案内すれば、それらの手間が不要になる。
システム改修なしで操作を簡易化できる
自社の業務に合わせて業務アプリケーションのUIを細かくカスタマイズしている場合、頻繁なアップデートや改修が難しくなる。機能アップデートサイクルの短いSaaSは標準のまま使いたいところだが、自社に不要な機能が表示されていたり、メニューが分かりにくかったりすればオペレーターは混乱してしまう。
そこでUIカスタマイズについては、業務アプリケーションに手を加えずに操作ナビゲーションツールで画面を補う方法が考えられる。アップデートがあっても不要なメニューを隠したり操作のヒントをUIに表示させる設定を用意すれば、ユーザーは混乱なく利用できるようになる。
複数のツールをシームレスにつなぐ
特定の業務アプリに依存しない独立したツールのため、複数のツールをまたぐ作業をシームレスにつなげられる。例えば「CRMの操作画面からSFAの見積書作成画面に遷移する」といった業務アプリケーションの切り替えを含む操作手順は、対面のOJTなら「次はこのツールを開いてこのボタンをクリックして」と簡単に伝えられた。オンラインにおいては、ナビゲーションをツールがそれを代行して細切れのツールを人間が操作でつなぐ“橋渡し”になる。
先述した大手生保会社は、経費精算と物品購買、サービス購買でそれぞれ異なるSaaSを契約していた。3つのSaaSを操作ナビゲーションツールでつなぎ、仮想的な総合システムのように見せることで、ユーザーがアプリケーションを意識せずに業務を行う仕組みを作っているという。
操作のログデータ活用、プロセスの見直し
利用者の操作ログを収集できるツールを使えば「ユーザーがどこでつまずいているか」や「プロセスのボトルネックになっている部分」をデータから割り出して導線やプロセスの見直しに利用できる。コンシューマ向けのツールに利用すれば、ECサイトでの購入や会員登録といったコンバージョンの改善にも活用可能だ。
導入に当たっての注意点
操作ナビゲーションツールはマニュアルの代わりとなるものだが、紙のマニュアルで保管が法で義務付けられる業務の場合は注意が必要だ。例えば2022年1月施行の改正電子帳簿保存法(電帳法)においては、以下のようなQ&Aが存在する。
Q:いわゆるオンラインマニュアルやオンラインヘルプ機能に操作説明書と同等の内容が組み込まれている場合、操作説明書が備え付けられているものと考えてもよいでしょうか。
A:規則第2条第2項第1号のシステム関係書類等については、書面以外の方法により備え付けることもできることとしています(取扱通達4−6本文なお書)ので、いわゆるオンラインマニュアルやオンラインヘルプ機能に操作説明書と同等の内容が組み込まれている場合には、それが整然とした形式及び明瞭な状態で画面及び書面に、速やかに出力することができるものであれば、操作説明書が備え付けられているものとして取り扱って差し支えありません。
法改正によってビジネスのペーパーレス化は進みつつあり、今後は上記のような縛りも緩和されると思われる。しかし現時点で適用したい業務が「紙マニュアルの保管」を前提としている場合は、該当する業務に特定の対応が必要になるだろう。具体的には、バージョン管理への強みなどを選定ポイントにする必要がある。
同様に、ツールによって対応が変わるのが「モバイル対応」だ。スマートフォンなどのモバイル端末で業務に当たる場合、ユーザーはPCよりも小さな画面を操作することになる。PCほどの情報を表示できないため、モバイル端末に適した表示設定ができるツールを選定する必要がある。
マニュアル作成の簡易化に特化するか、より高度なシステム連携や業務自動化を目指すかでも選び方や価格が変わる。ライセンスごとの月額が1000円程度のものや、大規模な導入を前提とした月額30万円超のものまであるのはそのためだ。
「ムリ、ムダ、ムラ」を解消し、IT投資の効果を上げる
ナビゲーションの作成は、事業部門がIT部門に依頼せずに現場でできるようノーコード/ローコードでの開発に対応するツールが多い。先述したWalkMeの場合は、システム画面上で操作する箇所を指定してナビゲーション情報を入力し、「ステップ」を登録する作業を繰り返す。
テレワークが一般化すれば、紙マニュアルや対面でのOJTはますます難しくなる。それに応じてWeb会議や動画教材による研修も増えているが、ドメスティックな「ツールの使い方」「申請の仕方」といった操作はどうしても「画面を見ながら、教わりながら」の工程が必要になる。これらを画面上で、自動で、ユーザーにとって必要な操作をピンポイントで案内するのが操作ナビゲーションツールだ。
前述したようにメリットは多いが、日本においてはまだ普及前の段階にある。ITRはデジタルアダプションを「新たに市場が形成されたばかりで規模はまだ小さい」と述べた上で近年注目が集まっていることを指摘、2025年度の市場規模は2020年度の10倍になると予測している(売上金額規模)。
せっかく導入したデジタルツールがユーザー体験によって実力を発揮しきれないままになっては、IT投資のROIを上げられない。操作ナビゲーションツールによるデジタルアダプションは、ユーザーの体験を向上し、DXの投資効果を最大化して、企業の成長を後押しするものと言える。
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