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「1年目でROIを出そうとするな」――RPAの“三重苦”を乗り越える方法とは

「RPAのROIが出せない」「RPA開発人材の育成が難しい」「一部の業務しか自動化できずに効果が頭打ちになる」――これまで13万時間以上の業務時間を削減したコニカミノルタが、自社の経験を基にこれらの課題を克服するための工夫を語った。

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現につながるテクノロジーとしてRPA(Robotic Process Automation)に注目が集まる。しかし「ROI(投資対効果)が出せない」「開発人材の教育が難しい」「一部の業務を自動化した後に効果が頭打ちになる」などの理由から、「プロジェクトは失敗だった」と見なす企業は少なくない。

 これら “RPAの三重苦”とも呼べる課題に対してコニカミノルタは、幾つかの工夫によってプロジェクトを成功に導けると話す。2022年4月12日に開催されたRPA総研主催のイベント「オンラインイベントリレー 2022 SPRING」にコニカミノルタの藤塚洋介氏(デジタルワークプレイス事業部 副部長)が登壇し、自社の取り組みを紹介しながら、RPA推進の課題を克服して成果を上げる秘訣を語った。

RPAの成功なくしてDXの成功なし

 さまざまな壁によってRPA導入プロジェクトは失敗だったとみなす企業は少なくないが、藤塚氏は「RPAの成功なくしてDXの成功はない」と強調する。その理由は2つあり、1つは「RPA推進のノウハウはDXの実現に役立つ」からだという。RPAを社内にスケールする段階では、組織横断的な業務を自動化するために組織の仕組みに手を入れる必要がある。「この組織変革はDXの実現においても必要とされます。RPAによる業務自動化プロジェクトのノウハウはDX推進においても役立ちます」と藤塚氏は語る。

 もう1つは「全てのシステムを刷新するようなDXは不可能」という理由だ。藤塚氏は「ビジネスは、SaaSをはじめとした多種多様なサービスと既存の基幹システムの連携で成り立っています。DXのためと言っても、これらを全て刷新するのは現実的ではありません」と語り、RPAを活用して業務フローを改善することがDX実現のためのベストな選択だと強調した。

「時短でハイクオリティな運用設計」と「上下の巻き込み力」が必須

 コニカミノルタは8年以上にわたり、RPAによる業務自動化プロジェクトに取り組んできた。これまでに13万時間以上の業務時間を削減し、400体以上のロボットを開発してきた実績がある(2022年4月時点、グローバル実績)。

 同社はこの経験を生かし、業務自動化プロジェクトを成功へ導くノウハウを提供している。藤塚氏によると、プロジェクトを成功させるにはDXについての正しい理解に加え、「時短でハイクオリティな運用設計」と「上下の巻き込み力」が必要だという。

 藤塚氏は「時短でハイクオリティな運用設計」について次のように語った。

 「成功した事例を参考にして、自社に合わせて運用設計をカスタマイズしておけば、失敗するリスクを事前に減らせます」(藤塚氏)

 コニカミノルタは自社の経験を生かし、ヒト(体制)やモノ(開発・運用)、カネ(投資対効果)やシステム(システム管理)に関するノウハウをブラッシュアップし、標準化して提供している。プロジェクトの目的を設定する方法や自動化対象業務の選定方法にも触れており、企業の目的に沿ったカスタマイズが可能だ。

 運用設計の次に必要なのが「上下の巻き込み力」だ。藤塚氏は「プロジェクトの成否は、メンバー同士がうまく連携できるかどうかにかかっています。トップダウンとボトムアップ両面からのアプローチが欠かせません」と説く。

 トップダウンのアプローチが必須なのは、プロジェクトにはコストや工数がかかるため、会社の方針と連動した施策が必要になるからだ。さらにトップダウンアプローチによって現場への影響力が増大し、部門をまたいだ連携が可能になる。一方でボトムアップアプローチは、実際に業務を知っている現場の知見を生かせるという利点がある。トップダウンとボトムアップ両面からのアプローチを可能にするために「上層部と現場の両方を巻き込む」ことが、プロジェクト成功の鍵になるという。

コニカミノルタが実践した、運用設計や巻き込み方の工夫

 セッションの後半はパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションにはIT企画部のメンバーである大川氏と浅田氏が登壇し、コニカミノルタによるプロジェクトの運用設計やメンバーの巻き込み方の工夫を語った。

――RPAによる業務自動化プロジェクトが失敗に終わるケースが多いというデータがあります。どのように感じますか?

大川氏: RPAによる業務自動化プロジェクトには、イニシャルコストのほかに教育などのコストがかかります。そのため1年目でROIを出すのは難しいと考えています。最初から2、3年目をターゲットにした回収計画を立てるのが望ましいでしょう。

――コニカミノルタの場合、何年目でROIが出る計算だったのでしょうか?

大川氏: さきほど「1年でROIを出すのは難しい」と言いましたが、実はコニカミノルタでは半年間のトライアル期間の後、1年でROIを出す目途が立ちました。結果的に目標を達成できたのは、対象業務の選定や効果の高いロボット開発に成功したことが要因だったと考えています。

――自動化対象業務の選定に成功したとはどういうことですか? 多くの対象業務を自動化したのでしょうか?

大川氏: 過去の改善活動で分かっていた「棚卸しはしたが、改善には至らなかった業務」の中から、自動化の対象業務になり得るものをピックアップしました。社内の全ての業務を棚卸ししてから対象業務の選定を始めると時間がかかってしまいますが、この方法であればそれほど時間をかけずにプロジェクトを進められます。

――RPAの推進で、失敗したことや困難だったことを教えてください。

大川氏: 開発者の育成です。私が講師として教育した人材のうち、教育を受けた後で実際に開発に携わった人は、全体の1割に満たない程度でした。その割合を2割や3割に増やすべきかどうかで悩んだのですが、結局はその1割に満たない人たちの開発サポートに注力することにしました。

 ただ、サポートの仕方には工夫を凝らしました。メールで質問を受けて回答する形ではなく、できるだけ直接話を聞き、一緒にPCの画面を見ながら分からない点についてアドバイスをしました。開発を二人三脚で進めることで、本番リリースにまでこぎつけるケースが増えたと感じています。

――マネジメントの観点からはいかがでしょうか?

浅田氏: プロジェクトの最初の段階で、上層部にROIの設定を納得してもらうのは簡単ではありませんでした。あとは工数が減っても実際の経費に結び付かないところですね。工数削減に価値があると認めてもらうのが難しいと感じています。

――プロジェクトを進める中で、上下を巻き込むにはどうすればよいと思いますか?

大川氏: 現場を巻き込む際には、親身になってサポートすることが重要です。プロジェクトの初期段階は関東圏のサポートが中心でした。しかしその後、関西圏からも要望を受けたため、隔週で大阪に出張してサポートを提供しました。要望があるということは、やる気があるということです。こちらから働きかけて相手をやる気にさせるのは難しいため、やる気のある人を逃さずにしっかりとサポートすることが重要だと思います。

浅田氏: 上層部を巻き込むには、プロジェクトの目標と進捗を逐一報告する必要があると思います。不十分な箇所を指摘されることもありますが、宿題として持ち帰り、結果を報告するようにしています。

――コニカミノルタの最新のDXへの取り組みを教えてください。

浅田氏: ここ1年ほどの間にRPAで創出できる効果が頭打ちになってきていると感じます。効果を拡大するために、データの転記などの業務の一部分だけでなく、ワークフローの構築やデータ集計などの部分も併せて自動化し、業務をエンドツーエンドで効率化できればと考えています。

 他にはERPの刷新に関わる自動化ですね。当社では業務に合わせたアドオン開発を極力せずに、業務をERPの標準機能に合わせようとしています。結果的に標準機能に合わずにこぼれてしまう業務をRPAで自動化する計画を立てています。大規模で簡単ではないプロジェクトですが、これまでRPA推進に携わってきた私たちのノウハウが生かせると考えています。

――今後ERPの刷新を行う企業は多いでしょうし、他社の参考になるノウハウをためていけたらいいですね。大川さん、浅田さん、本日はありがとうございました。

大川氏・浅田氏: ありがとうございました。

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