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従業員監視リスト、出社強要……「限界ブラック」を告発された企業はなぜ強弁を続けるのか

「従業員をリストで監視している」「テレワークをすると上司が電話で出社を強要してくる」「働いても欠勤扱いにされる」……1年前に「週の労働が100時間に上る」と告発されて話題になった企業の従業員が、匿名掲示板で変わらぬ惨状を訴えた。

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HR Dive

 従業員にとってテレワークや柔軟な働き方の採用は、多様な価値観を受け入れ、感染症対策にも配慮してくれる魅力的な施策だ。同時に「出勤を強要されること」は苦痛と言える。

 しかしエグゼクティブにとっての理想は、全員がオフィスに出社して積極的に交流しながら、事業のために一心不乱に働いてくれることなのかもしれない。そんなエグゼクティブの理想を実現しようとした結果「ブラック化」を告発された企業があった。2021年に同企業の若手従業員が訴えた「非人道的な勤務実態」は大きな話題になった。

 それから1年後、匿名の掲示板に「従業員が厳しく監視され、テレワークを続けるとハラスメントを受ける」といった投稿がされた。この投稿はメディアでも報じられたが、同企業は「事実とは異なる」との見解を通している。

メディアも注目の「従業員監視リスト」と、CEOの語る「理想の職場」

 実力主義とブラック化はイコールになるのか。早朝から深夜まで休みなく働く「モーレツ系」として知られる大企業内の反逆が話題だ。

 2022年3月、米国のメディア「New York Post」と「Business Insider」が、金融の大手Goldmanにおいて「従業員が勤務実態を電子的に監視され、出社を強要されている」という疑惑を報じた。これを受けて同行の従業員が、会社のメールアカウントで本人確認をしながら匿名で利用できる企業掲示板「Blind」でこの慣行を指摘した。

 New York Postの報道によれば、Goldmanの従業員がBlindに「チームミーティングで直属のマネジャーから、どの部署がオフィスでの決まり事を守っていないかをトラッキングする”監視リスト”を見せられた」と書き込んだ。また、別の従業員も「全員の出勤状況を追跡しているようだ。マネジャーは出勤率の低い人のリストを受け取り、彼らを出勤させるように仕向けている」と書き込んだという。

 Goldmanが従業員に出勤を強要していると疑われる背景には、同社CEOのデビッド・ソロモン氏の主張がある。

 ソロモン氏は、金融業界で最も声高にオフィス勤務の必要性を語る人物の一人だ。同氏は2021年の始め頃、COVID-19ワクチン接種の遅れに不満を表明し、感染対策として義務付けられたテレワークを「異常だ」と断じていた。

 同氏はオフィスにおける社員同士の交流は、Goldmanの強さを支える「シークレットソース」を構成する重要な構成要素である、とFortuneで語っている。

 「Goldman Sachsには、仕事を学ぶために何千人もの優秀な若者が集まっている。彼らが自分よりはるかに経験豊富な人たちと協力しあって仕事ができることが重要だ。その環境を分解してばらまいても、仕事はこなせる。しかし、この場所を唯一無二たらしめる基礎的なものはほころび始めてしまうだろう」(ソロモン氏)

 Fortuneによれば、Goldmanは2022年2月1日にニューヨーク本社を再開し、現在は本社に勤務する従業員の約半数が同ビルで仕事をしている。同社は今後出勤者の割合を増やそうとしているという。

 Business Insiderに匿名を条件に語った投資銀行アナリストは「200 West Streetへの出勤率は70〜75%くらいまで上昇した」と推定している。

 Goldmanのスタッフ4人はBusiness Insiderに対し、Goldmanは出勤率を測る指標として、オフィスへの出入りをスワイプ(swipes)で監視していると述べた。とある投資銀行アナリストは、監視されていることを確信していると述べた上で「週に3〜4回以上出社しなければ、事業部のリーダーから出社を促す電話が掛かってくる」と語った。

 また、ある資産運用会社のアナリストは同誌に「午前8〜10時の間にスワイプインしないと欠勤として扱われるかもしれない、と会議で通告された」と語った。同氏は「その時間以外のスキャンでは出勤したとみなされない。従業員を不安な気持ちにさせる仕組みだ」と語り、同僚が最近オフィスでの出勤記録に関して、上司から何度も電話をされて離職したことを明かしている。

 New York Postは、Blindユーザーの一人が「週5日の出勤を希望する人はいない。ハイブリッドワークやリモートワークを許可する会社も多い」と書き込んでいるのをコメント欄で確認した。

CEOは「ブラック問題」を訴えた若手に敬意を表した

 同社は2021年の春、13人の若手従業員が「非人道的な勤務実態」を明かして話題になっている。「週100時間労働の非人道性」「心身の健康状態の悪化」「将来への不安」などを訴える自己調査をマネジャーに提出した。

 従業員たちは経営陣に対し、週当たりの労働時間を80時間に制限すること、顧客向けプレゼンテーションの変更対応に12時間のリードタイムを設けること、金曜日の午後9時から日曜日の午前9時までオフィスを離れることを義務付ける「金融機関の土曜規則」(bank's Saturday policy)を尊重することを求め、状況が改善されない場合は退職することを警告していた。それに対してGoldmanは、人材の新規採用や過重労働の部署への増員、土日規則の強化、新規ビジネスに対する「選択的アプローチ」で対応したと、Financial Timesは伝えている。

 彼らの行動は、同年の春から夏にかけて銀行業界全体に大きな変化をもたらした。Goldmanのライバルの数社、そしてGoldman自体も、初任給を6桁の基準以上に引き上げたのである。

 さらにソロモン氏は、彼らが「名乗り出た」ことに尊敬の念を抱いたようだ。同氏は調査結果が広く知られた後に発表したボイスメモで「テレワークの世界では、24時間年中無休でつながっていなければならないように感じてしまう。同僚、上司、各部門のリーダーなどの全員が見ている。私たちはサポートとガイダンスを提供したい。簡単なことではないだろう。しかし、よりよくする努力を続ける」と述べている。

匿名をやめる勇気が会社を動かす?

 ソロモン氏は「Bloomberg」の取材に対して「懸念を自由に共有できる職場でありたい」と語っている。ただしBloombergは、Goldmanは「狭量な企業であることを自ら示している」とも伝える。報道によれば、同行は退職した元幹部に対して権利が確定していない報酬をロックしたり、同行が主催するイベントへの参加を禁じたり、権利確定して最長5年前に課税された株式ボーナスを現金化するのを阻止しているという。

 Goldmanのスポークスパーソンは、一連の報道に対するコメントを拒否した。しかし、同行に近い人物は、従業員の不満は広まっていないと語る。「New York Postは科学的な調査とは程遠い、誰も聞いたことのないオンラインフォーラムに投稿された一握りのコメントを選んでいる」。

 Goldmanに「文化的変化」を起こすための次のステップは、BlindユーザーやNew York Post、Business Insiderに情報を提供した従業員が匿名性を捨てることかもしれない。

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